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眠れない異世界  作者: リック
首の番する偽姫
24/43

成り代わられ

人体切断描写あります。

 朝食の時、お母さんが「学校楽しい?」 って聞いてきた。


 「うん、まあ……」と曖昧な返事をして、私は学校に行った。


 私、鈴木秋穂(すずきあきほ)にとって、学校は義務で行く場所、勉強する場所。それだけだ。でもそれを正直に言うとお母さんは呆れる。私が何が悪いのか分からないまま呆れる。


 一緒にしないでよ。私は完璧超人のお母さんと違い、父に似て平凡地味……いや、それ以下だ。母が学生時代だった頃、凄かったらしい。生徒会副会長で美人で成績優秀、体育はまあまあ。あとボランティアをやっていてファンクラブまであって……。さらに一番仲のいい友人は年下の元外国人の美女。そのシャルロッテお姉さん本人に聞いたら「貴方のお母さんと一緒にいたいから帰化した」 どんだけ。


 お母さん、私は、比べられるとちょっと辛い人間です……。




「では二番の問題を、鈴木。」

「…………分かりません」

「ハァ……では瀬川」


 クスクス笑いが少し響く。


「鈴木さん! パス!」

「え、わ! あ!」

「ちょっと、何やってるの!」


 あっさりスティール。試合が終わった時、「あのコにパスしなきゃ勝てたのに」 と聞こえるように言われる。


「お弁当一緒に食べようー」

「今日は屋上ね!」

「(ねえ鈴木さんどうする? 今日も一人よ、可哀相じゃない?)」

「(えーやだよ、せっかくのお昼にあんな暗いコ)」


 聞こえてます。



 お昼を一人で食べる、暗い高校生活。……でも、別にこれ苛められてるわけじゃない。何故なら、本物のイジメをされた子は、未だ学校には来ていない。あの子と同じ目に合うくらいなら、ちょっと遠巻きにされてる空気でいい。




 お昼が終わって眠たい午後の授業。職員会議があるから一時間消えて、今日はもうこの古文で終わる。


「さて、伊勢物語とはオムニバス形式で、一見色んな男と女の恋愛模様を書いていると思いがちですが、昔の人はこれは全部、在原業平という一人の色男の話と考えていたんですね。そうすると矛盾なども出てくるのですが、現代でもよくあることですね、お約束。今度のテストにはこの業平の詠んだ和歌からランダムで出題します。比較的現代人でも読みやすい名歌ばかりで覚えておいても損はありません。帰ってよく勉強しておくように」


 チャイムが鳴り響いて、先生が退出していく。と同時に教室内で一斉に帰り支度が始まる。私も帰ろうと教科書と資料集を仕舞おうとする。その時、一つの和歌が目に入る。


――つひにゆく 道とはかねて ききしかど きのふけふとは おもはざりしを――


いつかはくると思っていたけど、昨日や今日なんて、思ってなかったのになあ。



 何かの期限を詠んだ切ない歌。それだけなのに、何故か胸騒ぎがした。



 駅までの道を一人で歩く。学校から駅は歩いて五分。実は見通しが悪くて危ないところもある。そしてもうすぐそこへ差し掛かる。いくら早い時間帯だと言っても、怖いものは怖いから早く通り過ぎてしまうに限る。少しドキドキしながら早歩きをしていると、後ろから声をかけられた。


「秋穂ちゃん!」


 盛大にびくつきながら後ろを振り返ると、クラスで、いや学校で一番の美少女がいた。


「あ……未央、さん」


 友達いないくせに、そんな人を名前呼びするのにはそれなりの理由がある。


「秋穂ちゃん今帰りー? アタシもなの。このへん怖くってさ、一緒に帰ろうよ!」

「う、うん、そうしよっか」


 気さくな未央さん。髪の毛を金に染めてくるくる巻きにしてゴージャス美少女。校則ゆるめだから問題ないし、実際顔つきが華やかな未央さんにはとてもよく似合っていた。さらにほんのりいい香りがする。文句なしに完璧な美少女。……あの噂さえなければ。


『○○は?』

『今日も来てない。つーか聞いた話だと本格的に登校拒否ってるんだってよ、○○』

『まー、しょうがないか。でも未央もえげつないよね』

『二年進級の際のクラス替えに合わせて、今のクラスでの思い出残そうとか言ってさ』

『文集作って、っつか作らせて、ランキングとか企画しちゃって人脈使って、ブスだと思う人・実は嫌いな人・将来やばそうな人の三冠取らせるとかね……』

『○○が何気に男人気あって、女からも尊敬されてるからってそこまでやるかって感じ』

『でもあれあたし受けたけどね。○○だって元々すかした奴だったし』

『ひでえ! でも実はあたしも! 褒められた事じゃないけど馬鹿受けだわ、さすが未央さん!』



 友達がいないのには作りたいと思わないからっていうのもある。あの話、本当なんだろうか……。周りは性格悪い友達でも一人でいるよりマシって言うけど、私はどうもそうは思えない。悪口言い合うくらいなら一人でいたいと思う。



「あれー? 何かよそよそしくない? アタシ達友達じゃんー。さんもいらないって!」

「ご、ごめんね。私気が利かなくて」


 気さくで気遣い上手。でも脳裏に文集の『ランキング編集:みお』の文ががよぎる。そんなこの人が怖くてたまらない。でも万が一にも同じ目に合いたくないから、みおって呼んで☆って言われたらその通りにするし、フレンドリーにしろって言われたらコミュ障なりにそうするしかない。


「ねーねー、最近、調子どう?」

「え? えっと、指されても問題分からなかったし、体育でも足引っ張っちゃうし、うん、最悪かな」


 そういえば未央は勉強が得意ではないらしい。かといって体育が得意というわけでもない。でも美人さんってだけで勝ち組だと思います。私は顔は普通で友達もいなくて勉強も運動も貴方以下だから、そんな未央が羨ましいと思う。



「うふふふふ。そうかあ、秋穂ちゃんもなんだあ。アタシも勉強好きじゃないんだあ。それでママは塾通わせるし、スポーツジムにも行かせてるけど。バイトの時間がなくなるよ」

「習い事をそんなに? それにバイトって。未央は美人なのに努力家なんだね」

「なあにそれえ? 褒めてる? うふふふ」


 歩きながら他愛もない話をするけど、私には盛り上がってるんだか盛り上がってないんだか分からない。そうこうするうち、学校指定の危険スポットまで来た。


「ん~? 何か今日は暗いねえ」

「本当だね。雨でも降るのかな」


 周りを林で囲まれ薄暗い道が、今日は一段と暗い。まるで何者かが潜んでいるようにも感じられる。


「秋穂ちゃん、急いで行こうか」

「う、うん……!?」


 二人で走ろうとしたその時、空中に発光する球体が突如現れる。


「え、なに、ちょっと、これ何よお!!」


 動揺する未央とは反対に、この異常な現象を見た秋穂は何故か懐かしい気持ちになる。


「ユー……ジェル」


 小さい頃、母が寝物語に教えてくれた。不幸な世界とそこへ呼ばれた少女。少女は強い光によって引きずられるように飛ばされるらしい。あの母にも異世界なんて夢見がちなところがあるんだと思っていた。そう、夢の話だと思っていたのに、母が話してくれたことと同じ……。


 考えを巡らせていると、未央が秋穂の手をつかんでもの凄い形相で睨みつける。


「アンタ!? アンタなの!? 未央に何しようっていうの! 早く何とかしなさいよ!」


 美少女の面影はそこにない。しかし秋穂も咄嗟にどう説明していいか分からない。そうこうしているうちに謎の光は秋穂へと近づいてくる。


「ひっ!? きゃあ!!!!」


 未央は恐怖のあまり秋穂にしがみつく。跡が残るほどの強さに秋穂も振りほどけず、そのまま二人揃って異世界に飛ばされる事となった。




「来たのか、ファラダ!」


 王冠をつけた青年が、魔法陣の前に立つファラダと呼ばれた少年に声をかけた。


「リピト殿下。はい、成功しま……!?」


 煙とともに現れた人影は二人だった。明らかに異物が混じっている。それに王冠を身に付けリピトと呼ばれた青年も気づき、胡散臭そうに魔法陣前に少年を見て言う。


「ファラダ、どういうことだ。救世主は一人であろう。世はお前の腕を信用していたのだが……」


 魔法陣の前に立つ茶髪の十代半ばくらいの少年――ファラダは落ち着いて答える。


「申し訳ありません、リピト殿下。しかしこちらの手順には問題ありません。どうやら向こう側で問題があったようです。救世主になろうと無理矢理着いて来たのか……?」


 最後は小声でぼやくように言った。しかしリピトは聞き逃さなかった。側近に諌められるのも聞かず魔法陣に近寄り、ファラダの横に立つ。


「ならば、世が直々に選定してくれよう。其処の者ども、(おもて)を上げよ!」


 魔法陣の中、秋穂と未央は正面を向いた。命令を聞いたわけではない。声がする方を咄嗟に見ただけだ。



「むっ。これは……美しい」


 リピトは未央を見てそう言った。秋穂は何が起こったのかと周りに助けを求めるように視線を彷徨わせる。


「そなた、名は」

「アタシ!? え、ああ、未央」

「世の名はリピト。次期王となる身だ。ユージェルに恵みをもたらしては去っていく救世主にずっと恋焦がれていた。世の妻となってくれ」


 横で公然と行われたプロポーズに秋穂はただポカンとするばかりだ。そんな秋穂をファラダは注意深く見ている。やがて秋穂に近づくと、少年はこう問いかけた。


「失礼、貴女のお名前は」

「え?あ、私ですか?鈴木、秋穂ですけど」


 秋穂はそう聞いてきた茶髪の少年に、少し胸を高鳴らせた。少年が華やかな未央より自分を気にかけてくれているように見えたから。母に比較され、高校では埋もれ。自分を見てくれる人間に秋穂は弱かった。


「スズキ、アキホ。ホとは穀物の先の部分という意味で、母にも同じ字が使われていませんか?」

「……! あ、はい」

「では母の名を聞いてもよろしいでしょうか」

「鈴木千穂、です」


 最初、秋穂は事態が把握できずうろたえていた。それでもとにかく、ここはどこで、この人達は誰なのか考える。会話から推察すると、まるで自分か未央が救世主でここが異世界みたいな事を言う。特に疑問なのは、さっき未央にプロポーズしたリピトとか言う男の人は王子様らしい事。


 母の話が正しいなら、召還の場に王子はいなかった筈だ。今回に限って様子を身に来た? それなら母の話と辻褄が合うとは思うけど……。私の推理、合ってるのかなあ。


 身を固くしている秋穂から必要な事を聞きだしたファラダはリピトに向かって言った。


「殿下。救世主はこちらの方です。その者は勝手に着いてきただけのよそ者です。側室にするのは旅が終わった後の救世主という事でしたが……」

 

 幼いファラダのいう事に、すっかり未央にデレデレとなっていたリピトはあからさまに顔を顰める。


「……ファラダ。それは、世が間違っている、そう言いたいのか」

「残念ながら。先代は確か容姿に優れたお方でしたが、救世主の条件に容姿は関係ありません」

「実子だろう? ならば美人なこの者、ミオが本物であろうが!」


 ファラダは次に未央に近づき、秋穂と同じ質問をする。


「ミオ様、貴女の母のお名前は」

「え? 真央だけど」

「分かりましたありがとう。殿下、聞いての通りです」


 リピトの顔は怒りで紅潮した。傍観していた秋穂はいくら王子でも短気で怒りっぽくて人の話を聞けない人は嫌だなあと思っていた。


「ふざけるな……こんな……路傍の石ころが……。そうか、世を騙そうとしているのだな、ファラダ! 先代であるミトは王家が介入しないのを良い事に美しい少女と良い関係だったと聞く! 最後にはしくじったから、今代になって、これまで研究費用を削り続けた王家に復讐しようとしているのだな!?」

「そのような事は! 私はただ事実を……!」

「側近共! これをどう思う!」


 リピトは後ろを振り返り、控えていた側近に言う。低いところで座っていた秋穂には老齢の側近達がニヤニヤしているのが分かった。


「リピト殿下の仰るとおりでございます。元を正せば、ファラダなど悪人の家系。信用には値しません」

「救世主が美しいのを見て、目が眩んだのでございましょう。それに世界を救う者が並みの容姿なんて例はありません」


 え、何これ、私疑われてる?


 動揺も落ち着き、秋穂は確信していた。母から聞いた異世界。召還方法。そして忠実に仕える部下の存在。何より名前の意味を当てた。壮大なドッキリでないなら、救世主は私のはずだ。……質問されてハズレだって分かっただろうに、未央は何故、何も言わない? 視線をやると、以前から殺したいというような目でこちらを見ていたのに気づく。どうして?


 秋穂から視線を逸らした未央は、突然大粒の涙を零しながらリピトにしなだれかかる。



「リピト殿下あ、アタシもう耐えられない!やっと、やっとこっちの世界に戻ってこれて、あの女の嫌がらせから解放されると思ったのに!」


 なに、いってるの?


「何! ……そうかそうか、気の毒に。最初にファラダが言ったように、嫌がらせで着いてきたのだな、申し開きはあるか、そこのブス女! 犯罪者の末裔!」


 秋穂もファラダも既に顔面蒼白だ。特に秋穂は死にそうな顔色になっている。



 やってもないことを申し開き? 証明? それ悪魔の証明っていうんじゃないの? どういうことなの? 部下とされているはずのファラダ? さんが本物は私って言ったんじゃないの。それを信じられないなら、私はどうしたらいいの。私だって異世界で自分を救世主と証明する手段なんか知らない。


「ぐすん……黙ってるのはやましい事があるからですぅ。そこのファラダとか言う人までアタシを馬鹿にするし……アタシ、ファラダの方が嫌い!」


 すっかり未央に骨抜きになったリピトは目も当てられないような破顔を見せて言う。


「そうか……本来なら順番だが、この場合は仕方ないな。側近共、すぐ近くに断頭台があろう! 即刻この嘘つきファラダを反逆罪で処刑せよ!」



 だんとうだい?え?なんだっけそれ。漢字で、どう書いた?



 魔法陣の屋敷から出て兵士と思しき人達に腕を掴まされて歩かせられる。ファラダも同じようにされて秋穂の少し前を歩かされる。


「どうしてこんな事に、すみません、アキホさま。どうか貴女だけでも……」


 道々そんなことを言いながら歩く。私は、私は。ファラダを好きになったのに、謝られたくない。



 数分もすると、変な機械のある広場についた。人の頭くらいの穴が空いてて、その上に大きな刃が取り付けられていた。



「あれは……一体……」

「へー、この世界は昔のヨーロッパに一番近い感じ? 断頭台とかマジ受ける」


 いつの間にか横に未央が立っていた。薄々この先の展開に気づいていた秋穂は懇願する。


「私が何かしたなら謝る! 未央、お願い変なことはやめて!」

「なに勝手に呼び捨てしてンだよ豚」


 いつもの甘い声とは正反対の低い声で侮蔑の言葉。秋穂は一瞬何を言われたか分からなかった。


「お姫様は一人よ。アンタなんかいらないの。一番偉い人が正義よ。この先アイツに生きてられても困るの。異世界から救世主? 自分達の力で何とかならない世界なんて、誰が救世主でも一緒でしょうよ」


『でも未央もえげつないよね』


 もしかしたら深い事情があったのかもしれない。本人のいない所でなら、たとえ他のクラスメートがいても悪口言う人達だから、何かの間違いかもしれない。元来お人好しであった秋穂のそんな甘い考えは、この瞬間壊れた。


「酷い……酷い! 最低よ!」

「あぁ~ん、リピト様ぁ~あの女が私に罵倒を~」


 王共々軽蔑の視線をくれてやる。王はそれに不快感を(あら)わにする。


「側近共」

「分かっておりますよ、殿下。次は明後日、あの女を」

「ああ、頼りにしておるぞ」

「それで、息子の昇進の件ですか……」

「うむ。この度、お前達のお陰で真実を見失わずに済んだ。よくよく父に伝えておこう」

「ハハーッ」



 両隣に屈強な男を配置され、秋穂は断頭台の正面に立たされる。台の最上段まで上がってきたファラダと目が合った。


「申し訳……ありません……!」

「ファラダ、貴方は悪くない! 謝られることなんて、何もしてない!」


 泣き崩れるファラダを兵士二人が押さえつけ、頭を穴に通す。


「何を……やめて! やめてよ!! 彼が何をしたっていうの!! まだ少年なのよ!? 貴方達一人の命令で人の命を!!!」


 秋穂の絶叫が辺りに響くが、誰もそれを気に留めようとせず、刃を支えていた紐が放たれる。






 すとん。ころころ。



 それは場違いなほど軽快に秋穂の前に落ちて転がっていった。


 先程まで血の通っていたファラダの首が、それでも申し訳ないと言いたげに、秋穂を見つめた。

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