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第62話「エリシュカの告白 パート2」

 エリシュカの話によると、彼女の「姉」は呪式の力で人――山賊団等の非合法集団らしい――や、獣――主に害獣――を殺す自分を忌まわしいものに思うようになったということだ。

「自分で自分が怖いって言って、姉さま、震えてた」

 そういうエリシュカが体を少し震わせたようである。

「それだって別に殺すことはないだろう。あのおっさんがかけたものなら解けるはずだ。自称、芸術家らしいからな」

「解けるかどうかとは関係ない。呪式が消えても人殺しをした事実は消えない」

 アレスにはなお分からないことがあったが、とりあえずそれで分かったことにしておいた。

「で、キミは姉さんを殺すため魔法剣を手に入れようとして、研究所を出た。首尾よく魔法剣を手に入れたキミはオレを裏切って研究所に帰った」

「それ、まだ怒ってんの?」

「いや、全然、まさか。それで?」

「わたしが帰ったときには、姉さまはもう王都に送られてた。わたしは間に合わなかったの。それで、ゼツボーして、でもがんばったからもういいかとも思って、博士の呪式を断ってそのまま死のうかなと思ったところにあなたが来た」

 誰かがこの子を教育してやらねばならない、とアレスは思った。あんまり楽しそうな仕事ではないが、これはやはり身近にいるちゃんとした大人の義務であろう。アレスは両手でエリシュカの頬を挟み込んだあと、ほっぺたを思いきりつねってやった。

「いふぁい! はにふんの!」

「おしりを叩かれないだけありがたく思え。このクソガキ! 二度と『もう死んじゃおっかなあ』なんてこと簡単に考えるなよ。さっき帰ってくるときに言ったけど、キミの命はオレが助けたんだからな。オレの言う通りにしてもらうぞ。せめてキミにちゃんとした判断力がつくまではな」

 ほっぺたをつねられたまま頭突きでもしてくるかと思ったが、意に反して、エリシュカは素直にうなずいたようである。これもまた闇の効果かと思えば、今後誰かしらと何かしら大事な話をするときは暗闇の中でしたほうがいいかもしれない、とアレスは思った。それから手を放した。

「でも、わたしの命はあと半年なんでしょ」

 はっきりと顔が見えないので確信はできないが、どこか楽しんでいるような声である。

 アレスは不承不承、そんなことにはならない旨、請け合った。

「じゃあ、死病が治ったら結婚してあげることにする」

「亭主関白を忘れるなよ。口応え、厳禁。家の外では常に夫の三歩後ろを歩き、人前では夫を立てること。家の中では家事を全てパーフェクトにこなし、夕食はオレが帰ってくるまでは絶対にとらない。キミ、料理は作れるか?」

「やったことないけど、やってみる」

「良し。その代わりに出されたものには絶対に文句を言わないことを約束する。何でも美味しいと言って食べるつもりだ。妻に暴力は振るわないし、怒鳴ったりもしない。賭け事もしない」

「浮気は?」

「もってのほかだ。一番やっちゃだめなことだろう」

「じゃあ、他の人にプロポーズするのは?」

「ダメに決まってる」

「でも、さっき、してた。ヤナに」

 エリシュカの口調がとげを帯びた。ようやくアレスはエリシュカが機嫌が悪かった理由が分かって、自分のことを「この、ニブチンヤロウ」と罵りたくなったが、しかし、よくよく考えてみれば昨日会ったばかりの子の気持ちなど分かるはずもないので自分を罵倒するのは控えておいた。褒められることの少ない一生である。せめて自分くらいは自分を肯定評価してやりたいものだ。

 アレスはそろりと話題を変えた。

「お姉さんを殺すっていう気持ちに変わりはないのか?」

「頼まれたことをする」

 エリシュカの言葉に力がある。

 アレスは、ぽんと少女の頭に手を乗せた。

「まあ、あんまり力むなよ。勇者を頼れ」

「アレスって本当に勇者なの?」

「何を以って勇者と呼ぶかによるけどな」

「竜倒せる?」

「やったことない。それに知らないのか、あれは聖獣だ。倒すと呪いを受けるんだぞ」

 アレスは得意になって教えてやった。

「じゃあ、お城、壊せる?」

「何で城を壊す必要があるんだよ?」

「勇者ならそれくらい強力な魔法を使えるはず」

「オレは魔法は苦手なんだ。勇者っていっても人間だからな、得手不得手はある。剣なら自信あるぞ。呪いの剣の力を借りれば、小さな砦くらいだったらいけるかもな」

「ふーん、つまんない」

 そう言うと、エリシュカは立ち上がって、衣擦れの音を立てた。淡い月光の下で下着姿になったエリシュカはぼんやりと発光しているかのような白さを見せた。彼女は、脱いだワンピースをテーブルの上にぞんざいに投げるとのろのろとベッドに横になり、そのまま毛布を手繰り寄せてくるまり始めた。

「おい、自分の部屋で寝ろよ」

「面倒くさいから、ここで寝る」

「ここはオレのベッドだぞ」

「だから? 夫婦だったらおんなじとこで寝ていいって聞いたことある」

「オレたち夫婦じゃないだろ」

「それにそばにいろって……ん」

「エリシュカ」

 毛布越しに軽く体を揺すってみたが、反応が無い。早くも夢の国に旅立ってしまったようだ。抱きかかえて彼女の部屋に連れて行こうかと思ったが、面倒な上、下着姿の少女を部屋の外に連れ出す勇気はなかったのでやめておいた。アレスはズーマのベッドに入った。ズーマがエリシュカの部屋で寝てくれれば一件落着である。

「そういうことだから、よろしく。オレは寝る」

 誰もいない部屋の中でアレスが言った。

 闇の中で、テーブルに置かれた剣の宝玉が、月光に当たった加減だろうか、淡く輝いたように見えた。

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