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深夜遅く。
ミズキがその異変に気付いたのは偶然だったのか、それとも運命だったのか。
得体の知れない胸騒ぎを鎮めることがどうしても出来なくて、その異変の原因を調べるために何故か通常は使わない地下のサブコンピュータールームに向かって。偶然にも異変の原因に出会ってしまったことはやはり、運命だったのかもしれない。
「こんな時間にそこで何をしているの?!」
ミズキの誰何に、その人物はゆっくりと振り返る。その顔には、これまで見たこともないような冷酷な表情が貼り付いていた。
「何故ここに来た? どこから嗅ぎつけたかは知らないけど――その勘の強さで今まで生き延びてきたんだろうけど、今回は逆だったね。不用意な行動は身を滅ぼすよ」
ぞっとするほど冷たい声で、その人は囁いた。
一方ミズキは事情が全く理解できなくて、言葉を無くして立ち竦んでいた。
「申し訳ないけれど、見られたからにはこのまま帰ってもらうことは出来ないだろうね」
銃口を真っ直ぐに向けられ、ミズキは息を飲む。恐怖よりも先に、現実を受け止められない気持ちの方が大きかった。
「どうして?! マーディン、どうして!!」
何故彼がこんな行動を、態度を取るのか。混乱したミズキの頭では全く理解が追いつかなかった。
「自分が何をやっているのか、分かってるの?! メインコンピューターに異常な負荷が掛かってるわ。それにシステムが悪質なウイルスに浸食され始めてる――このままでは自己防衛システムが暴走して、基地ごと大破してしまうわよ!!」
「――知ってて、やってるんだ」
静かな、ぞっとするほど静かな声音だった。
マーディンの声には怒り、苛立ち、諦め、苦悩……、様々な感情が混じり合っているように感じられた。
「君たちに対する重大な裏切り行為だということは、重々承知している。しかし、僕にはもう、これ以外の選択肢は、ないんだ……――」
彼はゆっくりと歩み寄ってきた。
その顔が奇妙に歪む。見たこともない表情だった。どう表現すればいいか、ミズキには適当な言葉が思い浮かばない。敢えて言うなら、狂気、だろうか。静かでありながら、熱い。そして、その奥に見えるものは、底の知れない真っ暗な恐怖――。
「火星は君たちが想像している以上にずっと、ずっと病んでいる。あれはもう、瀕死状態なんだ。誰も何も救えないほどに……」
「わからないし、理解できないし、信じないわ!」
「君たちに理解してもらおうとか、信じてもらおうとか、全く思っていない。でも僕は、そんな火星の駒になるしかなかった――僕の唯一のもののために」
ミズキに銃口を向けたまま、彼は静かに語った。その瞳に、迷いの色は全く見られなかった。
「貴方、火星の体制についていけなくて亡命したんじゃないの?」
マーディンは薄い笑みを口元に刻んだ。
「ああ、その通り。でも故郷は僕の裏切りを決して赦してはくれなかった」
「これは初めから仕組まれていたことだったの? ブランシュが墜ちてきたことも、何もかも、初めから全部っ!!」
彼は答えなかった。肯定も――否定もしなかった。
ミズキは悔しくて、思わず唇を噛んだ。悔しくて、どうしようもなく悔しくて。そして、それ以上に胸を締め付けるのは深い悲しみだった。信じていた友人の裏切りが信じられなくて――そして恐らくあの少女までも自分を欺いていたことがとても、悲しかった。




