表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れない異世界  作者: リック
首の番する偽姫
26/43

彼女の言い分

「どうして秋穂のやつが逃げるのよ! 見張りは何やっていたの! 大体ね、何で勝手に目を離したりするの! 信じられない!」


 王宮の奥深く、謁見の間で未央は警備担当の兵士を怒鳴り散らしていた。大理石の床、美しい玉座。それらの美しさ、荘厳な雰囲気を未央はヒステリーで台無しにしている。


「それは……ミオ様が見張りはいいと仰ったので、私どもはその通りにしたまでで……」


 言い訳を口にする兵士を未央はさらに怒鳴る。こいつらは理解していない、アタシにとって秋穂がどれだけ邪魔な存在かを。分かってないならそこにいるだけで腹立たしいのだ。


「あんた達ね、人のせいにしないでよ! もういい! リピト様!」


 これ以上話しても無駄と悟ったのか、後ろの玉座に腰を下ろしていたリピトを呼ぶ。


「分かった分かった。おい、お前らクビな」

「そんな!?」


 次期国王の容赦ない一言により、警備担当だった兵士達は別の兵士によって謁見の間を追い出される。未央はそれを見て少しだけ溜飲を下げる。


「しかしミオ、随分怒っているな。まあ、愚弄し続けた従者が逃亡ともなれば平静ではいられぬか」


 曖昧に笑って流しつつも、リピトの言葉が胸を刺す。元の世界では、自分はお姫様で秋穂が従者。女の好みがおかしいファラダをたぶらかして、救世主に成り代わろうとしたとんでもない罪人、昨日閨の中でリピトにそう説明したのだ。

 絶対に間違っていない、地味で平凡で頭が悪く運動能力もないコミュ障の女が救世主? そんなもてない女の夢みたいなことがあるわけない。

 救世主は私、私が救世主。私はずっとお姫様になりたかったんだから。習い事は何でもした。メイクや香水、身だしなみにもずっと気を遣ってきた。友達もいて上手くやってる、リーダーシップで先生にも信頼されてる。僻んできた子はいるけど、皆自分では何もしない人間だった。あの子と同じ。


「本当に……嫌な子でした」


 あの帰り道の時も、話しかけたら怯えていた。もしかしなくても文集の件だろうか。だったらそれは筋違いである。未央はあれをまず先生が止めると思っていた。そしたら大受けして企画を通した。後はプリントをホチキスで止めただけ。イジメのようなランキングの三冠? それは勝手に級友が票を入れただけ、まさに○○の人徳である。文集見てから不登校?それこそ知らない。聞いた話では○○はまず先生に「どうしてこんなことを」 と震える声で訴えたらしいが「何で今さら言うの。君が黙っていてくれれば済む話をどうして今になって言うの」 と先生は返したとか。イジメというなら未央より先生が悪いではないか。とにかく自分には責められるほどの罪はない。


「しかし、罪人といっても、ファラダに死なれてはユージェルに恵みをもたらすことは出来ぬな。フジが天へ伸びる様を世も見たかったが……」


 話を聞くと、『救世主は神秘的な力で山を高くして空の穴を塞ぐ』 らしい。意味わかんない、空に穴なんか空くわけないでしょうに。

 あのむかつくファラダとかいう少年はそれの水先案内人で、今の王家とは別の、古代王家の末裔。魔法のスペシャリスト。あっさり処刑できたのは、古代からの魔法封じの枷、それも強力になった物をつけたからだとか。アタシから言わせると詐欺師なんじゃないかと思うけど。にしても少年の身で亡くなったファラダ……ね。


 今思い出しても肝が煮える。高貴な方の前で、ブスとアタシを比べてブスの方が上とかそういう判定を人のいる前で堂々と下しやがった。無神経なんだよ、人のプライドに配慮しないやり方しやがって。一瞬で嫌いになるのも当たり前だ。

 

「そう怖い顔をするな。おお、そうだった。やつには確か弟がいた筈だ。成長するまで待つことにはなるが……その間にお前という天女を天に帰さぬようにしなくてはな」


 そういうと、彼はあっさりとアタシを抱き上げて寝室へ連れて行く。馬鹿ね、言われなくったって帰らないのに。アタシはアタシをちやほやしてくれる世界にずっといるのよ。弟の件は……今度はどんなこと言って処刑したらいいかしら。あいにくアタシは善人じゃないから、世界の役に立つことしてアタシがお姫様じゃなくなるのと、世界が滅びるのが早まるけどずっとお姫様でいられるなら、当然後者を選ぶわよ。


 柔らかなシーツにゆっくり下ろされる。この王子様のスマートなところ、アタシ大好きだわ。






 その頃、外では首になった元兵士を門番が見送っていた。


「……やってらんねえな」

「やめとけ、誰が聞いてるか分からないぞ」

「でもよ……」


 左右の門番は苦しそうに、去っていく元兵士達の背を見ていた。何年も忠実に仕えた兵士だったのに。確かに、臨機応変なところはなかったが。


「あのミオって女、本当に救世主なのか? オレ、ちょっと疑ってるんだよね」


 右の門番が左の門番に囁く。その顔は不平不満が溜まってますといわんばかりだ。


「おいおい、滅多なことは言わないほうがいいぞ。なんせ殿下はすっかり骨抜きって話だ。悪口なんか聞かれた何されるか分かったもんじゃねえ」

「……オレの妹が城内で侍女やってんだけど、昨夜来たばっかだっていうのに、我侭すぎて手がつけられないってよ。あれは救世主というより、田舎の昇進願望の強い女が宮廷に入って天狗になってるだけって生々しい話つき」

「……次の王妃だよな?」

「ああ……そうらしいな。全く、好き勝手やりすぎて仕事にも身が入らねーよ。救世主が来て給料下がるとはどういう了見だ全く……」



 未央の頭からは忘れられた、未央の世界の事実。処刑された王様や王妃はいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ