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七章 地上への道程



「……?」

 水階段のフロアに出るなり、小晶嬢は急に周囲をキョロキョロし始めた。

「おい」

 出口と別方向へ行こうとするのをいち早く察知し、ユアンが腕を掴んで阻止する。

「でも、あちこちに人の氣が……」

「あいつ等の事は放っておけ。息はしていた。じきに目を覚ます」

 もしかして散らばった髭共が見えてるのか、この子?けど、少なくとも俺が提げたランプの照射範囲内にはいないが。

 鬼畜な相棒と違って優しい聖女は、止められても尚諦め切れないようだ。

「でも、弱っているようですし……」

「奴等は私の商売仇だ。起こされては非常に困る」

 言うなり折れそうな腕を引き、強引に階段を昇り始める。

「心配要らん、ゴキブリよりしぶとい連中だ。お前が治療しなくても勝手に治る。それより足元に注意していろ、滑るぞ」

 子供に諭すように言い、病的に細い脚に履かれたパンプスを確認する。相棒のブーツと違い、当然滑り止めも施されていないだろう。転んだ時に支えられるよう、俺も何時でも変身出来る心の準備をしておこうっと。

「はい。でも―――あ、そこ」

 指差す前方は未だ闇しか見えなかったが、数歩進むと黒いテンガロンハットが照らし出された。

「凄え。小晶さん、目が良いんだな」素直に感心する俺。

「こいつは夜目が利く上に、精神エネルギーを感じ取る能力がある」

 ユアンが解説する。

「へー。だから気絶している事まで分かったのか」

 髭の隣まで歩き、身を屈めて奴の口元に手を当て、呼吸を確認した。転んだ拍子に額を切ったようだ。縦一直線に血が固まっている。

「おい、行くぞ」相棒が苛立たしげに言う。

「でも怪我を……頭も打っています。病院へ連れて行って検査しないと」

 鋭い舌打ち。それが久し振りに会った片想いの女の子に対する態度か!?

「こっちは二人と一匹、奴等は四人だぞ?目覚めさせた所を一斉に襲われでもしろ、対処出来ん。それに危険性が低いとは言え、ここは遺跡だ。何時余計なトラップが発動するか」

「なら尚更放っておく訳には」

「小晶さん。実は俺達、こいつ等には結構酷い目に遭ってるんだよ」

 流石にこのまま治療されては困るので、横から助け舟を出す。

「手に入れる寸前でお宝を掻っ攫われたのも一度や二度の話じゃなくてさ。おまけに毎回遺跡の中を追い回されるわ、鞭で叩かれるわ、散々迷惑を」

 勿論嘘八百。実際お宝を手にするのはいつも俺達の方だ。こんな鈍臭い中年共に俺達最強コンビが遅れを取るかよ。

「え?本当なんですか、シャーゼさん?」

 吃驚するぐらい素直に信じ込む小晶さん。哀れな程おろおろし、恐る恐る翳した手を遠ざける。

「ああ、概ね間違いは無いな。こいつ等は礼儀知らずな上に野蛮極まりない。同じトレジャーハンターとして恥ずべき事にな」

「とれじゃー……はんたー?」

 暗闇の中立ったままも辛いので、再び二人は歩き出す。予想通り一段一段は高く、上りはかなりキツい。如何にも体力の無さそうな小晶さんが、手を引かれながら辛そうに息を吐く。―――倒れないよな、まさか?

「同じと言う事は、シャーゼさんも今はその職業に就いているのですね」

「そんなご大層な物ではない。要するに盗掘だ、泥棒と変わらん」

「そう、なんですか……?じゃあ、そのためにこの遺跡へ?ところで、ここは一体何処なんです?」

 今更それを訊くのか!?彼女、見た目通りかなり天然属性だな。この分だとユアンの恋心も気取りさえしていないに違いない。

「“紫の星”の、辺鄙な森の奥だ。“黄の星”へ戻るのに、どう頑張っても半日は掛かる、な」

 胸ポケットに差した水晶薔薇を示し、お前はこいつのせいで飛ばされた、しかも帰せないときている、冗談みたいな話だろう?やや自虐的に説明した。

「ええ。不思議なお話で、正直まだ少し混乱しています―――でも、お陰で今日こうしてシャーゼさんとまた会えました。その薔薇さんには感謝してもし切れません」

「!?フ、フン!五年経っても貴様はちっとも変わらんな。そんなに甘くて、よく生きていられる……」

 滅茶苦茶動揺しながら言われてもなあ。素直に私も嬉しい、ぐらい言えよこのボケ。

「じゃあ今日の成果は、その薔薇さん一本なのですか?わぁ、花びらがクリスタルで出来ています。茎と葉っぱも鉱物みたいですね……綺麗。こんな不思議な植物、今まで見た事がありません。学者の人に見てもらえば何か分かるかも」

「これはアーティファクトだ。普通の薔薇が喋ったり転移魔術を使ってたまるか」

「??」

 小首を傾げた彼女を無視し、お喋りは終わりだと言わんばかりにユアンは歩を進め始めた。



 ようやく長い階段を登り切り、開かれた門まで戻って来た。あと少しで外の世界だ。

 掴んでいた手を放し、ユアンが横目で疲労具合を窺う。道程が長かったせいか、まだ息が上がっている。

「疲れてない、お嬢さん?」

「はい。気を遣わせて済みません、ネイシェさん。私なら大丈夫です」

「そう?無理するなよ。歩けないなら何時でも負ぶるからさ、なユアン?」

「何故私に振る!?―――おい、幾ら体力の無いお前でも流石にまだ行けるだろう?ここから船着場まではとても背負えないぞ」

 意地悪な言葉の奥底にとてつもない不安を隠しつつ尋ねる。

「え、ええ、平気です。頑張って付いて行きますから、心配しないで下さい」

「フン、当たり前だ。改めて宣言するまでもない」

 駄目だこのツンデレ野郎!小晶さんは慣れているのか笑ってるけど、一体何処から手を付けていいものやら……。 

「そう言えばユアン。疑問に思ってたんだが、この扉って中からしか開けられないよな?一体誰がレバーを操作して閉めたんだ?」

 内部を見た限り、特に死体や骨は転がっていなかったように思う。恐らく管理者は薔薇の言った『儀式の人』だろうが、彼若しくは彼女は何処に消えたのだろう?

 すると奴は鼻を鳴らし、呆れたように俺の名を呼んだ。

「これだけあちこちから水がだだ漏れしている遺跡なんだぞ?入口が一つきりと言う方が不自然だろう」

「あ、成程」

 よく考えれば当然の帰結だ。大方無駄に広大な水階段のフロアの何処かに、外へ繋がる別ルートがあったに違いない。

 すると突然小晶さんが両腕を広げ、石作りの天井を仰いだ。


「聞こえる……古き祈り……あなた達は、精霊?」


 うわ言のように呟く彼女の周りに、不意に仄かな複数の蒼い光が灯った。時期的に一瞬蛍かと思ったが、にしては明滅の時間が異常に長い。精霊……そうか。ここに元々奉られていた連中が、彼女の呼び掛けに応じて現れたのか。

「そう……久し振りなんだ……うん。誰からも忘れ去られてしまうのは、とても寂しいね……」

 ゆっくり瞼を閉じ、身体を半回転させる。

「でも大丈夫……水は河を行き、やがて海へと流れていく……そして生命と交わって育み、またここへ戻って来れられるよ―――あの場所を離れられない私と違って」


 ドンッ!!「きゃっ!!」「おいユアン!?」トランス状態の人間の背中をいきなり張り手する奴があるか!?


「所構わず見えない奴等と交信するな。周りが付いていけん」

「あ……済みません。話をしたそうだったので、つい……」

 受信が途切れ、光が虚空に掻き消える中謝る彼女。

「フン。その間に宇宙戦争が勃発しても知らんぞ」

 意地悪な言い様に、思わず前脚で奴の頬を全力パンチ!

「った!何をするネイシェ!?」

「それが好きな女の子に対する態度かよ」耳元で注意する。「ってかお前、餓鬼じゃないんだからもっと優しく接しろよ。あと苗字呼び捨ては禁止」

「!!?だ、誰がこんな奴の事……!!」

 無意味な否定の証拠に、顔全体が真っ赤だ。図星を刺されて動揺しまくり。俺みたいな恋愛のプロから見ると、初々しさを通り越して最早若干小憎たらしい域だ。

「どうしたんですか二人共?」

「いや、何でもない。そら、もうすぐ地上だぞ」

 動揺を必死に隠そうと、足早に階段を上がる。数メートル遅れ、彼女もようやく陽の当たる場所に出た。太陽光の下だと、ただでさえ色白の肌が更に病的に見える。重度の貧血持ち確定だ。ランプで照らされていた時よりガリッガリに痩せて見えるし(何せバストが絶壁)……さっきはああ言ってたけど、森を抜けるまで本当に体力保つか、この子?

「こっちだ」

「はい」

 昨日の雨でまだぬかるむ獣道を、行きと同じくコンパスと地図を手に戻り始めるユアン。その左側をはぐれないよう健気に付いて歩く彼女。

(馬鹿かこの男は!?どっちか俺に持たせて、さっきみたいに手ぇ繋げよ手!!)

 つくづく阿呆な相棒を、俺は心の中で思い切り怒鳴り付けた。 




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