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あの僅かの空白の間、月上宙では前代未聞の戦法が展開されていた。
「どうしてそんな無茶するの!!」
ミズキは感情を抑えることができなかった。
彼女の正面には、真っ白い少女がちょこんと所在なさ気に椅子に収まっていた。ブランシュはどうしてミズキが顔を真っ赤にして怒り狂っているのか全く理解していないようだった。
前線から帰還した兵士やセルジスからの報告によると、ブランシュは第二陣の一員として出撃後すぐに何の躊躇もなく、敵軍の中心に向かって突撃したらしい。慌てて追走したセルジスを巻き添えにして特攻を掛け、一時は彼すらブランシュの機影を見失ったこともあったようだ。そして大軍を引き連れるように戻ってきたかと思えば、こともあろうにセルジスの機体を盾にして敵の猛攻をやり過ごし、それによって得た優位な態勢を利用して、敵の大半を撃墜してしまったらしい。
それは後々の語り草になるような見事としか言いようのない、墜としっぷりだったらしいが、そういう問題ではない。今回の件で、セルジス自身には特に怪我はなかったものの、機体は結構な被害を受けた。
「あんな無茶苦茶な戦法って見たことないわよ! 貴女、火星でもあんなことしていたの? とても信じられないわ……」
もし、本当にそうなら今までミズキが知恵を絞っても少女を墜とせなかった理由は明白だ。滅茶苦茶だからだ。撃墜出来たのは、幸運か、偶然が重なったためだろう。
「それに味方を盾にするなんて……」
「お言葉ですが、自軍の被害を最小限にし、敵軍を撤退させるには最も有効でした。セルジスさんの実力がゼノンさんと同等であるなら、あの場面における生還率は9割以上でした」
「確立の問題じゃないわよ」
ミズキはブランシュの頬を平手打ちした。
少女はさすがに俯いて黙り込んでしまう。
「私が心配しなかったと思っているの? 妨害電波のお陰で戦況が把握できない。なのに貴女は無謀にも敵陣に突っ込んでいってしまう! 無傷で帰ってきてって言ったよね?! エリード博士は貴女に毎回こんなことさせたの? 何か言われなかったの?」
「ミッションに関しては内容よりも結果を求められました。博士からは任務完了後には毎回口頭での報告を義務付けられていました――それ以外は何も」
ミズキは思わず目を閉じて、大きく嘆息した。
予想していたとはいえ、酷い話だった。
今回の件でまた会議が開かれるだろう。少女の功績を差し引いたとしても、会議が再び踊り狂うことは安易に想像できる。ミズキの米神に鋭い痛みが走った。
「私は貴女をもう二度と戦場に出すつもりはないわよ。普通の女の子に戻る努力をなさい」
厳しい口調で告げるミズキの瞳をまっすぐに見上げたブランシュの瞳からは、何の感情も読み取れなくて、ミズキはどうしようもない無力感に沈んだ。




