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眠れない異世界  作者: リック
同情が武器の灰かぶり
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愛された子

「チホ様、どうかお静まりを」


 頃合いを見てミトが止めにはいる。千穂はハッとした表情をしたものの、自分が何をしたのかは分かっていないようだった。


「このような使い方……いや、間違ってはいないのかもしれぬが。いやとにかく騒ぎになる前に離れるんじゃ、隣町なら安全じゃろう」


 翁は大人しい千穂の手を取り村はずれの馬車まで連れて行き、ミトは嫌々ながらロッテの手を取り同じように急いだ。



 馬車についた後は慌ただしく交通の要所として栄えるリーゼルの町へ出立。着いた後は千穂とロッテは風呂に勧められる。汚れを全部落とすと、ロッテの美少女と言って差し支えない容姿が明らかになった。


「不思議ねえ。こんなに綺麗なのに、どうしてあんなに苛められてるのか分からないわ」

「……それは多分……いえ、やめましょう」


 親がもしかして犯罪者だから? 貧乏だから? あの村では新参者とかそういう理由? いずれにしても小さい女の子に石をぶつけて笑うなんて最低だ。ロッテでなくても気分が悪くなるだろう。だからどうしてロッテがそんなに卑屈になるのか分からない。


「あの、チホ……様。あたし、いやワタクシ……いいや! あたし、嬉しかった。貴女があたしに名前をつけて、あの親から引き離すきっかけをくれて、あの悪ガキ達に貴女の魔法で制裁してくれたんだ!」


 ずるっと温泉で滑りそうになる。制裁? 人聞きが悪い。慌てて周りを見るが他に湯治客はいないようでホッとする。苦言の一つも言おうかと思うが純真な目で見つめられるとどうしていいやら。


「あ、アハハ。私、魔法を使うの下手なの。あの時は無意識に出てしまって。でも人を傷つける魔法って、出来ればあんまり使いたくなかったな」

「そういうものなんだ……。あたし、チホ様のこと好きだけど、お人よしすぎるとこは心配だな」


 こういうのどういう反応するべき?


「チホ様、あたし、あたし、本当に初めてなんです。亡くなった母さん以外に優しくしてもらうなんて。そんで、唯一優しくしてくれた母さんが真っ先に死んで、この世には神様なんていないって思ってた。ずっと石ぶつけられてたのは、本当は、打ち所が悪くて死ねたらって思ってたから。それを想像することが生きがいだった。きっとあたしが死んだら父ちゃんは長くない。悪ガキどももあたしで石を投げる楽しみを覚えて、取り返しのつかないことをいつかやっちまえばいい、その時あの親達も断頭台にあがっちまえばいいって。でもあたしみたいな女の考えなんて当たらないんですよ。神様は綺麗な姿である日突然やって来て、あたしを連れ出して、悪ガキどもに妥当な復讐してくれた、ねえ?」


 重い。重すぎる。なまじイジメの場面を見てるだけに、乾いた笑いでしか返せねえよ。



 その夜は部屋で次の目的地、闇の神殿へ向かうルートを四人で検証、といっても異世界人の千穂と村から出たことなくろくな学もないロッテは話を聞くだけに留めた。結果はポーキス山を越えるルート。最も近く人目につきにくい点がよかったらしい。翁に山越えなんて大丈夫かと聞くと、若い頃は研究のため山登り海潜りをしてきたと言う。納得してまず明日は買出しをして明後日の出発ということになった。が。



「いたい~~~!?」


 明くる朝、千穂は顔、身体全身痣だらけで、さらに今さっきついたような傷口から血まで流れている状態で目覚めた。


「チホ様! あ、あたし、一緒に寝ているうちに蹴っちゃった……!?」


 隣で寝ていたロッテが狼狽する。翁がミトを見るとミトは軽く頷いて説明する。


「チホ様。説明が遅れたことをお詫びします。もしかしたら異世界人だから適応されないだろうと甘く見ていた、私の落ち度です。闇魔法の呪詛返し、もしくは等価交換がその身に返ってきたのです」




 魔法の中でも闇魔法は特殊である。他の属性は精霊の力を借りるという体裁のもと行使するが、闇魔法は基本等価交換となる。


「足に怪我をしてから闇魔法で治す……すると足の怪我は治るが腕に移る。麦畑を豊作にする、そうすると豆畑は全滅する。嫌いな人間を呪いたい、しかし呪えば同じ術が自分に返ってくる。昨日のは、少年二人に互いを傷つけあうよう命じた、だから少年が受ける筈の傷が全て術者に返ってきた」

「なによそれ……ひねくれすぎじゃん。つーかそんなの魔法っていうか? 普通?」


 ロッテの疑問には翁が答える。


「人間の力だけでは出来ない事をする。魔法といえば魔法じゃ。現実に、闇魔法は他の魔法より簡単に学べる事もあって、神殿の賑わいもよそとは比べ物にならん。不利益を被ってでも叶えたい願いがある、そういう人間も多くて、世も末じゃよ」

「……でもチホ様は、魔法に慣れてないって、あたしを助けるために魔法だって使って……そんなちっちゃいやつらとは違う!」


 ロッテが吠える。妙な空気を打開するために、痛む体を起こして千穂は話す。


「ごめんなさい、何も知らなくて。」

「「チホ様!」」


 ミトとロッテが同時に声を上げる。そのあと互いを睨むが、またチホに顔を向ける。


「もう魔法は使いませんね。使いたくても、ぶつけられる痛みを知った今は気が引けます。そうでなくても、相当扱いに注意が必要なものですし」

「持つところにも刃がついてる包丁なんて不良品です! チホ様の魔力は凄いのに、それが使えないなんて……属性が全て悪いんです!」

「やめろロッテ。お前はそんなんでもユージェル一の闇魔力を秘めているんだぞ、言い方を変えれば闇の精霊に愛されている。闇の精霊――ダークの気に障るようなことをするな、チホ様のためでもある」


 ミトに諭されて納得はしたロッテだが、その表情は苦悶といっていい。何か、耐え難い事実を突きつけられたような。


「あ、えーと……いいですか?」


 胃がキリキリする中で少しでも場の空気をよくするために千穂はわざと明るく振る舞う。


「うむ? なんじゃ?」

「明後日には出発でしたよね。でも私、今ちょっと……」


 血が出るまで石をぶつけ合え。むごい事を言ったのだと今更思い知らされる。


「おお、そうじゃな。その身体では酷じゃ。二、三日延期しよう。よろしいかな、ミト殿、ロッテ嬢」

「はい、無理をなさらないで下さい、チホ様」

「チホ様! あたし、下から食べ物持ってくる!」


 優しく気を遣ってくれるミトに翁。自分を崇拝するロッテ。身体は痛むが、このご身分は悪くないと千穂は異世界に来たことを面白がってすらいた。


 リーゼルの宿屋に逗留して三日目の夜までは。

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