表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れない異世界  作者: リック
嫌われジュリエットの末路
34/43

言葉

「何が敵だ。私達からすれば、お前達こそ権利もないのに主張だけはいっぱしのゴミどもだ。ミリー!」


 後ろからザカリアがロンを挑発するように罵る。ゴミって言葉にかちんとくるけど、殺されそうになって平和主義を唱えられるほどのメンタルは私にはない。


「はいです! じゃあね、暴走将軍さん。言っとくけど火の申し子はミリーのほうが適任だから! 絶対に……」


 少女が私を庇うように前に立つ。危ない。相手は短剣を持った、身長も体格も全然違う男だ。そう思ったのもわずかな間。彼女はハーピーを倒したロンと同じように手から火を噴き出す。


「くっお前も火を……!?」

「ザカリア様! 今ですよ!」


 ロンが思わず怯んだ隙をついて、ザカリアが呪文を唱える。


「まやかしの霧、移動する風……」




 その時に意識があったのはここまで。次に気がついたら私は、王都にいた。ミリーと呼ばれた少女が心配そうに私を覗き込む姿が目に入る。


「ミリーは貴女の侍女も兼ねてるのです! 遠慮なくお申し付けください! じゃあザカリア様を呼んでくるのです。大人しく待っててください?」


 小さい子が頑張って敬語を話そうとしている姿は微笑ましい。お陰で、鬱な気分も少しだけ紛れる。


 ロンは、私を殺そうとした。殺したいと言った。母の代に何が起こったのか、これで大よその検討はついた。

 何かのはずみで母の他にもう一人ここに呼ばれてしまった。それが、あの行方不明者の張り紙の未央さん。ここの王様は未央さんに惚れた。母はそれが気に食わなかった。救世主の義務を果たしていざ帰る段階になって、文字通り置き去りにしたのだろう。王様は移り気な人だった。未央さんが歳をとると若い女性を妻にした。未央さんとその子、オルドの扱いは悲惨だったろう。そもそも何のつてもない異世界者が王という権力者に嫁いで問題が起きないなんて思えない。母は何という情けない事をしてくれたのか――。


 ベッドで溜息をついていると、扉が開く。ミリーだろうか?


「君が、リホ? 今代の救世主?」


 入ってきたのは若い少年だった。何だ男の子か……で終わらせようとしてその少年が普通ではない事に気づく。まず容貌が美しい。……のに、オルドとどこか似通っている。仕草に品がある。着ている物もそれ高級品ですよね? ……まさか


「殿下?」

「あれ、話したっけ? ボク。まあいいや。初めまして、ユージェルの正統な王位継承者とはボク、リッピのことだよ。よろしくリホ」


 そんな人が女一人で横になってる部屋に来ないでくださいよ! ミリー! ミリーはどこ? 今すぐ来て! 敬語馬鹿にしてごめん! 私だってまともに喋れなかった!


「あ、あの、私に何か……?」

「用事がなくちゃ来ちゃいけないの? 酷いなあ。ボク、ずっと憧れてたんだよ、侍女身分の異世界民ではない、正統な救世主様」

「???」

「父上も仰ってた、やっぱり何でも本物がいいって。本当だよね。最後は愚痴だらけで嫌味なおばさんと化してたミオなんて話にならないや。君可愛い!」

「え、えっと……」

「ねえ、旅が終わったらボクと結婚してよ!」

「……ええ!?」


 理穂の居る寝台に腰を下ろして無邪気に彼は笑う。展開が速すぎて理穂にはついていけない。


「ねえいいでしょう?」

「あの、その、あの、突然そのような事を仰られても私には……」


 最後には涙目でおろおろし出す。少年殿下は綺麗な顔をしていたが、寝台に許可を取らずに座ったりするデリカシーのなさ、背後の権力……ひいては返事の強制力。胸がときめくより先に恐怖と怒りで息も絶え絶えになる理穂だった。


「お待たせしましたー……って殿下ぁ!?」


 そこへようやくミリーが部屋を訪れる。後ろにザカリアと伴って。現場を見てミリーは冷や汗をかきながら背後のザカリアを見上げ、ザカリアは寝台で横になる理穂の隣に堂々と座るリッピを睨んでいる。


「リッピ様。ここはどうかお控えください。彼女はならず者達に閉じ込められていて、心身ともに疲れておいでです」

「嫌だね。何でボクがお前の言う事など聞かなくちゃならない?」

「ならば強権を発動しますか? そして私を殺しますか。伯父を殺したように」


 何で次期王様と自分の従者が険悪なんだろうと思っていたら、爆弾発言が飛び出した。お母さんもお母さんで何があったの? 何で話してくれないのと恨んでみるけど、異世界行った、専用の従者死んだって言われてもポカーンだもんね。最近じゃ話される前に逃げてたし。ごめんなさい。


「……お前むかつく。大体な、直接関係ないくせにいつまで被害者ぶる気だ? まだ王家に寄生する気なら、少しはこっちの顔も立てたらどうなんだ」

「立てる顔を首から落とされたのではたまりませんね。伯父の無念は私が晴らします。はっきり言わなければ分かりませんか? 引っ込んでいて貰いたいのですよ、無能の息子には」


 もう私関係ないところで争ってますよね。空気が重過ぎるので出てってもいいですか? 凄く息苦しいです。そーっと出ようとしてミリーと目が合う。……助けてくれないかなー……。私の視線を受けて彼女は面倒くさそうに呟いた。


「労働時間延びてますけどー。その分料金上乗せされるってことでいいですかー?」


 この場で一番幼い人間のぼやきにさすがに格好がつかないと思ったのか、ザカリアとリッピの二人が停戦する。そこでここぞとばかりにミリーの元へ走りよる。


「ここに慣れるためにも! ミリーに色々聞いてきますね!」


 半ばミリーを押すようにして二人で部屋を出る。助かった! 本当に助かった。感謝をこめてミリーを見るとジト目でこっちを見ている。何か気に障ったんだろうか。


「いえ別に? 取り合いとかモテ女めとか、美少女爆発しろとか、焼死させたろかとか思ってないですよ?」


 いや思ってるでしょ! それに美少女っていうならミリーもかなりのものだと思うのに。


「モテるとか言われても……代わってもらえるなら代わってほしいな。割と本気で」


 そう言うとミリーは溜息を吐いて答える。そういえばどう見ても10そこそこくらいの彼女は、どうしてザカリアに付き添っているのだろう?


「……冗談。異世界人とユージェル人の壁は厚いのですよ。ましてミリーはここでも下の下の身分です。第一先代の件で、ユージェルは成り済ましが最も重い罪になったというのによく言いますよ」

「? 成り済ましがってどうして?」

「ああ、お上品な連中はすぐ物事を隠そうとするけど、貴女もそうなんですね。ミオって女は知ってます? 本当なら魔法も使えない先代のはしため身分だったのに、あろうことか救世主に成り代わろうと画策。お色気で今の王様を誑かして正妃の地位をぶん取ったらしいですよ! 悪女~。もっとも、救世主自身がお許しになったそうですけど。子供に罪はないからってね。でも後年、別の奥さん出来て事実上の正妃の地位はその女に。それで元正妃のミオは自殺しましたね」


 息をするのを忘れる。そんな事情があったのか。オルドの母、ロンの主人の生母に。


「先代、貴女の母の仇は苦しんで死にましたよ? どうです? スカッとしました? えへへ、いいこと聞いたって思ったらミリーにお小遣いなんて……」

「……助けてくれてありがとう。でも、趣味悪いよ」


 ロンはおろかザカリア達からすら上手く聞き出す(すべ)をもたない私には、ミリーの情報は貴重だった。でもそれ以上に気分が悪い。ミリー、貴女には無関係でも、私には母が間接的に人を殺したかどうかの問題なんだよ。それも好きな人の敬愛する主人の母を。




 その夜は眠れなかった。昼間に寝たのもあるし、ロンの殺意のこもった目が頭から離れない。未央さんの末路を考えると胸が痛い。従者のザカリアと次期王のリッピは……どうでもいいけど、嫌でもこの先関わってくるだろうから気が重い。ミリーにも……一応善意でしてくれただろうに、最後突き放すように吐き捨ててあれ以来言葉を交わしていない。後悔が押し寄せる。年下の少女相手に大人気ない対応をしてしまった。



 ベッドで寝返りを打っていると、遠くから子供の泣き声が聞こえる。しばらく響いていたが、やがて遠くになっていく。


 ……。


 ベッドから抜け出し見張りのいる入り口を避けて窓から逃亡。声のしたほうに歩いていく。すると、小さい子の泣き声がかすかに聞こえ、耳をすまして追っていく。そこにいたのは……


「ここには来ないでって言ったじゃないですか、院長先生」


 ミリーだ。ミリーが自分よりさらに小さな少女……というより幼女を胸に抱いてあやしている。すぐ側には年配の女性が立っていて何かを話している。物陰から隠れて様子を窺う。


「ごめんなさいね……この子、ミリーじゃないと寝つけないのよ。孤児院一の働き手で子守上手な貴女がいなくなって、院も人手が足りなくて……」


 ただの出すぎ者な悪ガキかと思っていたのに。孤児院? 子供が懐く? お金に執着するのは、孤児院の仲間の費用に充てるためだったのか。


「……すみませんです。なんせ大きな仕事ですから」

「救世主の左腕なんですって?」

「そうです。……実際は補欠に近いけど。でもだからこそ法外ともいえる報酬を払ってくれるんですよ」

「救世主、ね。世間は褒め称えてるけど、おばさんはあんまり好きじゃないね。あれ、同胞がああなるって知って置いて行ったんかね。だとしたら無慈悲にも程があるよ。自分が産んだわけじゃないけど、子供を多く抱える身としては、先代救世主には意味が分からないね」


 私が母を誇れないのは、実際にこんな悪評があるから。庇いたい心と、その通りだという良心、でもそれは実の娘としてどうなんだという理性が私をぐちゃぐちゃにする。


「でも、ミリー達みたいな生まれながらの罪人を生きていられるようにしたのも先代でしょ? 聖女ユディ様が言ってた」

「あの人は怖いくらい心酔してるからちょっと……」

「ここに愚痴言いに来たんですか先生。救世主の功罪なんかどうでもいいです。重要なのは今代救世主がミリー達のメシの種ってことだけです。……今日は失敗したけど、明日はもっと何とかします」

「ミリー。ごめんなさい。先生が出すぎたわ」

「……ルナ、寝ましたね。渡します、起こさないように……」


 ルナと呼ばれた幼女が壊れ物を扱うように先生と呼ばれた女性の胸に渡される。完全に渡し終わった後、ミリーは愛しげにルナの頭を撫でる。


「……この仕事が終わったら、お肉いっぱい食べさせてあげるからね。奮発して氷菓子でもいい。それまで、いい子にしてるのよ……」


 それから、宮殿へと戻っていくミリー。先生もルナを抱いて帰っていく。私も戻るとしよう。


『救世主の功罪なんかどうでもいいです』


 下手な愛の言葉より、ずっと気が楽になった、今日の言葉。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ