第82話「戦闘後の後片付け」
街道脇に騎士の体が累々と横たわっている。
運良く街道を通るものがいたらのけぞることだろう。
「フ、また、生き残っちまったか。因果なもんだゼ」
「おい。意味なくカッコつけてる場合かよ。さっさとここを離れるぞ」
ヤナの注意の声に、アレスは従おうとしたが、その前にやるべきことがある。
アレスは色々とミスをする男であるが――特に対女の子との関係ではそれが多い――こと、戦闘に関しては疎漏が無い。判断ミスが即、死を招くという厳しい状況で生き抜いてきたせいである。アレスは、ごろりと寝転がっている騎士たち三人分の体に光の剣を振り下ろした。それから、少し離れたところに倒れている隊長の体にも斬りかける。四人の体は、一様に痙攣した。
「念のためだよ」
アレスはヤナに、死体に鞭打つような行為の言い訳をした。今魔法の剣で斬った相手は、全てヤナが打ち倒したものである。そのうち目を覚まして追いかけてこないとも限らない。その点、アレスの持つ剣で斬られると、基本的に半日から一日は何をどうしても目を覚まさない。剣が帯びる魔法の効果である。
アレスはひそやかに呪文を唱えると、魔法剣の光を消した。鞘に戻す。
「それにしてもヤナ、よくオレのやることが分かったなあ」
「お前のやることなんか分かるわけないだろ。ただ、絶対何かつまんないことするはずだから、それに応じて動いてやるよっていう、あのウインクはそういう意味だよ」
「つまんないってなんだよ。ナイスアイデアだっただろ?」
「どうかな」
「何にしろ、連携して動いてくれたわけだからな。オレたちいいコンビになれるんじゃないか?」
「いや、あたしみたいなか弱い子には勇者のパートナーは荷が重い」
「四人も殴り倒しておいてよく言うよ。それに、魔王を倒すまで付き合ってくれるんじゃなかったっけ?」
「それは、あれだよ。戦力的な意味じゃなくて、こう、精神的な支えって意味ね」
「十分戦力になるって」
ほがらかに笑いながら二人が歩いて行った先で王子が待っていた。ルジェはまだ信じられないのか、ぼーっとした顔をしている。アレスが「離れたほうがいいぞ」と言っても反応が鈍い。事ここに至ってもまだ太子のことを信じたいのだろう。
「こいつらが太子の名をかたっているという可能性もありますからね」
ヤナが言う。その声にはなぐさめるような色は別に無い。今の段階では、情報が少ないということを言っただけの話である。
「とりあえず、フェイか」
アレスが応じると、ヤナが心得たような顔で、気を失っている裏切り者(推定)のもとへと歩いた。友人に何をする気かと慌てた顔を見せた王子だったが、ヤナは静かに地に膝をつけると、フェイの頭を自分の膝の上にのせた。そのままの体勢で彼の頬をぴたぴたすると、ほどなくして目を覚ました。
上から可憐な顔が覗いているので、フェイは驚いたように立ち上がった。それから、主の顔を探し、その無事を確かめると、周囲の光景を見渡して、ぎょっとしたような顔を作った。王子は簡単に事情を説明したあと、
「フェイ、キミはボクの敵なのか?」
抑えたような声を出した。
その声に万感の想いがある。
フェイは、大仰に首を振った。
「おれは無関係です。確かに、宿場町に寄るたびに諜報部に報告はしてましたけど、こんな話……王子を殺すなんていう話は聞いてません。もし聞いてたら、王子に知らせるに決まってるじゃないですか!」
心からの怒りを含んだ声に、ルジェはホッと息をついたようである。
だが、ルジェ以外の二人は、彼ほど人は好くない。
「決まってるかどうかは分からないだろ。諜報部ってのは王のための組織であって、王子のための組織じゃない。優先すべきは王の命令であって、王子の利益じゃないからな」
アレスが口を差し挟むと、
「それに、フェイさんの報告によって、こういう状況を招いたことは事実ですからね。仮に悪意がなかったとしても、悪意の無い悪というものもあります。王子をお守りする立場であるのに、逆に危難を招いていては世話がない」
ヤナも容赦なく続けた。
フェイは言葉を詰まらせた。
「そんな言い方はやめてください」
友人を信じている、いや信じたいルジェがフェイの弁護に回ろうとしたところ、
「良い人にもほどがあるって。今、あんたは死にかけたんだぞ。オレとヤナがいなかったら、確実に死んでたんだ。そいつが刺客の一味かもしれないのに、よくかばう気になるな」
アレスは呆れたように言った。
「彼が無関係だと言うなら、無関係なんです。ボクはフェイを信じます!」
王子は迷いを断ち切るようにきっぱりと言った。
フェイの目が大きく見開かれた。
アレスは肩をすくめた。
「まあ、好きにするさ。友情ごっこで命を落とすのはあんたの勝手だ。さっき言った通り、ここからは別行動を取らせてもらう。馬車は一台もらってくぞ。構わないよな? 嫌だって言っても勝手にもらってくけどな」
そう言うと、アレスは、一番初めに光の剣の餌食となった諜報部の青年の腕を持つと、ずりずりと引きずり出した。王子と別れるにしろ、情報は押さえておきたい。
「こいつから何か聞き出せるだろ」
「拷問するのか?」
「うわ、きっついな、ヤナ。それ、女の子の発想じゃないって」
「でも、そいつが素直に話すわけないだろ」
「そういうときのためにズーマがいる。世界一の大魔導士にふさわしいチャチな仕事だろ……それにしても、重いな。ヤナ、引きずるの手伝ってくんない?」
「いやだ」
しばらくの間、青年の体を引きずっていたところで、後ろから駆け寄ってくる足音がして、二人は立ち止まった。振り返った二人の前に、正座するフェイの姿がある。不審がる二人の前で、フェイは必死の形相を見せると、がばっとその茶髪の頭を下げた。