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第29話「知りたいことは情報屋へ」

 大空へ飛び立っていった小鳥の跡を追うのは、不可能である。どこに行くのか分からない上、止まり木はいくらでもある。同じように、野へ飛び出した少女の後を追跡するのも相当に難しい。知り合いならともかく初対面。行動を読みようがなく行き先が分からない。しかし、不可能ではない。そこが鳥と人の違いである。野に出たのち、人が行く場所というのは限られている。町か村か砦か、なんにせよ何らかの人為的な施設である。とすれば、問題はそのような施設の所在地と、それらの中でどこにいく可能性が高いのかということになる。

「ロート・ブラッド山賊団、太子、研究所。このあたりがキーワードだな」

 アレスはイードリの裏道を歩いている。大通りから外れた人通りの少ない寂しげな街路。日は中天から容赦なくギラギラしてくるが、気にしてなどいられなかった。一刻も早く、エリシュカを見つけなければならないのだ。見つけて、そして助けてやらねばならない。きっとあの可憐な子は自分の助けを待って今頃泣いているだろう、とアレスは思った。さらに、

「もし泣いてなかったら、オレが泣かせてやる」

 とも思ったのだった。

 自警団詰め所の前でセンカに事情を説明したあと、「リシュちゃんを助けに行くんでしょ。わたしも協力するよ」と拳を握りしめて義憤にかられるセンカを、危険かもしれないからと説得して帰らせたのち、アレスは一つの決断をしたのだった。エリシュカを見つけるためになすべきことをする。そのためには、自力では無理である。いくら手がかりがあっても、その手がかりを一つの絵にするために、やたらめったらに聞き込みなどしていたら、時間がいくらあっても足りはしない。もっと効率の良いやり方をしなければならない。

 効率の良い情報収集!

「……まあ、それでこういうことになるのは、話の筋としては分かるのだがな」

 隣からズーマが言う。言いながら上を見た。ズーマも身長が高い方だが、その彼が見上げたところに無骨な顔があって、近くにもう一つ同じような顔がある。頬に深い傷のついた強面(こわもて)。子どもが見たら泣くのも忘れて凍りつきそうな、恐ろしげな顔であった。 

「ここで、何してる、小僧ども」

 恐い顔Aが言った。

 左右に建物が迫る、薄暗い路地の入り口である。その入り口を塞ぐようにして、二人のマッチョメンが立っているのだった。

「何してるって? こんな薄汚い路地に野菜を買いに来たとでも思ったのか? それとも魚の干物? 金物(かなもの)はどうだ? バカなこと訊く暇があったら、長を呼べよ」

 アレスは最初から全開である。なにせ時間がない。彼らと問答を楽しんでなどいられないのだ。

 ズーマは、少し後ろに下がった。これから起こるだろうことに備えたのである。巻き添えになって、服を汚されたりしたらかなわない。

「痛い目にあいたいようだな」

「そんなわけあるか。早くしろ。オレは忙しいんだよ」

「素生の分からない者を通すわけにはいかん」

「アホらしい。ここはパーティ会場か何かか? 正装と招待状が必要か?」

 恐い顔AはBに向かって、やれやれと太い首を振ると、その丸太のような腕を無造作に動かした。ぶうん、という重たい音とともに、男の右拳がアレスに飛んだ。拳はアレスの残像のみをとらえた。

 アレスは相手の拳をかわしざま一歩踏み込んだ。街路を踏むバン、という音とともに、男の悲鳴が通りの気だるい空気を打った。男は脇を押さえてうずくまった。アレスは踏みこみざまに、肘先を男の脇に叩きこんだのである。

 恐い顔Bは、同僚が生意気盛りの少年に倒されるという珍事に目を丸くしたが、どうやら山賊団よりは分別があるらしく、仲間がやられたことにカッとして襲いかかる代わり、太い指を口に突っ込んで器用に指笛を鳴らした。ピイイという高い音が青空に鳴り響いて、鷹でも舞い降りてくれば面白かったが、現れたのは、もちろん彼らのお仲間である。周りの建物の陰から、その数三人。揃って凶相。転がった男も、ぜひぜひ言いながら立ち上がってきた。

 アレスは一歩後ろに退いた。油断なく周囲を見回しながら、

「手伝ってくれるよな、ズーマ?」

 すぐ近くに立っている青年に声をかける。

「わたしが?」

「そうだよ。お前お得意の電撃の魔法とかで、全員やっつけてくれよ」

 ズーマは肩にかかった銀髪を優美な所作で払うと、口元に笑みを浮かべた。

「では一つ、大呪文で一網打尽にしてやるとするか」

「そうこなくちゃな」

「しかし、一つ問題がある」

「問題?」

「大呪文であるがゆえに詠唱に時間がかかる。一分ほど必要だ。時間を稼いでくれ」

「おいおい。一分もかかるなら、オレが自分でやった方が早いだろ」

「なら、そうしろ」

 アレスは、何だよ、とぶつぶつ言ったが、目に暗い色は全くない。恐い顔A、Bも合わせて、腕っ節だけが世を測る物差しのようなたくましい男たち五人に囲まれ、しかも剣さえ抜かなくても、アレスには余裕があった。それは、彼がこれまで歩んできた道のりが半端なものではなかったことの証左である。

――それにしても昨日からやけに戦うなあ。

 殺気だった五人の強面の顔を見るとはなし見回しながら、アレスはのんびりとそんなことを思っていた。

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