お姫様になったら何したい?
「救世主がリピト様の妻ですって」
「んまあ、最近では医師や政治をする人間には神様とまで言われてる、あの先代救世主の子孫の?」
「素晴らしいわ。王家もますます繁栄すること間違いなしね」
そうよ、もっと褒めるのよ、称えるのよ、アタシはずうっとこうされたくて堪らなかったんだから!
夜の仮面舞踏会。変装した未央は貴族達の噂話に耳を傾ける。思ったとおり、誰もが救世主の未央を誉めそやしていた。
楽しい! 楽しい!! 毎日美味しいもの食べて、綺麗なドレスを着て、ダンスを踊って、庶民からそれなりに偉そうな貴族までみーんな私の真似をする! ……唯一の難点は、お姫様なのに勉強が必要ってことかしら。直々に家庭教師が就いて、決められた時間にはユージェルの歴史やら外交やら作法やら……。信じらんない。アタシを誰だと思ってるの。むかつくからリピトに頼んで片っ端から追い出すなり処刑なりしてもらってる。救世主様に偉そうにするんじゃないわよ! まったく。……そういや救世主って肩書きだけど、その仕事って……何だっけ? まあいいわ、忘れるくらいだから大した事ない。
「あら、そこにいらっしゃるのは……」
「いやだ、ミオ様では!」
この瞬間が最高!そうよ、高貴なお方はあんたらのすぐ側にいたのよ。
「まあミオ様、今夜も良い夜ですわね」
「あら、今朝と違うドレスですわね。次期王妃様は本当にセンスがよろしくて羨ましいですわ」
「どちらのお店でお仕立てに? 教えてくださらない?」
元の世界のクラスメートなんかよりずっとハイレベルな人間達。そういう人に褒められ認められるのが幸せってものなんだわ。
未央が表で馬鹿騒ぎをしている頃、舞台裏では侍女達が紛糾していた。
「……大丈夫? 少し休んだら?」
「ごめんなさい、いいですか。……ふぅ……ミオ様がいらしてから、仕事、増えましたね」
「あの女、次期王妃のくせに遊ぶ事しか考えてないのよ、そりゃ私達の仕事も増えるわ。そのくせ気に入らない人間は次々クビにするし! 門番の兄さんも寂しそうに去っていく背中を見てられないって、愚痴ってたわ。家で仕事の愚痴なんて言わない人なのに」
「でもその分、補充なさっているんですよね?」
「だから質も落ち放題なのよね……ハァ。あの女気づいてるのかしら」
城内でミオの評判は悪い。ミオは自分の一言で他人の人生を狂わせる楽しみを覚えてからは、すっかり人が変わってしまった。侍女達を人格の無い物のように扱い、平気で貶める。
「救世主ねえ、どう見ても田舎の中流くらいの小娘にしか見えないんだけどねえ。」
「先輩?」
「ううん、何でもないわ」
「……疲れたら、先輩も休んでくださいね。私も頑張りますから」
「ありがとう……あら?」
侍女の視線の先。窓から王宮内の芸術観賞ホールから旅芸人の一団が慌てて去るのが見える。
「変ねえ、評判いい一団って聞いたのに」
「内容に問題があったらしいですよ」
「あら? どんな内容なの?」
「町娘が王様に見初められて……というありがちな話、の、その後を茶化したお話だそうです」
「……興味あるわね」
「王様に見初められた娘はすっかり慢心して、王家の財産食いつぶしちゃうんですよ。破産寸前なった王家はやっと娘が原因だと気づき、最後に娘は追い出されて終わり。外で大盛況だそうです」
「それ、皮肉ってるわよね」
「……ですよね」
それから二人は少しだけ笑い合って、次の仕事をしに立ち上がる。




