困惑
『ビアラ……? ビアラなのか? 何故戻って来た、逃げろ!』
固まる穂積の耳に不思議な声がこだまする。
「誰? 誰なの?」
得体の知れない声に困惑する穂積とサラを横目にカイがその声に応じた。
「兄上、私とは五百年ぶりですが、ビアラとは千年ぶりですね。懐かしいでしょう?」
『カイール! 貴様、まだ諦めてなかったのか!』
「兄上こそ、諦めてさっさと成仏すればいいものを。ああ、出来ないように俺が縛り付けているんだったなあ。アッハッハッハッ!!」
これはどういう事なのだろう。私は山で人身御供のように死ぬんじゃないの? 山には化け物が住んでいるんじゃないの? カイ様は、正義の人なんじゃないの?
「失われた魔法は、伝説の事件を最後に弟の一族のみが独占した。カイ、アンタ取り憑かれてるわね、伝説の弟は残った魔法かき集めて子孫に取り付くようにしたんでしょう! 愛しいビアラと今度こそ結ばれるために!」
何を言っているんだろう。それではまるで。
「サラさん、それじゃ私、罪人じゃないみたい……」
ポツリと言った言葉に耐えられなくなったのか、涙をこぼしながら穂積を抱きしめるサラ。
「しっかりして! 嘘なのよ! 悪いのは貴方じゃない、弟! 兄を騙して王位を奪い、その権力で民を洗脳でもしたんでしょう、ビアラは、ホヅミ貴方は巻き込まれただけなのよ、だから逃げ」
最後まで喋る事はなかった。カイがサラの脇腹を強く蹴ったのだ。穂積の耳に嫌な音が残る。
「サ、サラさん!」
「私に構わないで、カイから離れて早く……」
とにかくサラに駆け寄ろうとして、カイに行く手を阻まれる。
「カ、カイ様、サラさんが」
色を失った顔で訴える。この事態の張本人であるはずのカイは、今までで一番穏やかな顔をしていた。
「気にするな。三十年しか生きていない人間なんか虫以下だ。君が気にする価値はない、ビアラ」
「そんな……」
『今はホヅミというのか? なぜ、どうして戻ってきたんだ。死人すら貶めるような男のもとに』
不思議な声。耳をすませば確かに、あの氷づけの男の人からする。
「カイ様、お願いです教えて下さい、あの人は一体?」
「……俺から君を奪った男だ」
『違う、違う! 奪われたのは私のほうだ、王の地位も恋人も! 早く逃げてくれホヅミ、その男は前世の君を殺している!』




