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眠れない異世界  作者: リック
同情が武器の灰かぶり
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救世主の実子

 高校生になった千穂(ちほ)は家族が大好きだ。今日も早く帰って母、穂積の料理を食べるのを楽しみにしている。好きなのは勿論父、イーヴァルも。何も家族だけではなくて、小さい子や動物、お年寄りが困っているのを捨て置けない性質なのだ。高校生にして老人ホームでボランティアもしている。

 

 そんな千穂の友人いわく。「何事も行き過ぎはよくないよ。アンタのは愛情深いというよりおせっかいの域。私がいなきゃこの人駄目になっちゃう~って、相手をつけあがらせて自分もチャンスをドブに捨てるのが見えるようだわ」


 何も知らないくせに。千穂は心の中で愚痴った。




 すっかり暗くなったボランティアの帰り道、千穂は友人に言われたことを考えていた。と、目の前が急に明るくなる。


「え? 車?」


 車ではない、と気づいた時には千穂は異世界へ飛んでいた。





「よく来てくれました、ホヅミ様のご息女」


 どこかの神殿なのだろうか、厳かな雰囲気、宗教的な衣服。目の前に立つ銀髪の男の人はそれは美しかった。場所はなんとなく分かったが、目の前の人間は誰でどうしてここにいるのか、母の知り合いなのか。千穂は状況を分析した。なにはともあれ、目の前の人間から聞くのが早そうだ。


「お名前を教えてもらえますか?」


 ニコニコと笑顔で聞く、第一印象が大事、と心の中で計算しながら。


「ミト、と申します」

「綺麗なお名前ですね、私は鈴木千穂です」

「チホ様ですか、これからどうかよろしくお願いします」

「……はい、よろしくお願いします」


 誘拐でもされたかな、と思ったけれど、何か違う。ミトさんはこちらが居たたまれなくなるくらいへりくだっている。


「先程母の名前を仰いましたが、知り合いですか? 私覚えてなくて」

「とんでもない! 私は、私の父は貴方様の母に酷い事を。それなのに、血の責任で貴方を呼ばなくてはならない。勝手を承知でお願いします、どうかユージェルをお救いください、救世主の実子よ」


 自分の頭がおかしいのかこの人の頭がおかしいのか。そこまで疑ったけれど、彼が目の前で火を出したり風を起こしたり、地割れを作ったり……。ここは魔法のある異世界だとたっぷり一日かけて実感した。




「……それで、私の属性が闇だから、闇の魔力がこの世界で一番強い人とともに闇の神殿に行ったあと、フジ山に行って氷づけの青年の前で手を掲げて終わりですか?」

「はい、間違いありません。チホ様は聡明でいらっしゃいますね」


 小さいがしっかりした造りの家で、二人して簡単な夕食をとりながら今後の予定を立てる。


「なら、闇の魔力が強い人はどこですか? 実はもう近くにいたりします?」

「それが……」


 ミトが言葉を濁す。馬鹿丁寧な対応といい、むしろ卑屈すぎる応対といい、度を越した小心者はかえって扱いづらいと千穂は思う。というか、何でこんなにへりくだっているんだろう? 地雷かもしれないから迂闊に聞けなくてはがゆい。


「こちらの不手際で、存在は分かっているのに誰でどういう人物なのか、それがまだ分からないのです。唯一知っている人間がいますが、その者の言うに、救世主に会ってから話すと」

「私ですね。じゃあ、早速明日、その知ってる方に会いに行きましょう」

「怒らないのですか?」


 多分年上なのだろうが、千穂の目にはミトが虐待する母親に依存する子供のように見える。しかし空気を読むのに長けた千穂はそう察してもあからさまに態度に出さず、あくまで温和な少女を装って話しかける。


「どうして怒らないといけないの? そりゃあ突然呼ばれたのはびっくりしたけど、必要とされてるっていうんだもの、放っておけない。でも私はユージェルのことを何も知らない。そういう部分は、貴方の力をぜひ借りたいと思ってる。何か変かな?」


 小首をかしげて問いかけると、ミトは顔を赤くしてそっぽを向きながら「いいえ」 とだけ言った。千穂が聡いのは空気を読むことだけではない。ミトが自分に何を感じたのかすぐに理解した千穂は、「明日からよろしくね」 と言って先に休む事にした。あのままでは空気がもたない。




 翌朝、寝ている間に用意された旅用の服を着て宿泊した家の外に出る。ミトはまだ寝ているようだ。起こすのも気が引ける。それより少しだけ外に出てラジオ体操でもしようと思った。外はちょうど朝靄がひいていくところだった。日の光に目をしぱしぱさせながら遠くを見ると、離れたところに大きな建物らしきものが見える。


「あれ、向こうの建物……もしかしてお城?」


 ヨーロッパの城にこの世界風のアレンジが入ったような外観。セレブとか城とかには縁がなかった千穂はただただ圧倒される。


「チホ様!」


 そこへミトが取るものも取らず来ました、という風情で駆けつけてくる。


「あ、勝手に外に出てごめんなさい。まずかったかしら?」

「いえ! そんな事はありません」


 ミトがまた顔を赤くして目をそらす。話があるなら早くしてほしいなと思わないこともない。


「ですが外に出てよろしいの王城内までです。昨夜はこの場所の説明がまだでしたね。あちらに見える建物が王のおわします城になります。異世界人の召還は私の一族が王に支援頂いて出来る事なので、召還場所も目の届く範囲……王のお住まいの一角をお借りして行っております」

「そうなんですか。あら? そうすると私、王様にご挨拶しなくてはいけないのでは……」


 妙な話だ。昨日は夕方頃に召還され、そのまま二人で家に入って一つ屋根の下一晩すごした。救世主への対応にしてはぞんざいすぎやしないか?


「……その必要はございません。先代の件で王は私と貴方様への直接の接触を控える事になさいました」

「分かりました。ありがとう。じゃあ、ミトさんの準備が終わったら、ご飯食べて手がかりを求めに出発しましょう!」


 寝姿のままだと今更ながら自覚して、ミトは千穂の前で三回目の赤面をした。

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