第14話 「夜道で影だけは寄り添って。」
林くんの家からの帰り道、外は驚くほど真っ暗だった。
帰る方向は、何気にみんな似たような感じだった。
先頭を朋ちゃんとさやかが、その後ろを私と由美ちゃんが
並んで歩き、少し離れて三人の男子がついてきた。
そこに室岡くんもいるのだろう――
私は後ろを振り返って見ることはなかったけど、時折隣を
歩く由美ちゃんとの雑談の合間に聞こえた彼の声に、耳を
かたむけた。
ある程度歩いて、最初にさやかと由美ちゃんと同じ道で別れ、
そのあとしばらくして陣内くんと別れた。
残った四人で暗い夜道を歩く。
あ――としばらく歩いたところで朋ちゃんが言った。
「私こっち。」
立ち止まった朋ちゃんが、十字路の一角を指差して言った。
「塚田もこっちじゃないっけ?」
室岡くんが言った。
「あぁ、うん。井川さんちどの辺?」
「えっと、コンビニのとこの――」
由美ちゃんが塚田くんに説明する。
「そこなら俺通り道だから送るし。」
しばらくして塚田くんは言った。
「ホント?ありがとう。」と朋ちゃん。
「じゃあ私達ここで。またね、理子。」
「うん、気をつけてね。」
私と朋ちゃんはバイバイの手を振った。
「じゃあな、室岡。」と塚田くんが言う。
室岡くんがおぅ――と言うと、ふたりは通りを歩いて行った。
残ったのは、私と室岡くんのふたりだけになった。
「佐倉の家はどのあたり?」
最初に口を開いたのは室岡くんの方だった。
「駅の裏。歩道橋を渡ってすぐくらい。」
そう言った私に、室岡くんは”そっか”とだけ言った。
「てゆうか、実は俺んちも駅の方なんだよね。」
室岡くんが言う。
「どの辺?」と私は聞いた。
「駅前の美容室がある通りを行った辺り。結構佐倉の家に近い
のかも。」
今度は私が”そっか”と言った。
私の家と室岡くんの家は、意外と近いことを知った。
「んじゃ行くか。」
と室岡くんが言う。
私は「うん。」と言って、先に歩き出した彼について行った。
駅までの道は人気が少なく、静かだった。
私と室岡くんは、時々言葉を交わしながら足を進めた。
この時も、私は室岡くんから少し離れた後ろを歩いた。
街頭に照らされて、夜道に微かに私と室岡くんの影が映る。
そのふたつの影が、まるで寄り添っているかのように見えて、
それだけでたまらなく私はドキドキした。
あの影のように室岡くんと歩けたらいいのに――
前を歩く彼に、私は心の中で「好き」と云った。
彼はひたすら私の前を歩く。
言葉に出来ないことが歯がゆかった。
駅通りに出ると、周りは少し明るくなった。
室岡くんの家は駅前の通りだと言っていたので、おそらく彼には
歩道橋を渡る必要はないだろう。
「それじゃあここで。」
私は言った。
本当はもっと一緒にいたいけど、そんな事は口に出せず、出しては
いけないとも思った。
彼には彼女がいるのだから――
胸が締め付けられて、泣きそうになった。
ここで泣くわけにはいかない。
だって、目の前に彼がいるから。
「じゃあ、またね。」
そう私は言おうとした。
「やっぱ家まで送る。」
室岡くんが突然言い出した。
私は言葉が出なかった。
「せっかくここまで来たんだし、最後まで送るよ。」と彼は言った。
「そんな、悪いよ。それにもうそれほど距離もないし。」
歩道橋を渡って、最初の角を曲がるとすぐに、私の家はあった。
「それほどの距離じゃないなら、送ってもいいっしょ?」
笑いながらそう言って、彼は歩道橋に向かって歩き出した。
室岡くんの優しさが嬉しい。
でも、胸の奥がギュウってなるのは変わらなかった。
嬉しくて切ない――
だってその優しさは、私だけのために出たものじゃないから。
相手が私でなくても、彼はきっと同じことを言っただろう。
それが切なくて、また泣きそうになった。
「ほら佐倉、行くよ。」
室岡くんが言う。
うん――と言って、私はまた彼のうしろを歩いて行った。