元凶の悪女?
魔王を倒して、世界を救え――。
夢物語と笑うには、額の傷は今も痛い。
あれから穂積はこの世界のこと、魔王のこと、何故自分が罪人なのかを説明された。曰く
「この大地の名はユージェル。魔王は魔王だ。お前が何故罪人なのかは……これが一番の問題だな。そうだな、空の黒い穴は見たか? あれが関係している」
かすかにうつむく。カイと呼ばれる男は因縁を語った。不思議とどこか懐かしいものを思い出すような雰囲気だった。
『これは今から千年もの昔のこと。あるところに、一人の王様がおりました。王様は神様から愛されていたのでしょう、あらゆる才能、知恵、体力、美貌まであらゆるものを授けられました。王様はそのことに感謝して、ますます善政に励んだのでありました。
ところが、そんな賢王を一人の女が台無しにしてしまったのです。
この女は顔は綺麗だけれども、激しく驕り高ぶった心の持ち主で、自分にはあのような男こそふさわしいと考えていました。
悲しいことに、王様はこの女に夢中になりました。そして民への配慮を怠り、巷には怨嗟の声が溢れるようになったのです。
このような状況をなんとかしようと、王様より秀でたものは何一つないけれど、心が立派な王の弟が立ち上がりました。そしてあっという間に玉座から追い落とし、王様と女をある山の麓まで追い詰めました。そして――――。
追い詰められた元王様は、化け物になりました。
巨大な怪物になり、天に穴を空けました。そしてこのまま世界を崩壊させる、と言うのです。
弟は必死で説得しました。その説得に元王も恨みは幾分和らいで、せめて愛した女とここで眠らせてくれ、そうすれば自分の身体は山になり、天の穴もそれで塞ぐから、と。
しかし全てはこの女の浅ましい心から始まったのです。
王でなくなった男に用はない、自分は今すぐ弟と結婚したい、一人で山になっていろ、と。
これには元王も弟も烈火のごとく怒りました。それを見て女は悟りました。
弟は自分と結婚する気はない。でも怪物と化した元王なんて絶対嫌。その辺の男となんてもっと嫌。
女は自害しました。そしてこの魔女は、もっといい世界に行くとばかりに魂を即座に異世界へ転送させたのです。元王も化け物となった身ですが、一番の魔性はこの女だったに違いありません。
自害したのを見て元王は三日三晩慟哭したあと、中途半端な山となりました。天には今も穴が空いたままです。そこから様々な災厄が今日も降ってきます。
弟は責任を感じ、山を完成させるために女の魂を呼び戻そうとしています。もし女の魂が戻ってきたら。
この話を聞いた貴方も協力してください。
女から反抗の意思を奪い、自ら望んだ元王に添い遂げるように
責任を感じ、子々孫々に悪女を連れ戻すように厳命した弟の一族のためにも』