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第20話「武器屋へゴー」

 怒りの業火にその身を焼き尽くされる前に、アレスはエリシュカを伴って「鉄の天馬」亭を出た。そのまま、町の武器屋へと向かう。女心に疎いアレスは、センカが一体どこまで本気なのか分からなかったが、軽はずみはよしたほうが良いと思った。ことは命に関わる。

 少し歩いたのち後ろを振り返ってみたが、そこに仁王立ちになったセンカがいる、などというシュールな図は無かった。ただ、宿のシンボルである天駆ける翼を持った馬の看板が風にふわふわしているだけである。

――そう言えば……。

 アレスはもやもや思い出した。

 「鉄の天馬」亭の主人であるサカグチ氏のことである。氏は若いころ、魔道具作りの職人だったらしい。魔道具とは、魔法の力を帯びた道具(アイテム)の総称であって、兵器の一種だと思ってもらえれば良い。魔道具作りは国家の管理する業である。氏は国の委託を受けて魔道具を作っていたのだが、あるとき人を殺す道具を作ることに嫌気が差した。代わりに、氏が夢見たのは、人を空へ飛ばす魔道具であった。若きサカグチ氏はこう思ったそうだ。

「空飛べたら、でらカッケー」

 人を空へ飛ばす呪文自体はあるにはあるのだが、それは使い手がほとんどいない、ほぼ失われた魔法である。めちゃめちゃ難しい呪文なので一般人が使うのは不可能に近い。そんなものではなくて、もっと気軽に空を飛べたらいい。飛びたい! 

 氏は魔道具職人を辞したのち、空を飛ぶ魔道具の開発に取りかかった。しかし、その夢は長くは続かなかった。国の許可を得ないで魔道具を開発しているということがバレたのである。投獄こそされなかったが、氏はそれまで住んでいた都から所払を命じられた。

 失意の氏。ところが、捨てる神あれば拾う神あり。あてもなく旅に出た氏はここイードリで劇的な出会いを果たす。それがセンカの母である。宿屋の一人娘である彼女に、一目ぼれした氏は彼女の父に頼みこんで、強引に住みこみで仕事を始め、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、めでたくセンカの母と結婚し、ここイードリで宿屋を始めることにしたのである。

 氏は宿屋名に昔の夢をなぞらえて、「鉄の天馬」と名付けたのであった。

「いやいや、それにしても空を飛んで天の国で天使と出会いたいという考えもあったのですが、どうしてどうして、地上にも天使がいたというわけです」

 センカの母のことである。

 サガクチ氏がゆでダコのようになりながらそんなことを言っているのを、アレスは宿泊して二日目の夜くらいに聞いた。アレスはそのときズーマを睨みつけてやった。ズーマが、「この宿名にはどんな意味があるのですか」などというつまらないことを聞くから、中年男のなれそめを延々聞くことになったのだった。

「はあ……」

 実にどうでも良いことを思い出した自分に自分でうんざりしたアレスは、隣から自分より疲れた吐息を聞いた。エリシュカである。白い顔をいっそう青白くして、歩くだけで精一杯のような雰囲気だった。

「おい、大丈夫か? ちょっと休むか?」

 アレスは心配したが、エリシュカは首を横にして毅然と前を見た。

 アレスはエリシュカの手を取った。冷たく滑らかな手である。

 エリシュカの問うような視線に、

「転ぶよりマシだろ」

 アレスは答えた。

 しばらく仲の良い恋人同士のような風情で大通りを歩いたあと、アレスはぶっきらぼうな声を投げた。

「……話す気ないのか?」

「ない」

 エリシュカが前を向いたまま答える。

「さっきのキミの言葉が本気なら、オレはキミの婚約者だろ。婚約者にも言えないことって何だよ。隠し事をする子とうまくやっていく自信が無い」

「それとこれとは別。この件は、自分の力でやらないと意味が無い」

「キミ、記憶力無いのか? 今までにもう何度か助けられてるだろ。人から力、借りてるじゃん」

「それとこれとも別」

「意味分からん」

「アホだからでしょ」

 ムッと隣を見たアレスだったが、その視線をかわしてエリシュカはアレスの背を見ていた。

「その剣、特別なものなの? さっき起きた時に、抜こうとしたんだけど抜けなかった」

 アレスは口の端を歪めて、邪悪な顔を作ろうと試みたが、

「これは魂を喰らう魔剣なのさ。選ばれしものしか使うことができない。キミみたいなお子ちゃまは抜くことすらできないのさ」

「あ、そう」

 あまりうまく行かなかったらしい。

「あなた、『呪われし一族』なの?」

「え、なにソレ?」

「大地の神の祝福を受けられなかった『最果ての地』に住む種族。呪いのかかった武器防具を使いこなすことができる種族よ」

「げ、呪いを使いこなす? うわ、(こわ)っ」

「…………」

 そうこうしているうちに、二人は無事、武器屋についた。

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