第22話「魔法剣、ゲット!」
「魔法剣が欲しいの」
エリシュカは、すっかり人当たりがよくなった武器屋のおやじに言った。
魔法剣とは何か。魔道具が、魔法の力を持つ戦争用兵器だということは既に述べた。その兵器の中で、人が手にもってぶんぶん振り回せるような小型の武器に当たるものが魔法剣である。「剣」と銘打たれてはいるが、それは武器の代表例というだけであって、矛でも弓でも棍棒でも何でも良い。要は、普通の武器に魔法の力が付与されたものだと思ってもらえば良い。
エリシュカの要求に、おやじは難しい顔を作った。それもそのはず。魔法剣は特殊な製法を用いて作られる武器であって、その製法は大量生産を許さない。勢い、数は限定されて、そもそも魔道具全般が国家の管理下にあるので、まず市井には出回らない。
「こんな田舎の武器屋には荷が重い相談ですよ、お嬢様」
おやじはしみじみ言った。
「出して」
「え? いえ、ですからね、ウチのような小さな店ではそんなレア物はですね――」
「一本や二本あるはず。秘蔵品を持たないところは商人とは言えない……ってライザが言ってた」
「あの……どなたですか、ライザさんって?」
「ライザなんかどうでもいい。早く出して、今すぐに」
「いや、本当にウチには魔法剣なんていう大それたものは無いんです。普通の武器で良ければ、お値段を気にされないのであれば、それなりのものが多少ありますので、それでいかかですか?」
瞬間、エリシュカの瞳の青が深まったように、アレスには見えた。アレスは一歩踏み出してエリシュカに近づくと、同時に手を伸ばす。伸ばした手は、エリシュカの手の甲をつかんだ。その少女の手は、バンブス刀の柄を握っている方の手であり、そのバンブス刀を振るっておやじの鼻を折ることができる方の手であった。
エリシュカはアレスを見て眉をひそめた。
「何するの、オットー?」
「誰のことだよ、ソレ?」
「わたしの夫候補だから、オットー」
「なに、そのあだ名、やめてくんない。だせえ」
「アレスよりカッコいい」
「そんなわけあるか。親にもらった大事な名前だぞ」
アレスは手に少し力を込めた。エリシュカがバンブス刀を持つ腕に力を込めたのを感じたからである。どうやら刀を振るいたくてたまらないらしい。そうして、振られた刀の先が描く軌跡上に何があるのか、アレスには考えるまでも無かった。
「可愛い顔が台無しになってるぞ、エリシュカ」
目元を強張らせてこちらを見る少女に、アレスは、にこやかスマイルで言った。
「わたしは可愛くない。ね、オヤジ?」
エリシュカがアレスから目を放さずに言う。
「そうか? 夫の欲目かな。どう思う、オヤジ?」
アレスもエリシュカを見たまま言う。
おやじは、手を重ね合う二人のその異様な緊張状態に、ごくりと唾を飲んだ。この答えになぜだか自分の命がかかっているような気がしてならない。おやじは慎重に答えようとしたが、この場合、答えは一つしかない。
「お嬢様は可愛いと思いますが……」
エリシュカはそこでおやじの方を向いた。少女の目には勝ち誇った色が見えた。
「レディに『可愛い』なんていう子どもっぽい言葉を使うヤツは斬り捨てても構わない、ってライザが言ってた」
「ええっ! だから、誰なんです、そのライザさんっていうのは?」
「今、そんなことどうでもいい。斬り捨てられたくなかったら、魔法剣を出して」
おやじはすがるような目でアレスを見た。
「兄さん。お連れさんがイロイロ無茶苦茶ですよ」
「気が合うな、オヤジ。オレも同じ意見だ。でもこの子は本気だ。そうして、もしあんたがこの子に斬られたくなかったら、オレにもバンブス刀を一本貸してくれ。あんたをこの子から守ってやろう。守ってやるから、そのあと魔法剣出せ」
おやじは諦めたようなため息をつくと、強盗然とした二人にちょっと待つように言ってから、カウンターの奥に消えた。どうやら本当は持っていたらしい。アレスはエリシュカの手を放した。エリシュカは、「大人はウソをつく」と憤懣やるかたないように呟いてから、バンブス刀を元あった場所に突っ込んだ。
戻って来たおやじがカウンターに置いたのは、二本の剣である。一本が普通の長さの剣、もう一本が小剣だった。
「それなりのお値段になりますが、二本ともなかなかいい剣ですぜ。非正規ルートの横流し品ですがね」
開き直って、こうなったらできるだけ高く売りつけてやろうと、この頃使っていなかった商魂に火をつけたのか、おやじは打って変わった明るい声で言った。
エリシュカは迷わず小剣を手に取った。鞘から刃を抜くと、まるで水のように透き通った刀身の中央に古代の象形文字が刻み込まれていた。古代語である。魔法の力を帯びた特別な鉱物を特殊な技法で精錬し、さらに古代語を刻みこむことによって様々な効果が発揮される。
エリシュカは魔法の刀身を鞘に納めると、隣にいる黒髪の少年をじっと見た。
見られたアレスは仕方なくうなずくと、おやじに値段を訊いた。
おやじは、初め入ってきたときとは人が変わったかのような愛想の良い声を出した。