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スカッシュコート

翌日、英会話教室で顔を合わせたとき、僕はランチをご馳走してくれた事を感謝した。

「別に大した料理やないわよ」

彼女はいつものように、どこか遠くの出来事を語るような風情で、事もなげに笑って言った。

でも、二人の間の距離感は、最初に出会った頃とは明らかに違っていた。

それを肌で意識していたし、おそらく彼女も同じ空気を感じ取っていたはずだ。

週末、ボンダイ・ビーチの近くにある屋内のスカッシュ・コートへ出かけた。

どちらが誘ったのか、今となってはうまく思い出せない。

スカッシュというスポーツについては、テレビの画面越しに眺めたことがある程度で、ルールさえ定かではなかった。

ただ、壁打ちテニスを交互に楽しむみたいに、不器用にラケットを振り回した。

その施設には、スカッシュ・コートに併設される形でジャグジーとサウナ室が付いていた。

水着に着替え、二人で泡の立つジャグジーに身を沈め、それからサウナへと移動した。

四人も入ればいっぱいになる小さなサウナ室の中で、二人きりになった。

彼女の滑らかな肌を伝い、静かに流れていく汗の粒を、ただじっと見つめていた。

勇気を振り絞り、彼女の肩に指先で少しだけ触れてみた。

彼女は驚く風もなく、ただ静かに、そこにある沈黙を受け入れるようにじっとしていた。

サウナにそう長く留まっていることはできず、五分ほどで外へ出て、シャワー室で汗を流すことにした。

サウナ室を出たすぐ左側にシャワー室が二つあった。入り口は安っぽいビニールのカーテンが吊るされているだけで、頼りない薄いパネル一枚で仕切られているだけだった。

僕は頭から水のシャワーをかぶり汗と一緒に身体の熱を流した。

隣のシャワー室からは彼女がシャワーを浴びている水音が聞こえてきた。

そして彼女が水着を脱ぎ、それが床に落ちる微かな音までもが、鼓膜を震わせた。

僕は激しい誘惑に駆られていた。

ほんの少し、隣のカーテンの隙間に目をやるだけで、そこには何も身に着けていない彼女の身体を見ることができるはずだからだ。

けれど、そうしなかった。

彼女からの信用という名の、形のない大切なものを僕は失いたくはなかったからだ。

いずれにせよ、その日は非現実的なほどに最高の一日となった。

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