第93話「山賊団、再び?」
ロート・ブラッド山賊団とは、国の組織の下働きという山賊にあるまじき行為をしている国家の犬であり、その仕事中不運にも鉢合わせてしまった勇者に気まぐれから団を半壊状態にされた何とも可哀想な、しかし元々が山賊団なので実は一カケラも同情する必要の無いしょうもない連中である。
そんな連中にどうしてアレスが関心を持ったのかと言えば――
「もう一回捕まえれば、また報奨金が出るかも!」
ということを考えたからであった。前回捕まえたときは良い金になった。もしもヤツラがその辺にふらふらしているのであれば、ちょろっと行って捕まえてくればよい。
「凶悪犯が脱獄したというのに市民の平和を気にかけもせず金勘定とは、大した勇者もあったものだ」
すかさずズーマが茶々を入れてきたが、アレスは気にしない。そんな綺麗ごとが言えるような経済状況ではないのだ。平和とか平和でないとかそんなことは懐があったまってから考えれば良い。
「旅費は全てに優先する!」
ボディガードの男が長に一礼すると、ヤナの元へと向かい、「お嬢。本当にこの男は信用に足るんですか?」と無骨な顔に似合わぬ心配そうな声を出した。ヤナは隣にかけていたエリシュカに顔を向け、「どう思う?」と尋ねた。夕食の皿に向かっていたエリシュカは顔を上げて一言、
「嫌い」
ヤナの問いかけへの答えになっていないことを答えると、再び一心にディナーに向かった。
「まあ、そういうことだから心配するな」
男は納得できない目をしながらも、「大丈夫だから」とヤナに念を押されて、不承不承、主の元へと戻った。その間に、男は、まるで百年の仇を見るような憎悪と嫌悪の入り混じった視線でアレスを見た。アレスは身をすくませた。こういう男たちがあと数十人いるのである。ぞっとしない話である。
ひとしきり身を震わせたあとアレスは、ロートブラッドのメンバーの行方を訊いた。
「呪式研究所に帰ったんじゃないだろうな?」
そうだとすると手が出せない。出してもいいが、呪式研究所は公的機関であって、そこにはイードリの自警団や冒険者協会は介入してくれないだろう。当然、報奨金をもらうなどという話にはなりようがない。
「市民の為に無償で働け」
からかいを含んだズーマの言葉をアレスは無視した。単なるボランティアをやっている時間は無い。
「で? どこにいるんだよ?」
アレスが投げた疑問は返って来なかった。
長はむっつりと押し黙った様子で答えようとしない。「自分から話し始めたくせに何なんだ、このおっさん」と思ったアレスが答えを求めてヤナを見ると、
「お前が相手にしてるのは情報屋だぞ。聞きたいことがあったら金を払え」
そう言って彼女は肩をすくめた。
アレスは、長の隣に侍るマッチョマンに視線を向けてから、再び長を見た。
なるほど。長の立場上、部下の手前、無償で情報を提供するようなマネはできないというわけだ。面倒くさい! それはともかく、長の発言には一体どういう意味があるのか。その発言が彼の善意から出ていると解釈すると、発言された情報を知ることはアレスに対して何らかのメリットがあることのはずである。
「まさかとは思うけど、逆恨みしてオレを狙ってるとか言うんじゃないだろうな」
アレスが反射的に考えたことがそれである。
「オレたちにクサい飯を食わせやがった恨み、晴らさでおくべきか。やるぞ! エイエイオー!」
円陣を組んで、士気を盛り上げる山賊連中の姿が目に浮かび、アレスはげんなりした。追っ手はもう十分に足りていて、これ以上は必要無い。
「大体どうして脱獄なんていう話になったんだか」
楽して金儲けをするどころか闇からつけ狙われる人数が増えたかもしれないという事態に、アレスがテンションを下げると、
「なかなかどうして信じられない話なのだがな」
と言って長が唐突に話し始めた。アレスがヤナを見ると、
「既に巷間に広まっている情報には価値が無い。料金を取らずにしゃべっても組織の規律に反することにはならない」
そう言って彼女は、父の変貌ぶりを説明した。ますますもって面倒くさい話である。
「大人とはそういうものだ、少年」
もったいぶった様子で一言釘を刺した長は、イードリ市の南にある監獄が昨日の昼日中襲撃を受け、強引に囚人が連れ去られたのだと続けた。
「そんなことがあるのか」
とはアレスは思わなかった。世の中、信じられないことが起こるのである。情報屋協会の長がそれを知らないはずがない。にもかかわらず、「信じられない」という形容を使ったのだから、もっと凄まじい事実があるのだろう。アレスは先を促した。
「監獄を襲撃したのはたったの二人だった」
「二人?」
監獄というのは一種の要塞のようなものである。それを二人で落としたというのは?
「しかもまだ年端のいかない子どもだったらしい」
長はそこで、真摯に料理に向かっているエリシュカを見て、
「そのお嬢さんよりもなお若い男の子と女の子の二人組だったということだ」
と続けた。
アレスは長を見た。
長はしばらくの間、その顔を白髪の少女に向けていた。
それが何を意味するのか分からないほど、アレスの勘は鈍くない。