ズィズィ=ジーン③
その後もズィズィは順調にダンジョンを進んでいく。
しかし、今日は歩いている時間が非常に長い。
「ねえ職員くん、このダンジョン長いよお。飽きた」
「・ロング っていうダンジョン特性は、そういう意味だったんですね」
「あ~、そんなの書いてあったかも」
「シンプルにダンジョンが長いんでしょう。でもモンスターや宝の量は普通と同じくらいだから、延々歩く時間が長いと」
「それって疲れるだけで損してない?」
「いい特性ばかりじゃないってことですね」
「いいのだけにしてえ」
「こればかりは俺にもどうにもできません、天に運を任せるのみ」
「はあ~ん」
嘆きながら、ズィズィはダンジョンを進んで行った。
歩く距離こそ長いものの☆☆のモンスター相手でもズィズィは負けることなくダンジョンを進んで行く。
そして、ダンジョンコアまでたどり着いた。
「うう、今日も眩しい~……とれたあ」
そして5時間後、ズィズィはようやく戻ってきた。
これほど時間がかかったのは、・ロング のダンジョン特性のためだ。
名前の通りダンジョンの道のりが長くなるというもので、しかしモンスターや宝の量は変わらないので、シンプルに時間がかかって疲れるだけ、というハズレ特性。
いい特性ばかりではないということだ。引かないように祈ろう。
そして、戻ってきたズィズィの手には煌めく魔石が握られていた。それはなんと大きなメスヴィル石。あの純度が高くて有名な白光する魔石だ。
普通は冒険者ブームを起こしたメスヴィル遺跡でしか取れないのだが、デイリーダンジョンではそういうものも取れることがあるらしい。
今日のデイリーダンジョンのダンジョンコアで手に入ったのが、それだった。これはいいものだ。純度の高い魔石なんて需要はいくらでもあるからね。
俺は、「ズィズィが帰ってきたよ~」と言ってメスヴィル石を放り投げると、すぐに部屋の仮眠用ベッドに直行し仰向けで寝転んだズィズィに目を落とした。
泥と返り血で汚れてはいるが、怪我はないようだ。
「お疲れみたいですね、すぐに倒れ込むなんて」
「ううん。元気いっぱいだよ~。寝転ぶのは、立ってるのがだるいからー」
ただの怠惰だった。
にしても元気いっぱいとは驚きだ。
数時間にわたってダンジョン攻略していたのに。
…………やはり。
「鬼人のモンスターはどうでした? 大丈夫でしたか?」
「すごくよかったよ~。私のタイプのモンスターがたくさんいたし。おかげで元気もりもりもり」
「俺、一つ疑問に思ってたことがあるんですよ」
「なあにぃ?」
「ズィズィ、あなたは普通の『人間』と違いませんか?」
「ドキッ」
「口で言っちゃだめですよズィズィ! ……やはり隠してたんですね」
「どうしてわかったの?」
「そもそも○人系モンスターが好きって自己紹介していた時点で冷静になると意味がわかりません。しかもめちゃくちゃ不穏な音声が聞こえます、なぜかダンジョンから帰ってくると疲れるどころかツヤツヤしてます。つまり……エキス吸ってる?」
「ガア」
気の抜けた威嚇の声を出しながら、ズィズィは指で口を大きく開いた。
鋭い一対の白い牙が剥き出しになった。
「……ってことはつまり」
「ふぉう。ひゅうふぇふひ」
なるほどね、吸血鬼。
それで奇妙な点に納得がいった。
○人系モンスターを求めてたのは、人に近いものの血を吸うためか。
「たっぷり血を吸って、昨日に比べて格段に力を増していたと、なるほど。もっと血を吸えばさらに強くなれるんですか?」
「ううん~、血を吸えば本来の力を出せるだけで、たくさん血を飲んだからって上限以上は出ない。モンスターの血じゃ今が上限。……? 職員くん、なんだかあんまり驚いてない?」
「人間以外の冒険者を見るのは初めてじゃないので。それに、わざわざ○人系モンスターを狙ってたということは、人間は襲わないんですよね?」
「モンスターの世界で暮らすより人間の町の方が快適だもん。街は綺麗、食べ物美味し、ベッドは柔らか、食べ物美味し」
「だったら人間でも吸血鬼でもなんでも良しです、冒険者として活動してくれれば。そして、ズィズィは昨日と今日でたくさん戦利品を持ってきてくれました。ヤジルシギルドの職員としてはそれに感謝するだけですよ。ありがとうございます」
ズィズィは眠たげな目をぱちりと開いてベッドから立ち上がった。
ずいずいと俺の前方五センチまで来ると、背伸びして目線をあわせる。
「ギルド職員くん」
「はい、どうしました」
「ギルド職員くんの名前ってあったっけ?」
………………。
そりゃあるだろ。
「あ。今ちょっと呆れたぁ」
「いいえ、とても呆れてます。一年の付き合いがあって今まで俺の名前知らなかったんですか」
「だって面倒くさいし~名前きくの~」
「そのうち息すら面倒くさがりそうですね。ディーツ。俺はディーツ=バージェスです」
「ディーツって言うんだ。私はズィ」
「ズィズィ。知ってますよ、言わなくても。『俺は』ちゃんと記憶してますから」
「これが人間に流行ってる塩対応っていうやつだ」
ズィズィは口をいーっとしつつも、どっさりと重い袋を押しつけるように渡してきた。
中を見るとゴブリンの角などのモンスター素材と、銅鉱石などのダンジョンにある財宝が入っている。
昨日とあわせたら普段のギルドが買い取るものの一ヶ月分くらいあるんじゃないか? 素晴らしいな、デイリーダンジョン。
「そうだ、もう一つすごさを確認しておかないといけなかったんだ」
「どーしたのー?」
「ズィズィ、鑑定させてください。デイリーダンジョン前後での強さの変化を記録しておきたいんです」
『ズィズィ=ジーン』レベル44
・怪力 レベル11
・血魔法 レベル9
・格闘 レベル10
・闇魔法 レベル7
・グルメ レベル7
鑑定水晶で鑑定すると、こうなっていた。
デイリーダンジョンに入る前の強さは、
――・――・――・――・――・――・
『ズィズィ=ジーン』レベル13
・怪力 レベル4
・血魔法 レベル3
・格闘 レベル3
・闇魔法 レベル2
・グルメ レベル1
――・――・――・――・――・――・
だった。
たった二日で全体的に5レベルほど底上げされているのは驚異的だ。
おそらくこれが血を吸った効果だろう。吸血鬼ってすごいんだな。
怪力や格闘はさらにプラスして成長しているけれど、これはモンスターを倒して成長した分ってところかな。本来のズィズィの力は結構レベル高めで、当然レベルが高いほど急速にさらなるレベルアップはハードル高くなるのに、そこからさらに数レベル上がってるとは、デイリーダンジョンの効率は素晴らしい。
両方あわせたら、二日で31レベルアップ。
うちのギルドと冒険者の未来は間違いない、このデイリーダンジョンにある。
……ふふ、楽しくなってきたじゃないか。
ズィズィも石板の記録を俺の顔の横からのぞき込む。
「はぁ~ん。私すくすく成長したあ。デイリーダンジョンっていいね、普通の方は人ばっかりで血を吸う相手がいなくて意味なかったけど、こっちのダンジョンは好き」
なんて平和的な吸血鬼だ。
「また良さそうなのがあったら、紹介しますよ」
「わあい、ディーツ愛してるう。じゃあねえ、また血が飲みたくなったら来るよ~」
ズィズィはギルドを出て行こうとする。
足取りは……特にシャキッとはしていない。ぐでっとした性格は血が足りなかったせいじゃなく元からのようだ。
「あ! そうだズィズィ! 今なら、入る冒険者が少ない高難度のダンジョンも行けるんじゃないですか。そこも”アリ”じゃあないかと」
「いいことゆった!」
両手でふんにゃりと指差しながら、ズィズィはギルドを立ち去った。




