第46話「秘密組織のトップ」
その後、続々と馬に乗ったタフガイが集まってきて、三十名ほどの小集団となった。皆、ヤナの無事を確かめると一様に安心の吐息を漏らし、ヤナを守るような陣形を取った。
「ぱっと見、山賊団みたいに見えるんじゃないか、この集団。そうすると、真ん中にいるヤナ姐さんは首領ってことになるな」
アレスの軽口に、ヤナは反応しなかった。うちしおれた花のように悄然と肩を落としている。
アレスは情報屋協会の長というのはきっととんでもなく恐ろしい男なのだろうと思った。リーグルの頭をつけた獣人を見ても何とも思わなかった少女が、怒られることを恐れてがっくりきているのである。できればそんな怖い人との会見は遠慮して、「鉄の天馬」亭に戻り、サカグチ氏のインチキ臭い柔和な笑顔を見て癒されたかったが、もちろんそんなことを言える立場ではない。
ヤナはしばらくそのまま馬を進めたあと、男たちに一足先に帰るように伝えた。
「心配かけて悪かったな。今回の件はもちろんあたしが責任を取る。みんな、仕事に戻ってくれ」
そう言われても男たちはのそのそするばかりで中々帰ろうとしなかったが、再度ヤナが促すと、それぞれ名残惜しげな様子で、しかし馬を走らせ始めた。人馬の影はすぐに遠くなった。
「人気者だなあ」
「ボスの娘だからだろ」
「それだけで大挙して来たわけじゃないだろ。みんな、ヤナを慕ってんだよ」
「愛されるってのは素晴らしい」
皮肉っぽい口元が作るのは疲れたような表情である。ヤナはズーマに自分の後ろに乗るように言うと、それきり口を閉ざした。
二頭の馬はゆったりとした速度で平原を進む。
大分、日が斜めになってきたところで、四人はイードリに着いた。
門をくぐって市内に入ったとき、アレスはエリシュカの肩を揺すった。少女はなかなか起きない。何度か揺すりながら声をかけたあと、ようやく寝ぼけまなこをこすり始めたエリシュカに、
「寝る子は育つって言うからな。早く体の残念なところが育つといいな」
おはようのあいさつをした。
「どこ? 残念なところって?」
「いろいろある。胸とか、胸とか、胸とか」
「胸ばっか。胸なんか大きくても何の役にも立たない」
「いや、それは違うぞ、エリシュカ。そこにはだな――」
「男のロマンでしょ。聞いていい、アレス?」
「何だよ」
「男ってみんなアレスみたいにアホなの?」
「オレはアホじゃないが、オレ以外の男は大抵アホだ」
アレスは馬から下りていたズーマに、エリシュカと一緒に一足先に「鉄の天馬」亭に戻っているように言った。情報屋協会には自分一人でいけばいいという思いと、死にそこなった少女を休ませてやりたいという気持ちがあった。
「わたしに対しては何か思う所が無いのか?」
ズーマの突っ込みを無視したアレスの胸に、エリシュカの後頭部がガンと当たった。
「何すんだよ?」
「わたしも一緒に行く」
「いいよ、別に。ズーマと帰って、メシ食ってろ」
「さっき、目のつくところにいろって言った」
確かに言ったが、それは付き合い始めのバカップルのように始終一緒にいろという意味ではない。アレスはもう一度先に帰るように言ったが、エリシュカは頑として聞き入れない。よっぽど彼女の小柄な体を抱えて、ぽいっとズーマに渡してやろうかと思ったアレスだったが、思い切れなかった。結局、四人でそのまま情報屋協会へと向かうことになった。
「では、わたしだけ先に帰らせてもらうぞ」
というズーマの言葉は、思いきり却下した。
協会に近づくにつれて、ヤナの顔色が優れなくなった。
アレスは覚悟を固めた。もし面倒なことになりそうだったらズーマを置いて逃げてやる! そんなことを思っていたわけだが、おそらくはズーマも同じことを考えているだろうことが、手に取るように分かった。ちらりとズーマを見ると、図ったように目が合った。アレスは微笑すると、ズーマからも微笑みが返ってきた。
例の路地まで来ると、情報屋協会所属らしき男がイソイソと走ってきて、馬の世話を申し出た。
「おやじは?」
「お帰りです。先ほどからお嬢をお待ちです」
ヤナはふうと息をつくと、馬から地に下りた。そのまま歩いていく少女のあとを、アレス達三人は慌てて追った。いよいよご対面である。
建物の中に入り前に入ったことのある部屋に入ると、屈強な男たち数人を取り従えるような風情で、男が一人、肘掛椅子に座っていた。
「ただ今帰りました」
ヤナがあいさつすると男が椅子を立った。
丸太のような腕を持つ荒くれどもをまとめているような男である。よっぽど雄偉な体型に違いないとアレスは思っていたが、意に反して、イードリの情報屋協会長は、中背のスマートな男性だった。身なりの良い紳士で、有閑マダムに人気のありそうなダンディである。
「ヤナ……」
アレスが拍子抜けしていると、男は口を開いた。
それ以上は言葉にならない様子だった。
しばらくして――
男はおもむろに近づいてきて、ヤナの手をがしっと握ると、さめざめと涙を流し始めた。