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眠れない異世界  作者: リック
首の番する偽姫
27/43

不良少女

下ネタ注意

 あの山賊達は逃げる際にしっかり旅の路銀を奪っていった。朝になってからはひたすら物陰に身を潜め、葉の水滴を飲み、木の実や野草を取って風の神殿へ歩く日々だ。

 でもファラダを見れば、そんな生活に文句など言えない。ファラダは食べることもない。ただ「美味しいですか?」 「食べなくていいのは楽ですね」 と何とか秋穂に明るくなってもらおうと話しかけている。


 好きな人の生首に励まされる秋穂。笑い返しながら、今日も喉の奥で涙を飲み込んだ。自分が情けなくて。



「少し遠回りになるけれど、安全な道。ただし人目につきやすい。近いけれど、治安が悪い町を通る道」

「後者ですね。行きましょう」



 風の神殿まであと少しというところで道が分かれる。秋穂もファラダもとにかく人目につかないほうを優先した。


 それにしてもここまで旅ができるなんて……実は自分は隠密になれたり?と鞄の中のファラダと笑ってみるが、「それもありますが、どうやら想像以上に、王家が無能だったようです……」 と複雑そうに言われる。元上司ですものね。




 アブの町。訳アリの人間が集う底辺の町。今の私にぴったりだ、と思いながらおずおずと踏み入れる。思ったよりも客引きなどでなかなかに賑わしい。

 周りを見るとフードを被っている人間は珍しくないので、秋穂もそれにならって顔を隠しながら町を通り抜けようとする。しかしさすがにこの町の人間は訳ありの人間を見慣れている。


「よーお嬢ちゃん、フード被っても体格で分かるぜ? 何日もろくに食べてない肌してるなー。ここに署名してくれれば衣食住は保障するよ? 大丈夫! アンタみたいな子がうちにはいっぱいだから!」

「ひっ……」


 客引きに驚いたのではない。男に話しかけられるのが怖い。山道でのことを思い出して身体が震える。


「あれあれー? 震え? 本当にろくに食べてないんじゃないの? これはいけないな。今すぐ署名してくれれば、お店行ったらすぐご飯出してあげるから……」


 署名を優先する辺り、絶対にまともではない。そう思っても体がすくんで動かない。いっそ魔法を……。駄目だ目立つ。どうしよう、どうしたら。


「あーごめん。こいつはあたいの連れだ」


 と、ただうろたえる秋穂を同じか少し年下くらいの少女が引っ張る。


「何だ、ユディ。お前の知り合いかよ」

「何驚いてんのさ、あたいにだってトモダチくらいいるよ。ほら、駄目じゃんか、約束した場所にいないと」


 ぽかんとする秋穂をそのまま引っ張って、ユディと呼ばれた少女は裏道へ、その先のあばら家へ入っていく。


「適当に座んなよ」

「え? うん……」


 凄い散らかってるんですけど。どこに腰下ろしたらいいか分からないんですけど。とは流石に言えない。迷って、少しだけ空いたスペースに腰を下ろす。助けてくれた上に自分の家? にまで連れてきてくれたのだから、悪い人ではない、はず。


「水しかないけど」


 欠けたコップで渡される。不意に、昔、汚れたコップで朝の牛乳を渡してきた母に怒ってもう一度洗え! と罵った事が思い出される。何と小さな事で怒ってたのか。幸せがいつまでも続くと確信して。


「お構いなく。ありがとう。えっと、ユディさん?」


 両手を差し伸べて受け取り、少女に笑みを向ける。ユディと呼ばれた少女は、つり目の気が強そうな見た目だが、笑い返すと年より幼く見えて可愛らしい。


「いいっていいって!えーと」

「あ、名前ですね。アキホです」

「アキホね、変わった名だねー。それはそうと、アンタ、あたいの仲間みたいだから、気にしなくていいよ。さっきのは許してやって欲しいな、あいつらも生活かかってるからさー」


 笑いながら言うユディに、逃亡生活でカチカチになるまで固まった身体がほぐれる。本能のようなもので、ユディがいい人であると秋穂は見抜いた。何故か、自分と似ているとも。


「さてと、食い扶持も増えたし、ちょっと行ってくるね」

「え、もしかして働きに行くの?」

「そういうこと! んじゃね」


 ユディは秋穂に水と寝場所を提供して去っていった。緊張でほとんど寝れていない上に歩き通しの日々で、秋穂は横になろうかと思う。


「ファラダ……ごめん、少し」

「分かりました。私が起きていますので。とりあえず、あのユディという女に悪意は見られません。今は、安心してお休みください」

「ごめん……」


 ファラダは寝ない。秋穂が寝てもすぐ近くにいれば、ファラダは魔力の恩恵を受けて意識を保っていられる。しかしファラダも寝てしまうと、魂は自然と身体から剥がれ落ちてしまう。疲れる体がないのだから、とファラダはこの五日間ずっと起きている。


 涙を隠すように横になり、つかの間の休息をとる。




「あれー? 寝てる? おーい、ご飯だよっ!」


 家主のユディの声で起きる。失礼だと思いながら身体を寝たまま横に向けると、おいしそうなご飯が目の前に並んでいた。


「美味しそう……じゃない、ええと、これ、ユディさんのご飯?」


 空腹で考えるより先に手が出そうになった事を恥じる。礼を忘れるようになったら人間おしまいだ。休ませて貰っている家の女の子なのに。


「うん。あたいのと、アンタの! 食べなよ、腹へってんだろ?」


 ぽかんとした後、枯れたと思ってた涙が溢れる。かすかに湯気が出ている。温かい、ご飯。何日ぶりだろう……。


「いただきます!」


 なりふり構わず口にいれる。ユディは少し呆れていたようだが、それだけこちらも辛かったのだと今は恥を捨てる。まず胃に優しそうな雑炊? から掻きこむ。お椀のものがなくなると、粗く盛られた肉料理に噛り付く。それも食べ終わると、スープのものを流し込む。数日ぶりの、まともな食事だった。


「ごちそうさま!」


 すっかり空になった食器を見て、ユディは嬉しそうに笑う。


「いやーいい食いっぷりだねえ! 稼いできた甲斐があるってもんだ!」

「ううう……お腹空いてて、遠慮もしないで恥ずかしいです。もしかして、私の分まで今日……」


 気になっていたが、後回しにしてしまった。ユディは働きに行っていたんだ。その間ずっと自分は寝ていて……何だか自分がニートになったようで、ひたすら居た堪れない。


「そうだよ。ああ、気にしないでよ。今日は運がよくて、楽勝だったんだ」

「?? そうなんですか。どんなお仕事をしているのか聞いてもいい?」

「くそあまい男どもを陥れるだけの簡単なお仕事」

「……え?」


 秋穂が凍りついたのにユディは気がつかない。


「親父狩り? っていうのかなー。いかにも世間慣れしてませんっていう男にさっきの客引きの男達と一緒になって騙してさ、痴漢されたとか乱暴されたとかいちゃもんつけて、黙ってほしければ金よこしなって☆ いやーいつもはもっとごねるんだけど、今日のは楽だったわ」


 自分には確かにいい人だった。だが、同時に他の人には悪魔でもあったのだ、このユディという少女は。


「今日は、本当にありがとう。お世話になったお金は必ず返すから……お茶碗、どこで洗えばいい?」


 ゆっくり立ち上がってここから出て行く準備を整える秋穂。世話になった以上、訴えることはできない。見逃すだけだ。


「えー急にどうしたのさ。ゆっくりしてきなよ」

「ごめん。本当にごめん。私、実は急いでいるから……」

「でも大丈夫? あんた、乱暴されたんでしょ? 身体が落ち着くまでは居てもいいのに」

「え」


 何で知っているんだ、そう言いたい秋穂の気持ちを察してユディは言葉を紡ぐ。


「分かるって。あたいもそうだったし。だからほっとけなかったんだよ。男って本当最低だよね!」


 生々しい記憶が、ユディを悪い人間に見えなくしていく。


「あいつらとは共同戦線くんでるけど、あたいは男なんて滅んじまえ、この世から消えちまえっていつも思ってるんだ。男なんて信用できない。男なんて最低の生き物さ。みんな、断頭台送りになっちまえばいい」

「なんでそんな事言うの!?」


 最後の一言が秋穂を激怒させた。足元に置いてある荷物。そこには死してなお仕えるファラダがいる。その死因がそれだというのに。


「な、なんだよ」

「私も、今は男の人が怖いよ。でもだからって関係ない人を騙していいとは思わない! 騙したら騙されたって文句言えないんだよ、分かってやってるの!?」


 それを聞いて、すう、とユディの目が冷えていく。こいつは違った――。何故かそう言ったように秋穂には見えた。


「アンタさ、もしかして未遂なワケ?」

「未遂って……うん」


 乱暴されそうになったが、ファラダの援護と自身の魔力で事なきを得た。きっと、自分は運がいい。

 目の前のユディはそうではなかったのだから。


「ふざけんなよ……同じだと思ったから、そのうち同じになると思ったからあたいは!!」


 突如豹変したユディは椀を叩き落して秋穂に近寄り、有無を言わさず押し倒して首を絞める。


「ぐ…っ」

「ふざけんな!ふざけんな!! 仲間だと思ったのによ!! オキレイなままって何だよ!! 畜生! 奇形や生まれに難があるやつはマシになったっていうのに、あたいみたいなやつは何時までたっても救われねえ……! あたいは一生救われねえ!!!」


 ギリギリと首を絞めてくるユディ。彼女は本気だ。気力を振り絞って、秋穂は「ファラダ…!」と呼ぶ。


「女、その方から離れろ」


 予期せぬ方向からの声でユディの力が弱まる。そこを見逃さず秋穂が反撃する。蹴りを入れてユディを離れさせ、すかさず床に叩き伏せ、その際に先程欠けた茶碗を首元に当てて形成は逆転した。


「うっ……ちくしょう……」

「……ユディ、こんな私にも優しくしてくれた貴方なのに、どうして」


 言葉は優しいが、辛酸を舐めてきた秋穂の首への威嚇は止まない。


「同じだと……思ったからに決まってるじゃないか! 汚れた身体になる悲しみを、あたいだって誰かと共有したかった……! 男に異常に怯えていたから、あたいにも分かり合える相手ができたと思ったのに……」


 結局無事だった秋穂としては、返答が難しい。慰める?それをやったら傷口に塩を塗るだけのような気がする。彼女は同じ経験を持つ人が欲しかったのだから。勝手に勘違いしただけだろう、犯罪者とでも正義感ぶって言ってみようか。……その犯罪者に助けられた自分は間違いなく彼女以下だ。何より人の心がないかのような暴言でしかない。


「アキホ様、これ以上の関わりは無用だと思います。魔法で気絶させて先を急ぐべきかと」


 ユディが咄嗟に声のするほうを見回す。そこには鞄からはみ出た茶髪の毛…いや人の頭部。視線を鞄の中のほうまで向けると、生首と目があった。


「……ひぃ!?」

「ユディ! 聞いて! 貴方は男の人は皆最低っていうけど、私はそうは思わない。このファラダのように、死してなお尽くしてくれる人はいるんだもの」

「あ、あ、あんたら一体……」

「ファラダ、事情を話してもいい?私、どうしても彼女が悪い人に思えない」





「つまり、アンタらが本物の救世主……? 王宮にいる美人は偽物だっていうの?」

「女、失礼な呼び方はやめろ。指をさすな。このお方は……」

「ごめんなさいファラダ、今は静かに……。とまあ、こんな事もできるから魔法を使えるって意味でも本物で合ってる……のかな、うん」


 ユディは首をジロジロ見る。……生きている。瞬きをして、言葉を紡いでいる。こんな芸当、魔法でもなきゃ確かに無理だろう。


「まあ、アンタ……アナタガタが普通じゃないのは分かるよ。それで?」

「それでって?」

「あたいにどうして欲しいのさ、悪いことはやめなさいって? 冗談じゃない。あたいには他に生きてく手段がないんだよ。あたいだけじゃない、このアブの町に住む者はみんなそうさ――差別されて仕方ない者ばかり」


 諦めたように言うユディ。ファラダがは不思議そうに尋ねる。


「何が悪いというんだ? 身体に異常のある者、特殊な生まれの者はある程度の保護はされているはずだが」

「ああ、先代救世主はすんごい人で、先駆けて不幸な人間達の救済をなさったんだっけ。まずは当時地獄行き間違いなしとされていた生まれの少女を、天国へ引き取ったりしてさ。でもあたいらは違うのさ」

「(お母さん何やったの……?)」


 母が知らない世界で大活躍していたという話を、身内としてどう聞いていいか分からない秋穂。


「違うとは? どういう意味だ?」

「病気の者は対象外ってね。天罰扱いじゃないか」

「ユディ、病気なの?」


 知らなかった。ぱっと見には元気そうに見えるけど……?


「それはともかく! いいね、救世主サマは。いい母親じゃないか。あたいと違って」

「違うって?」

「あたいはね」


 それまで陽気な雰囲気だったユディが急に暗くなる。


「再婚相手の継母が、男を産んだ途端あたいを嫌いだして、夫に追い出すように毎日言って、あたいは父親の手で直接遊郭に売られた」

「……だから、男の人が嫌い?」


 異常なほど男を嫌うユディ。実の父親に売り飛ばされたとあれば、ひねくれてしまうのも無理はないのかもしれない。


「これだけが理由じゃないさ。……そこで数年行儀見習いした後、あたいは客を取った。意味分かるかい? アキホさん」


 少し照れながら頷く。今までは、そういうことが確かに遠い世界のことだったのだ。


「今でも思い出すよ。初めての客取りの日、あたいは泣いて逃げようとして殴られた。痣のついた顔で出たからって半額にされたっけ。お金を稼ぐ作業ってさ、何でもそうだろうけど、ちっとも楽しくないね」


 ただただ重く聞く。何かを言っても、甘ったれの無神経さが出そうで怖かった。


「そんで初めて客をとって三日後、遊郭内であたいの殺処分が決定した」

「ええ!?」


 急展開だ。さすがの秋穂も声を上げる。


「客が翌日捕まったんだよ。町の取り締まり方に」

「??」


 それとユディの処分が頭の中で繋がらない。


「さて問題、どうしてあたいは処分されなければならなかったか?」

「え? え? ……そのお客さんに何かの風評被害でも受けたとか? それとも偉い人で不興をかったとか?」

「二流だねえ。さすが無事だったコだよ」

「えー……??」


 黙ってやり取りを聞いていたファラダの顔が青い。


「ユディ。まさかお前……」

「おや、アンタは分かるようだね」

「何? 何なの? 殺されるような事って……」

「移されたんだよ」


 その一言だけでは秋穂には何のことか分からなかった。だから、もう一言いう必要があった。


「移されたんだよ。商売道具に、病気を」

「……えっと……つまり、それ、性、びょ……」


 少し前にやった世界史の授業を思い出した。梅毒は世界一周してるんだよ! と先生が明るく言ったあの授業。梅毒って何ぞ?と思って家に帰って辞書で引いて真っ赤になった覚えがある。


「その客は女から移されて、誰でもいいから道連れにしたかったんだと。笑っちゃうよね、滑稽だよね。初めての客で感染だってさ。三日でそれが分かって、一応誠実をウリにしてる遊郭だったから、あたいみたいなのは殺すしかなかった。なんせあたいは元が二束三文で、一流を何人も輩出した先生でさえ匙を投げた頭の悪さでねえ!覚えているあの遊郭の最後の光景は、あたいを殺すための刃物を研いでいる男の姿。寸前で気づいて、狂ったようになって逃げたさ」


 なんと言ったらいいのか分からない。実の親に売られて無理矢理嫌な仕事をさせられて、それで病気に感染して殺されそうになったなんて。なんと声をかけたら、彼女の気は休まるのだろう?ただ、分かるのは……。


「アキホさんが襲われそうになったの、最近なら山賊でしょう? ここらの山賊は病気もちで有名なんだよ。だから同類だと思ったのに。アハハ! 何やってるんだろうね! あたいってやつは!」


 おかしそうに笑うユディ。それを忌々しげにファラダが見ていたが、やがて秋穂に視線をやる。


「もう、いいでしょう? 風の魔法で、早く……」

「ねえ、ファラダ。風の魔法って、癒しの力もあるんだよね?」


 ファラダが目を向けると、懇願するような目で秋穂はこちらを見ていた。父が言った、可哀相な境遇の少女に弱いという先代の話を思い出す。


「治すのですか?」

「治せないの? やっぱり魔法じゃ無理?」

「いえ、貴女様なら可能かと。しかし、何故そこまで」

「だって、ユディ優しいよ」

「はぁ!?」


 ユディが素っ頓狂な声をあげる。この話を聞いてそんな事を言われるとは思っていなかったらしい。


「何言ってんの? 普通の病気じゃないよ? 治療法もない、この世で最も軽蔑される病気だよ? 何考えてるの?」

「でも、それで苦しんでるなら治したい。私、ユディには助けられたし」

「殺されそうになってよく言えるな! それともアンタお人好しなの!?」

「それはユディでしょう?」

「はぁ???」

「アキホ様……?」


 ファラダも分からないという表情だ。でも、私にはちょっと分かる。


「本当に男にいなくなってほしいなら、病気、移したほうが早かったんじゃないの? でもそれはしていなんでしょう? さっきの話だといつも騙すだけに留めてるよね? ……本当は、それもアレだけど……」

「…! ち、違う! こっちのほうが、簡単だから」

「わざわざ嫌いな男と組んでるのに? それにさっきいつもはもっと大変とか言ってた」

「最初の客が下手くそだったんだ!」

「……本当に?」


 ユディは思った。アキホの目は、全てを見透かすようだと。そして、アキホのいう事は事実だ。男は憎くて堪らないけど、病気を拡散するのは。どうしても、出来なかった。


「客にやられて、自分だって辛かったからさ……」

「ユディ?」

「もういい! 降参! 分かったから! ……治すんなら、早くして」


 アキホが痩せこけた顔で笑う。あたいをお人好しとか言うけど、アキホほどじゃないと思うけどね。

殺されかけたのに何やってんだか、と言うと、でもユディのご飯が美味しかったから、と返される。やっぱり、馬鹿という名のお人好しだ。



「ごめんね、ファラダ。少しの間だけ」

「構いません。また呼び戻していただければ」

「……うん」


 少しずつ、ファラダと呼ばれた首から生気が失われていく。アキホさんいわく魔法を使うには、ファラダを一回死なせる? 必要があるらしい。もっと、何でも出来るものだと思ってたあたいは反省する。


「じゃあ、その、患部を……」

「……うん」







『ファラダ、ファラダ。そこにいるの?』


 ずっと下のほうから自分を呼ぶ声。それに引きずられるようにして覚醒する。


『アキホ様、お呼びですか?』


 何回か瞬きして焦点を合わせる。アキホ様と薄着のユディが目に入った。


「治療は、成功したのですか?」

「うん! ね?」

「見た目は……変化ないけど、痛みとかは、完全に引いてるから」

「いやうんまあそれは……時間で。まだ若いから!」


 あまり想像しないようにしよう。それも礼儀だ。


「えっと、ファラダ。私達そろそろ……」

「はい、行きましょうか。ユディも一緒に」

「……え?」


 最初秋穂はファラダが寝ぼけているのかと思った。


「え? ユディも?」

「はいそうです。……病気を治してもらった恩は夕食代の価値以上だと思わないか、ユディ。」

「ん?まあ、そうだね。感謝してるよ。着いていけばいいの? あたい護衛役?」


 普段彼女とつるんでいる連中がみたら、天地がひっくり返ったような騒ぎになるだろう。それほど今のユディはしおらしい。


「え、え? でも、危険な旅だよ?」

「水臭いなあ、アキホさん! ……全てを晒した仲だろう? なんて冗談は置いといて、遠出をしたい気分なのさ、アンタみたいなのと一緒に」

「いいの?」

「だからあ、水臭いって!」


 治った途端、人が変わったように明るく爽やかになったユディ。病気は、それほど彼女を蝕んでいたのだろう。


「……風――シルフの神殿で私とアキホ様だけではさすがに厳しいものがあります。女の一人旅よりは女二人の物見遊山の旅の方が誤魔化し易いでしょう」

「そっか……確かに」

「いいよ、アキホさん何か頼りなげだしね。一緒に着いてってあげようじゃないか!」

「ユディ……ありがとう」


 逃亡を始めて六日目。主人の肩の力を抜いた笑みを初めて見た、とファラダは思う。

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