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Spring Storm  作者: 五円玉
19/21

last story 水族館でーと前編

「やって来ました水族館! 来たよ来ちゃった来たんだよ!」


「落ち着け楓。高校生が水族館のチケット1枚で興奮し過ぎだ!」


これは夏祭りの音楽ライブの翌日の話。


ライブの打ち上げを兼ねて、今日俺達は隣街の水族館へ遊びに来ていた。


メンバーは俺(木山くん)に楓、小夜、美羽の四人。


ちなみに、残りの二人はと言うと、




―――赤佐の場合


「もしもし春吉? ……悪い、明日の打ち上げだけど、昨日のライブではしゃぎ過ぎたみたいで……風邪引いたみたいでさ。もしかしたらパスるかも」


「そうなん? じゃあお前水族館無理だな。小夜にもそう伝えておくわ」


「すまない……って、え、何? 荏咲さん来るの? バイトで来れないんじゃないの?」


「……お前な、明日しか夏休み中に空いてる日が無いって小夜が言ったから、水族館明日になったんだろ?」


「え、そうだったの? あ、俺、なんか風邪治った……」


「じゃあ赤佐は風邪だから欠席。了解。じゃな」


ガチャッ


「あ、もしもし春吉っ? もしもーし、もう俺元気っ……はぁ」




―――亜希の場合


「私、明日はちょっと裏で用事が……」


「裏で用事って……何?」


「そこは春吉くん相手でも秘密っ!」


「…………」


「だから明日はパス。また今度、二人で遊園地にでも行こうね!」


「…………」










……とにもかくにも、結局俺達四人で水族館へやって来たわけ。


入場チケットは夏祭りに参加した時、参加してくれたお礼にって町内会のおじさんから頂いたもの。


「……にしても、今日は暑いな」


季節は夏。

空には雲一つ無い。


真っ青な快晴の中、ジリジリと大地を照り付ける太陽の光。


アスファルトには陽炎が揺れ、水族館入口の横の植木からは蝉の大合唱。


そして辺り一面人だらけ。


家族連れ、友達同士、カップル。


とにかく人だらけ。


皆、額や頬には大粒の汗を流している。


「ハル、早く中入ろうよ。もう暑くて汗が……」


隣を見ると、春先に買った白い爽やかなブラウスに、ミントギンガムのプリーツスカート、そして淡い水色を基調としたバックを持つ、見た目爽やかな美羽の姿。


その額には大粒の汗が。


「……私も中入りたい」


そしてそのさらに隣、パステルブルーのノースリーブを着た小夜にも大粒の汗が。


「よぉし、今日はシャチと戦う! そして絶対勝つッ!」


と、一人後ろで意味不明に息巻いているバ楓は純白のワンピース……なんか着るわけも無く。


海人……と書かれた白いTシャツにショートパンツというスタイル。


「ハル、早く入ろうよ……アスファルトの上暑い……」


「同意」


現在、水族館入口前のロータリーみたいな広場。


そこに大勢の客と共に、俺達も待機していた。


「お前らなぁ……もう少し待てよ。あと十分なんだからさぁ」


俺はポケットから携帯を取り出し、画面を確認。


太陽の光が反射してよく見えないが、今の時刻を確認する。


「十分も待てない……暑い……」


いつもはシャキッとしている美羽も、夏の暑さだけには弱い。


現にこうしでグダッてるわけだし。


「仕方ないだろ。まだ水族館開園してねぇんだから」


現在9時50分

開園10時ジャスト


混雑を避けるため、ちょっと早めに来た結果がこれだ。


案の定客多いわ、待ち時間中日差し直撃で暑いわ。


「暑い……干からびる……干物になる……」


「頑張れ美羽、もう少しで開園だから耐えろ! アジの開きになんかなるなッ!」


「……アジの開きになる。もう喉カラカラだし、日焼け止め塗り忘れたし」


「美羽の開き……何か……グロい」


「小夜も何言ってんだよ! 美羽の開きなんて……は、箸止まるなソレ」


「何よ二人揃って。そんなにわたしを干物にしたいわけ?」


暑さでちょっとイライラ気味のダーク生徒会長さん。


全く……


「そんな喉乾いたんなら……ほれっ」


俺は手に持っていたお茶の入ったペットボトルを美羽に渡す。


「飲み物くらい持って来いよな……」


「しょうがないじゃん。中で買えばいいやって思ってたんだから」


何かぶつぶつ言いながらペットボトルのキャップを外す美羽。


そしてキャップを外し終えた時、ふいに美羽の動きが止まった。


「……ねぇハル?」


「何だよ? ……あ、伊右衛門じゃ嫌だってか?」


「え? あ、いや、違うの。こ、このお茶……」


「……あ、俺の飲み掛けだから嫌だってか」


「えっ……や、やっぱり……」


「……嫌ならいいよ飲まなくて。ほら、返せ」


「あっ、違うっ! も、貰うよお茶! もらうもらう!」


「……何なんだよ?」


意味分からん。


とにかく、何故かペットボトルの飲み口をじぃ〜っと凝視する美羽。


もうそりゃじぃ〜っと見てるわけで。


「…………」


なんか……ハズい。


何? 何かついてんの?


何なの? 何か恥ずかしい……。


「……じゃ、じゃあ」


そして、意を決したかのように、飲み口を唇へと運ぶ美羽。


何故だろうか、その動作がやけにスローモーションに見える。


「んぅ……」


そしてペットボトルの飲み口が、美羽の唇に触れようとした、


その時


「うわっ!!」


後ろで対シャチ用戦闘シュミレーションなる意味不明な事をしていた楓が突然バランスを崩し……


「み、美羽どいてぇ〜!!」


「……えっ?」


ドンッ!!!


衝突事故発生。


「いてて……」


「痛っ! ちょっと楓、何してんのよ……」


その場でしりもちをつく美羽と楓。


「大丈夫かお前ら? 今結構勢いあったみたいだけど……」


「あはは、ちょっと力み過ぎた」


「あははじゃねぇよバ楓。お前少し周りの目を……」


「……あ? 誰がバ楓だって?」


「え? うおっ……さ、殺気が……」


大魔人こんにちは。


「誰がバカだって?」


「ちょ、楓……さん。一旦落ち着こうそうしよう!」


「…………」


「無言怖ッ!」


そうこうしながら、俺は美羽の方にも視線を向ける。


……華麗にタックル喰らった割にはペットボトルを死守したらしく、お茶は美羽の手の中で一滴もこぼれずにいた。


「もう……スカートに埃ついた……」


そう言って一旦ペットボトルを植え込みの縁に置き、スカートから埃を払う美羽。


「うぅ……せっかくハルと選んだ服なのに……」


その時……


そっと。


植え込みの縁に置いてあったペットボトルを、小夜が手に取り。


「……春吉、一口ちょうだい」


「ん? ああ、いいぞ……って楓、落ち着けッ!!」


「……ありがと」


そして、飲む前に一瞬飲み口を凝視し(いやホントなんで?)そのまま一口ごくり。


「え? ……ああっ!!」


そしてそれを見た美羽、何故か大声出す。


「……美味しい」



お茶を一口飲み、半分楓にやられ(漢字変換すると……殺られ)掛かっている俺にペットボトルを差し出す小夜。


「ありがと」


その小夜の頬は少し紅潮気味。


そんなに暑いのか……


早くクーラーの効いた水族館内へ連れて行ってやりたい……


「おう。……で、美羽も飲むか?」


俺は片手で楓の頭を押さえ、もう片手で小夜からペットボトルを受け取る。


「あ、ちょっ、頭押さえるなバカ吉ッ!」


すると美羽は少し残念そうな顔をしながら、


「……うん。一口もらう」


なんか、凄く残念そうな美羽。


さっきまでの覇気はどこに……






こうして、俺達は開園までの時間を過ごしていった。

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