「なに、これ」
「なに、これ」
頭が混乱して馬鹿みたいな反応しかできない。嘘だ嘘だうそだ、私をかばってロッテが。ロッテの腕が。
「貴様あ!」
「フン!」
ミトと翁が二人がかりで暗殺者を取り押さえるのを遠くに感じる。私の目はロッテの傷口から離れない。やがて痛みと格闘していたロッテがゆっくり顔をあげて、こっちを見た。
「チホ……様」
「はい?」
今の私は馬鹿だ、馬鹿なんだ。緊急事態で頭が壊れた馬鹿なんだ。だから気の抜けた声しか出せず、間抜けな返事しかできない。
「ごぶじ……よかった」
自分がそんな状況になっても私を気遣っている。それが最後の頭のネジを吹っ飛ばした。
「縫合して、これ縫合してよおおお!!」
この件が終わってから翁に聞いた話によると、私は発狂したように二つの腕をつかんで翁とミトに縋ったらしい。そんな技術はユージェルにないと言われた後は泣きじゃくるだけで使い物にならず、離れた小部屋でミトにあやされていた。腕をつかんで放さないまま。
腕を失い瀕死のロッテはすぐに担架で医者に連れて行かれ、辛くも一命をとりとめた。腕はないままに。
「入るぞ」
医者のもとで養生中のロッテを尋ねる。先導するのはミト。千穂はあの事件以降、ロッテに会うのは初めてだ。
両腕がないその姿は、見慣れないうちはどうしても奇異に映る。何よりそれが自分のせいだと思うとこらえようのない痛みが胸を襲う。
罵倒を覚悟でロッテに会ったというのに、当のロッテからは明るく振る舞われた。
「チホ様、来てくれたんですね!あ、喜んでる場合じゃなかった……ごめんなさい、あの夜の暗殺者、あの悪ガキの親父だったって。元を辿ればあたしのせいじゃないですか、本当にごめんなさい」
千穂はまた泣いた。




