一章 謎の宝探し屋
「こんな所に遺跡なんてあるのかよ、ユアン?」
七惑星中、二番目に人口の少ない“紫の星”の奥地。梅雨特有の湿気に自慢の赤毛をびしょ濡れにされながら、奴の肩に乗って鬱蒼とした森を進む。
「当たり前だ。私の調査に間違いは無い」
背にはカーキ色の大きなデイバッグ。ベージュの鍔広テンガロンハットに、キャメルの丈夫な長い黄土色のコートとジーンズ。前はチャック(当然上着の方ですぞ御婦人方)で閉じられているが、襟から下に着込んだ白いTシャツが覗いている。腰のベルト両側には愛用の武器、剣と拳銃がぶら下がっていた。
半ばジャングル化した森に足を踏み入れた瞬間から、相棒は油断無く左手のコンパスを見つつ、時折デイバッグから地図を引っ張り出して方向修正を行う。何も言わない所を見るに、いつかの時のように磁場は狂っていないらしい。まぁ、あの遺跡の時はこいつが歩数を測って人力で地図を描き直し、何とか無事最深部へ辿り着けたのだが。
「後どれぐらいだ?」
「もう十分も掛からん筈だ」
相変わらず愛想の無い返答。
―――フン、狐の子供か。
住処の森を洪水で流され孤児になった俺を、偶然発見したユアン・ヴィーは拾ってくれた。それ以来“白の星”瞑洛の宿屋、『鳳凰亭』の二階の一室に同居する関係だ。毎月家賃を払っているので、どちらかと言えば下宿に近い。
宿の主はヴァイア・スーン未亡人。最近更年期で少しぽっちゃりしてきた、俺の第一愛人だ。とにかく飯が上手い。そして素性の怪しいこのムッツリ野郎を、イケメンと言うだけで快く迎え入れた豪の女性でもある。
そうだ。説明がまだだったな。―――この推定三十路間近の銀髪野郎。名前は全くの偽名(本人の証言に因り)、過去も一切シークレットの謎男だ。四年も一緒にいる俺でさえ、未だ本名すら教わっていない。知っているのは、こいつが『かなり』宝探し屋らしくない宝探し屋だって事だけだった。
「ネイシェ、着いたぞ」
森が開け、石床で作られた目的地の広場が現れた。―――ついでに中央に聳えた紋様入りの石塔を力任せにどけようとする、四人の屈強な男達も。
「チッ、やっぱ先回りされてたか」
思わず舌打ちが出た。樹の陰に隠れたユアンも、フン、相変わらず馬鹿な髭共だ、想定内だと言いたげに鼻を鳴らした。
奴等のボスは石塔を後ろからロープで引っ張る、四十代後半の黒髭もじゃもじゃのオッサン。黒いテンガロンハットを脱ぎ、額を流れる脂ぎった汗を拭う。
奴の名はバラッグ・ビータ。野心家で小狡く、見ての通り頼れる仲間もいる、正に宝探し屋の鏡のような商売仇だ。同じ街在住と言う事もあり、これまでにも何度か鉢合わせした。今回のように遺跡でも含めて、だ。
「駄目ですぜ親分!一ミリも動きゃしねえ!」
「近くに起動スイッチがある筈だ。野郎共、探せ!」
親分の命令に三人の部下が一斉に四方へ散る。髭はしばらく広場を歩き回った後、俺は向こうを調べてくるか、そう呟いて徐に奥を流れる滝の方へ消えて行った。
「やれやれ、やっと行ったか」
「毎度毎度騒がしい奴等だぜ」
本音を言えばいつもワイワイ楽しそうで、少しだけ羨ましく思ってはいる。ユアンは必要な事以外口にしない主義だし、絡むに絡めない。下手に話し掛けると殺意付き視線で睨まれるしな!全く、いたいけな赤狐に対する態度じゃないだろ!
動物虐待者予備軍は一枚の石畳を踏むなり、会心の笑みを浮かべた。「ここだ」言うなり腰の剣を外し、隙間に差し込んで強引にこじ開ける。
ギィ、ギィ……ガコン!
外れた床石を蹴りでどけると、暗い地下には階段が続いていた。
「おいそれ、正規の方法か?」
「知らん。要は入れれば何でもいい」
「ちゃんと仕掛けを解かないと、後々拙いんじゃあ」
「漫画の読み過ぎだ」石塔を指差し、「機構はとっくに壊れている。従ってトラップも作動する理由が無い」
余裕たっぷりに断言しやがって……しかも恐ろしい事に真実を射ているんだよな、大抵。
「行くぞ」
「ああ」






