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Dear Chiemi
一九八九年、僕は二十歳で、そして恋をしていた。
それは僕という存在が世界に対してあまりにも無防備で、しかし今にして思えば、人生の中で最も眩い光を放っていた季節だったのかもしれない。
まだインターネットもスマートフォンもなかった頃、僕は黒電話の前でじっと君からの電話を待ち、ポストに届く手紙を心待ちにしていた。
もうずいぶん前の、遠い時代の忘れられない大事な記憶だ。
その記憶の中では、時間はもっとゆっくりと流れ、言葉の一つひとつが今よりもずっと意味深く感じられた。
世界はもっとシンプルで、少しだけ不便だったけれど、その不便さこそが、僕たちの感受性を豊かにしていたのだ、と今ならそう思う。




