parallel story -04
今回は第4話。
美羽は3人のヒロインの中でも微妙な立場ですよね。
楓や小夜ほどキャラ濃くないし。
まぁ、何が言いたいのかと言うと、非常に動かしにくいキャラだって事です。
とある放課後、葉城高校図書室。
「問題、ドイツの首都はどこ?」
「ど、ドイツ? えーっと……」
俺は必死に考える。
だって、考えないと……
「……あと5秒」
「あっ、ちょ、待って美羽っ!!」
そう、時間内に必死に考えて、答えを出さないと……
「……3秒」
「だーっ、待ってってば!」
「2秒」
「えっとドイツドイツ……ドイツと言えば……えーっと」
「1秒」
「……ドイツと言えば」
「はい0」
「……シュヴァルツェア・レーゲン?」
「……残念っ!」
そう言うと、美羽は手に持つ竹刀を掲げて……
「はい罰ゲーム!」
彼女は笑顔だ。
「待ってごめんなさいっ! 止めて、ベルリンの赤い雨だけは止めてッ!!」
「せいやっ!」
ぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!
明日はテストだ。
俺こと木山春吉はすこぶる勉強が出来ない。
だからさっきまで権三朗と図書室で勉強していたのだが。
「悪い、俺さ、今突然魔術師と昔した契約を思い出してさ、ちょっくら公園行ってくる」
とか言う15分間に7回殺されないと死なない某主人公みたいな事言って、颯爽と図書室から逃げやがった。
ちょっとムカつく。
何等かの理由で8回死んでしまえ、このエセ某主人公。
で、
「あ、もしかして春?」
権三朗と入れ違いで図書室にきた美羽が、
「あ、じゃあ私が勉強見てあげようか?」
などと言うありがた迷惑をぶちかましやがり、
「え、いいですよ別に! いや本当にいいです、いやマジで遠慮します! ってかいらない」
と言う俺のささやかな抵抗虚しく、
「大丈夫よ、だって私生徒会長なんだし、勉強はそこそこ出来るわ!」
と、ニッコリ笑うダーク生徒会長の右手には勉強と無関係の竹刀が握られており、
「あ、部長! あの、倉庫確認したら竹刀が1本無くなってまして……」
「マジで? 誰か持ってったのか? ってか倉庫には鍵を閉めていたのに……」
などと廊下から剣道部の連中の竹刀盗難騒動の一部始終が聞こえ、
「……私、生徒会長だから」
と、職権乱用的発言が目の前のダークさんの口から聞こえた。
そして……
「次、中国の首都はどこだ?」
「中国……中国……」
「残り5秒」
「中国……広東じゃなくて……」
「4秒」
「四川でもなくて……上海でもない……」
「3秒」
「チベット……は違うし、大連でもない……」
「2秒」
「天津、香港、広州、西安……吉林、唐山、青島、南京……あぁ、どれも違うっ!」
「何でそれだけ知ってて首都が出てこないのよ……あと残り1秒」
「えーっと……あ、分かった!」
「はい残り0!」
「甲龍ッ!」
「はい罰ゲーム」
うわ目がマジだ。
「ちょっ……ゴメン、2度もオチがインフィニット的なモノでゴメンっ! ……うおっ竹刀は止めてっ!」
「歯、食い縛ってね!」
「やだぁッ! あの北京オリンピックん時の北京郊外に住む人が起こした暴動並みに止めてッ!!」
「……春、絶対わざとだよね!」
「は?」
「せいやっ!」
ぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!
「痛い……身体も痛いが、特に精神が痛い……」
「何言ってんの春?」
地獄のテスト勉強後。
時刻は午後6時。
俺は半ば生きた屍状態で学校を後にする。
隣には美羽(笑顔)。
「……ねぇ春」
もう月が空に昇っています。
そんな薄暗い夕闇の中、下校していた俺と美羽。
「んあ?」
「あのさ……この後、暇だったりする?」
「……何で?」
「ちょっと……ね」
美羽のちょっとはだいたいちょっとどころでは済まない事ばかりだ。
「……具体的に言え」
「えーっ……うぅ」
「何だよ、何で言えない、何でためらう」
逆にそのためらいが怖いんだよっ!
「……じゃあさ」
そして地味に恐怖にうちひしがれている俺を尻目に、美羽の口が開く。
「……今日、勉強教えてあげたって事だから、その代わりに」
「……あれ勉強違う、拷問言います」
「買い物付き合って!」
「……はぁい?」
「あ〜っ! この服可愛いっ!」
「…………」
「あ、こっちのもいいなぁ〜!」
「…………」
「でもこっちも捨てがたいし……」
「…………」
女のショッピングってのは、時間が掛かる。
現在某ショッピングモール内の衣類販売店。
結局あのあと、半ば強引に美羽に連れてこられて、荷物持ち状態。
「うーん……迷う……」
美羽さんは夏用の服を求めているらしく、涼しげな爽やか系の服ばっかりチョイス。
「……ねぇ春」
「何? まさか俺にどっちがいいか決めさせるとか?」
だったら適当に右って言いますよ。
「違うよ。ちょっとこのワンピース、試着してみてくれない?」
「……はぁ?」
美羽の手には、1着の涼しげなワンピース。
「着てる状態での後ろとかも見たいから、春! お願い!」
「え〜っ、やだよ。俺松雪さんじゃねぇし……」
こんなん着て山ん中全力疾走しろってか?
アレか、あの日見た松雪さんの勇姿を僕達はずっと忘れない……か?
「ねぇお願いっ!」
「めんま……じゃなくて美羽のお願いかっ!」
「だめ?」
「だめ。俺のプライド的に」
「……ちぇっ」
そう言うと、渋々ワンピース片手に試着室へ向かう美羽……ってか
「自分で着る選択肢あんのに、何故俺に着せようとしたっ!?」
「…………」
「黙るなっ!」
すげぇ明後日の方を向きながら、美羽はすぐさま試着室へ。
「……ったく、俺を女装させて何がしたい!」
何だ、第三の性別的アレか?
某秀吉的アレか?
それから数十秒後、試着室のカーテンが開いた。
「ど、どう?」
「……あ、ああ」
そこにいたのは、いつもの3倍は輝いている濱垣美羽の姿があった。
ってか着てるの、さっきのワンピースじゃねぇし。
けど、白を基調とした爽やかなブラウスに、それを引き立てるかの如く、ミントギンガムのプリーツスカート。
これがまた美羽の雰囲気そのままで、正直めちゃくちゃ可愛いかったが、それは言葉に出さないでおく。
「ま、まぁいいんじゃね?」
「そう? ……じゃあ買っちゃおうかな?」
試着室後ろの鏡に映る自分を見て、購入の決意を固めた美羽。
「買っちゃえ買っちゃえ。買って買って買いまくって景気を復活させろっ!」
「じゃあ買う!」
相変わらず笑顔の美羽。
……やっぱり、いいな。
そして約1時間の買い物の後、ショッピングモール1階のドーナツショップで軽い食事。
美羽の手には、買い物袋が2つ。
「このダブルチョコドーナツ美味しいっ!」
「お前、本当にチョコ好きだな……」
美羽のトレイにはチョコ系のドーナツが3つ。
見た目黒々。
ちなみに俺は苺、チョコ、プレーンとバランス重視。
「しかし……ドーナツ食べると夢とキボーが沸いてくるよな」
「ん?」
「何でもない」
俺は美羽の?顔を無視し、苺ドーナツをがぶり。
甘い、あまーい。
「やっぱりチョコ最高っ」
美羽もチョコドーナツを一口食べ、満面の笑み。
「すげぇにやけ顔」
「う、うるさいっ!」
俺の言葉にちょっと赤くなる美羽。
やっぱりからかいがいがあるなぁ。
美羽はちょっと慌てながらオレンジジュースを一口。
……しかし。
「なんかさぁ、俺らデートしてるみたいだよなぁ」
「ぶほぉっ!」
何気なく言った俺の言葉に、何故かめちゃくちゃ反応した美羽。
しかもオレンジジュースを吹き出す始末……って
「うおっ、ちょ、何かけてんだっ!」
美羽の正面に座っていた俺のワイシャツに、美羽の吹いたオレンジジュースがびっしゃり。
「げほっげほっ……ちょ、ちょっと春っ! あ、アンタ何言ってんのよっげほっげほっ!」
顔真っ赤にしながらむせてる美羽。
「何って……ってかまずジュース拭け! ……ほら紙!」
俺はドーナツについてきた紙のナプキンを1枚美羽に手渡し、残りで自分のワイシャツのジュースを拭き取る。
「も、もうっ! 春は無神経過ぎるのよっ!」
「は? 何が?」
「う、うううるさいっ!!」
顔真っ赤で半ば暴れ出す美羽。
お前は怪獣かっ!
しかし……
「……うわ、やっぱり携帯濡れちゃったか」
テーブルの上に置いてあったマイ携帯。
それは、オレンジの香り漂うただの機械の塊へと化していた。
……はぁ。