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Spring Storm  作者: 五円玉
20/21

last story 水族館でーと中編

10時になり、水族館が開園となる。


俺達は開いた門をくぐり、園内へ。


そして門では、職員によるいらっしゃいませコールが。


「お客様、いらっしゃいます!」


「おいバイト、ますじゃなくてませ! ちゃんとお客様に誠意を込めろ!」


「はい先輩。お客様、いらっしゃいますぅ!


「バイト、てめぇふざけてんのか? いらっしゃいませだろ! ますぅじゃないの!」


「すみません先輩っ! では、改めて……お客様、いらっしゃいますぅ!」


「バイトぉぉぉッ!!」




何とも賑やかな水族館だな。


「春吉、最初はシャチ見に行こう! シャチシャチサメシャチ!」


「私……この水族館の名物の巨大水槽、見たい」


「ハル、やっぱり初めはペンギンだよね! ペンギンとお散歩だよね!」


門をくぐった直後から、三者三様の意見を言いたい放題に述べる三人。


「ちょ……お前ら、意見バラバラ過ぎ……」


ちなみに俺は深海魚が見たいのだが……


「最初はシャチ! サメでも可! とにかくデッカいの見ようよ!」


「大きな水槽で泳ぐ海月(くらげ)の群れ……まさにロマン」


「ペンギンよペンギン! ペンギンにエサあげたい!」


本当に意見バラバラ。


ちなみに入口でもらった案内図を見る限り、シャチは南の端、水槽は東の端、ペンギンは北の端と言う、場所すらもバラバラな件。


「どこから回ってもずげぇ効率悪い……」


もっと言うと、入口の近くに深海魚のコーナーがあるので、ぶっちゃけ深海魚コーナーを初めに回ると結構効率良く回れたり。


「あたしはシャチとタイマン張るんだ! アイツの起こす水飛沫にあたしは勝つッ!」


「海月見たい……」


「ペンギンってね、魚を頭から食べるんだって。後ろからだと魚の尾ひれが喉に詰まるみたいで……」


……深海魚コーナー行きたいって、何か言いにくいな。


雰囲気的に口はさめない。


「……じゃあジャンケンで決めろ。勝ったヤツの所を最初に回るって事で、いいだろ?」


無難な提案。


これなら文句あるまい。


「ジャンケンか……よし乗った!」


「……ん」


「ペンギンちゃん待ってて、今すぐ行くからっ!」


……何とか納得してくれたな。


そして皆が拳を出しあう。


「……で、何で春吉まで手ぇ出してんだ?」


「ん? え、何? 俺も参加は当たり前だろ?」


「……春吉、何見たいの?」


「海の神秘的な……そんなもん」


「ハル、それってつまりペンギン!?」


「ちゃうわい!」


ペンギンは神秘ってより愛くるしさ。


「よし、じゃあいくぞ! さーいしょはグー」


そして、俺の合図でジャンケンスタート!


「じゃーんけーん……ポンッ!」



















『只今より、中央プールにてシャチのショーを開催します』


場内のアナウンスに従い、俺達は水族館中央の屋外巨大プールに向かい歩いていた。


「よぉし、あたし勝つからな! 見てろよ春吉、あたしの勇姿をッ!」


「はいはい」


朝からずっとハイテンションな楓。


今も俺の前を走ったり跳ねたり。


小学生か。


「シャチだシャチ! あの肉食のシャチだ!」


「どんな基準でお前喜んでんの!?」


「白黒のボディはあのパンダと同じく、最強の証!」


「……まぁ白黒最強説は正しいな。俺もポリスメンパトカーには勝てないし」


「そしてなにより、あの図体のデカさ! あーもうシャチ大好き!」


「……今日の楓は輝いて見える」


マジで楽しそう。


「……でもまぁ」


水族館でここまでテンション上がる高校生ってのも純粋でいいな。


ここまで喜ばれると、むしろ一緒に来て良かった……って思える。


清々しい楓の姿に、俺は思わず苦笑。


そしてさっき……シャチの起こす水飛沫と対決とか言ってたけど、具体的には何なん?


「春吉も小夜も美羽も早くっ!」


「ったく、少しは落ち着けよ……」


元気ちびっこ楓はもう結構先のプール入口まで行っていて、こっちへ手招きしていた。


「……楓、楽しそう」


隣で歩く小夜が楓を見ながら呟く。

そんな小夜の声も少し弾んでますが。


「……あいつは万年ハイテンション野郎だからな。きっと自分よりでかい生き物がいればどこでも楽しめるようなお気楽さんなんだよ」


「……ふふっ」


何が面白かったのか、隣でくすくすと笑いだす小夜。


「だったら楓、サバンナとか行ったら凄く生き生きしそう」


「サバンナて……まぁ確かに、野生的な意味でも生き生きしそうだな」


サバンナで槍一本握りしめてライオンと戦う楓……ライオンさん逃げてぇ!


「ハル、小夜! アイス買ってきたよ!」


すると後ろから、器用にアイスを4つ持った美羽さん登場。


「お、サンキュー!」


美羽が持っているのは4つのソフトクリーム。


「はい小夜!」


「ん。ありがとう」


「はいハル!」


「スペシャルサンクス」


「で、楓……ってあれ? 楓は?」


美羽、楓を探してキョロキョロ。


「あ……楓は今、サバンナでライオンと戦ってる」


ちょっとほら吹く俺


「……え?」















何とか楓に追いつき、シャチのショーが行われる巨大プールの観客席へ。


「すげぇでかいな、このプール」


屋外設置の巨大プールは円形のかなり深いプール。


プールの外壁は透明のアクリル製で、水中がよく見える。


そしてその円形のプールを囲むように段々の観客席がある。


俺達はその一角の席に座った。


「やっぱり暑い日にはソフトクリームだな」


楓は超ご機嫌。


「……みんなも連れて来させてあげたかったな……」


小夜は兄弟の事を思っているらしい。

ちなみに今、小夜兄弟は祖父母の家に長期滞在中。


「暑い……なんでここ屋根ないのよ……」


美羽は溶けかかったソフトクリームと格闘中。


……楽しんでんの、楓しかいねぇ。






そんなこんなで始まったシャチのショー。


『はい、次はプール上のリングをくぐります!』


トレーナーの指示に従い、プール上のリングをくぐる巨大なシャチ。


黒と白のシャチは迫力満点で、まさに圧巻。


ショーの観客もかなりいて、皆が一様に拍手をしたり絶叫したり。


ザブンッ!


シャチがプール上のリングを器用にくぐり、会場全体から拍手喝采。


で、俺の隣の人も拍手喝采……ではなく。


「あたしだったらもっと早くリングくぐる!」


だの、


「潜水スピードなら負けない!」


だの、(いやこれは無理だろ)


「あたしならもっと高く跳べる! あい きゃん ふらいっ!」


だの、(これも無理だろ)なぜか楓さん、やたらと張り合いを見せようとしていた。


「負けない、あたしは絶対に負けないっ!」


「楓さん、常識ってものをわきまえましょう? あなたもう16歳でしょ?」


シャチの行動一つ一つにテンションが上がる楓。


見ていて楽しい1割

なんかはしゃぎ過ぎじゃね?8割

危ない人にも見えなくは……1割


『次は皆さんにシャチくんがシャワーをお届けしますよぉ!』


リングくぐりが終わったシャチくんがトレーナーのそばへ。


「なにっ、シャワーだとっ!?」


楓さん力み過ぎ。


「暑いからちょうどいいね。さぁ来いシャワー!」


「美羽、せめてビニールかなんか被らないと悲惨な事になるぞ!?」


美羽、席を立ち上がりヨタヨタとプール目前へ。


「美羽待て、お前は今暑さで正常な判断能力が欠け……」


「さぁシャチ、わたしにシャワーを……潤いを……」


「美羽ぇ〜!」


ちなみに小夜は1人、冷静にビニールカバーを被り中。


「さぁシャチ、ここからは男の戦いだっ!」


一方の楓も間違った方向へ。


一応お前は女だぞ?


一応。


そして……




ザバンッ!




シャチがプールに飛び込み、盛大な水飛沫を起こした。


ザバッ


その水飛沫は観客席へと降り注いだ。


『きゃあああッ!』


普通のお客さん達はビニールカバーを被り、衣類の安全を確保した上で水飛沫を浴び、楽しそうに絶叫。


「うおりぁあああ!」


お客さんの一部(主にちっちゃい男の子)と楓はビニールカバーを被らず、真っ向から水飛沫を浴び、


「……ひゃっこい」


小夜は絶叫もせず、ただただ目を輝かせながらカバー越しに水飛沫を浴び、


「痛いッ!」


「水飛沫痛ッ!」


プールのそばにいた美羽と、それを追いかけていた俺は水飛沫のデカイのが直撃。


冷たいってよりも痛い。


そして……


「しまった、アイスに水飛沫がぁ……」


楓、美羽、俺のソフトクリームが全滅した。



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