お母さん
パーティーの翌日。ディアヌ姫に見送られて、旅を再開した私達。このまま直接馬車でフジへ行く事に。日程は問題ないんだけど、人間には……。
「おい!フジでサホと協力するのは俺だからな!」
「……ご自由に」
「何だその態度は!お前やる気があって無理矢理入ろうとしてたんだろうが!それをご自由にだあ?ふざけるのもいい加減にしろ!」
「……御者に聞こえています。怒鳴ってばっかりで恥ずかしいですよ」
「ぐぎぎ」
これだ。とにかくシフォンとルイスの仲が悪い。シフォンとアルドはそうでもないのに。私とシフォンは……。
「沙穂様、何か?」
「ううん、何でも」
「お疲れでしたら言ってくださいね。ああ、私のほうが若いですからお構いなく。それに王宮の医者から様々なものも受け取りましたので」
「う、うん。」
意外にも結構尽くしてくれる。王家の人には新入り侍女として旅の同行を許可されたから、シフォンは堂々と旅に参加している。けど、私、地位以外でこの子にこんなに尽くされるような理由があったっけ……?
馬と御者さんを休ませないといけないので、近くの宿場町で小休止。何だか宿場町がサービスエリアに見えてくる。
「サホ様、お手を」
入り口近くに座っていたアルドが先に降りて私に手を貸してくれる。素敵、と感心するより前によく訓練されてるなと思ってしまう。だって親切されたら普通自分もしなくちゃいけないよね?でも私にこういう気のきく行動とか無理そう。気がきくってどうやって生まれるのかな。
「では、シフォンも」
私が降りてから続いてシフォンにも手を伸ばすアルド。そうだ、シフォンは私より小さい子だもの。何となく自分のことばかり考えてた自分が恥ずかしい。
「シフォン?」
シフォンは二回声をかけられるまで放心状態?だったみたい。慣れない馬車旅だったからかな?アルドの声を聞いて慌てて降りる。その後にルイスも降りる。四人揃ったあとは適当な飯屋でお昼にする。……元の世界で某有名遊園地の帰りに同じようなことしたなあ。
アルドが好みはございますか、と聞いてくる。優先的に私に聞くのってやっぱりミコサマだからだよね。思い上がってはいけない。でもそれなら私はミコサマとして色んな人を思いやるべき、よね?
「私は何でも。ね、シフォンは何を食べたい?」
メンバーで一番若い彼女の意見を聞いてみる。するとシフォンは驚いた顔をしたあと「お…いえ、沙穂様が食べたいものをご一緒したいです」と言った。聞いた意味がない。……それとも私がやったのって無神経な行動だったのかな……そうだよね、一応偉い人の前で自分の意見通すとかできっこないよね。
店のおススメ一覧表みたいなチラシを受け取って吟味に入る。みんな若いほうなんだからがっつり食べられるところがいいのかなあ、でも……。
ちらりと横目で見ると、宿場町はそれなりに復興してはいるが、脇には瓦礫の山が見える。先日の大地震の爪痕だ。うーん味や量より落ち着いて食べられる場所のほうがいいだろうか……。四人ってそれなりいるほうだよね?
と、その時に再び世界が揺れる。
「お母さん!」
「サホ!」
積んであった瓦礫が崩れて私めがけて飛んでくる。落ちてくるではない。激しい揺れの中では無機物は四方八方に飛ぶのだ。それが直撃する前に私は、ルイスに抱き寄せられて事なきを得た。
「馬鹿やろう……!心配させんな……」
揺れがおさまり辺りがざわざわし出してようやく、自分が死にそうだったのだと実感する。恐怖に震えた後、助けてくれた顔をじっと見る。なんとなく、私は照れた。
「ご無事で何よりです、サホ様。……ところでシフォン。貴女は先程『お母さん』と叫んだようでしたが、近くにご両親でも?」
事態が落ち着いたのを見計らってアルドがシフォンに疑問をぶつける。そうだ、瓦礫がぶつかりそうになった時、シフォンは確かに叫んだ。お母さんと。
「……私、そんなこと言いました?ああ、言ったかもしれませんね。無意識に助けを求めて」
確かに。さっきみたいなのは非常事態だもの。突飛な行動したところで何の違和感があるだろう。でもそうすると……シフォンの両親は一体?
「馬鹿ですよね。もういない両親にすがるなんて。一人だから……しっかりしなくちゃいけないのに」
その言葉にシフォンの境遇を察する。簡単に聞いていい話ではないだろう。同時に考えると、そんな境遇だから魔力が高くなった?(不幸な境遇だと精霊からボーナス的に魔力を貰えるらしい)からそれを利用して何とか旅の一行に加えてもらって生活を維持しようとした、という事なんだろうか。
「ああ、お昼どうします?今ので屋台も壊れたところ多いみたいですけど」
はっとして見れば屋台やら無事な飲食店やらがざわざわしている。……切羽詰った感じはないから怪我人などはいないようでほっとする。そうえば、私も一応魔法使いなんだよね?
「魔法を使って復興の手伝いを……ですか」
アルドに聞いてみるけれど、魔法なんて、少なくともこのユージェルでは値段がただの兵器みたいなものだから、平和活動には根本的に不向き。もっというとアルドは傍系の出(直系は何かの事件で絶えたらしい)だからそれほど扱いは上手くはない。また、私、御子も三代目がピークで魔力の量も質も衰えつつあるって……。地面に手をつけて祈ると振動起こしたり植物の成長を早めたりできるのにこれで弱いの?
振動は論外。植物の成長は確かに役に立つがいいように利用されるのがオチ。との言葉で無事な店で食事を取った後はさっさと旅立つことに決定しました。御子様とは何だったのか……。
「沙穂様はお人好しですね」
食事後にトイレに行ったらシフォンもついてきた。女二人いれば世間話に花が咲くというもの。最近地震が多くて怖いね、もっと酷いところもあるのかな?ねえねえ、男の人達には言えないけど、復興支援もろくにしなくて、私ちょっと御子様の自信なくしそう、と一方的に私が話してる感じだったけど。
「お人好し?」
「……私がいなかったら、王宮に帰らずに旅を続けて王女様は崩御。溺愛していた父王は怒り狂って追捕令を発動。沙穂様は逃亡を余儀なくされていたと思います。そして終わりなき旅の途中、そんなお人好しを見せて貴女は捕まって死に……そうですね」
自分の仕事の良さを自慢しているのか私が貶されてるのか、結局何が言いたいんだって話をシフォンはした。顔に出ていたのかシフォンが「ごめんなさい」と謝る。またやった。大人気ない。
その夜は街道沿いにある宿屋に泊まる事となった。でも眠れない。ずっと考えてしまう。御子様って相応の仕事をするから御子様なんだと思っていたのに。困ってる人を置いて私って何なんだろう。……空の穴を塞ぐだけでも凄い事だって言うなら仕方ないのかなあ。
――眠れぬのか、サホ――
一人部屋の隅でぼんやりしていたら、地の精霊、ノームから話しかけられる。うわあ、精霊にまで心配させてる。そして精霊の声は既に横になっていたシフォン、隣の部屋のアルドまで起こしてしまったようだ。ああ、私が悩んだりしているから……。
――思い悩んでいるようだが、それはシフォンの事か?――
「シフォンがどうかしたの?」
「ノーム!やめて!」
――しかし、このままではお前が気の毒だろう――
耳飾りのノームはシフォンに言ってる?シフォンは精霊と何か縁でもあるの?
「……気の毒なのは私じゃないわ。もういいからやめて」
「シフォン、何か悩み事でもあるの?私は力になれないの?」
――サホ。せめてお前だけでも知っているべきだろう。シフォンは未来から来たお前の娘だという事を――
理解が数分遅れた。




