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ズィズィ=ジーン②

 ひょいっと軽くジャンプして、入った時と同じようにズィズィはダンジョンから出てきた。


「職員くーん。このデイリーダンジョンっていうの、めためたによかったよ」


 手をゆらゆらさせながら喜んでいるズィズィ。

 入って行った時と比べると、だいぶご機嫌だ。

 こころなしか目の隈も薄くなって血色もよくなったような気さえする。


「それはよかった。モンスターかなり倒せたみたいですね」


「うん。それはもうたっぷり。満足いくまでやっつけた。力も入る前よりずっとむきむきになったと思うよ」


「それはいい。うちのギルドの冒険者が強くなってくれたら職員として本望です。それに、ダンジョンコアまでたどり着いたってことですし」


「そうそう、コアに触ったら、光がぴかっとして、後にこれが残ってたの。なんだかわかる?」


 それは新雪のようなピュアな銀色の結晶だった。

 魔石の一種のようだが、見たことがない。


「俺も見たことないですね、貴重な魔石かなにかだと思いますが、あとで図鑑で調べてみます」


「じゃあ、これあげる」


「え? いや、普通に買い取りますよ。デイリーダンジョンでも、普通のダンジョンで宝を取ってきたのと同じように」


「え? そうなの? 職員くんの能力なのに?」


「実際に攻略してるのはズィズィさんですし。うちのギルドに卸してくれれば、それで僕の能力分としては十分ですよ」


「無欲ー。だからギルドが潰れそうなのかなあ」


「う、刺しますね」


「でも一度あげると言っちゃったし今日のところはあげる。次から買い取ってなあ」


 ズィズィは俺の手を包み、強制的に銀色の結晶を握らせた。

 そういうなら今日の所は言葉に甘えよう。


 それにしても、本当に力強いな。まるで力が溢れて抑えきれないみたいに。


「ふひひっ、手もぷるぷるつやつやになったでしょ? これも職員くんのおかげだよ。またこういうダンジョンあったら呼んでくーださい」


「もちろん、日替わりだからいいのが来るかは風任せだけど、ズィズィさん向けのが来たら、また通信石を光らせますよ」


「うん、お願い。じゃあね、職員くん、ばいばーい」


 振り返らず手だけを振って、ズィズィは冒険者ギルドから出て行った。

 見送った俺は銀の結晶を握り混んだ拳を固める。


「うちの冒険者がモンスターをたくさん倒して強くなり、ダンジョンコアまでたどり着いて稀少なアイテムを獲得した――大成功、と言ってよさそうだな、初のギルドのデイリーダンジョン貸し出しは!」


 俺は初日の成果に、確かな手応えを感じていた。




 翌日、朝一で俺はデイリーダンジョンのユニークスキルを使用した。


 ギルドの奥の部屋に白い渦が現われ、壁にデイリーダンジョンの情報が表示される。


【洞窟】ダンジョン クラス☆☆

・鬼人の巣

・魔法阻害

・ロング


 今日はこれか。

 鬼人の巣……また○人系モンスターだ。


「だったら今日も、ズィズィさんか?」




「それじゃいってくるねえ~」


「気をつけてください、ズィズィ。今日は昨日より強敵がいるダンジョンだから」


 通信石を使うとすぐにズィズィさんは来て、デイリーダンジョンに入ると言ってくれた。

 ☆☆だから敵が結構強いと説明したが、力こぶのポーズをとって中へと入った。


「おおー、洞窟だあ。本当に日によって違うんだねえ。おもしろ~」


 ズィズィの声もちゃんと今日も聞こえる。


「ああー、ボアウォリアー! 」


 ボアウォリアー、昨日結構苦戦してたモンスターだな。

 ☆のダンジョンの最強格が☆☆の序盤から出てくる感じか、なるほど。


「大丈夫ですか、強敵でしたけど」


「ふひひっ、昨日とは一味違うとこ魅せちゃうよー」


 まあ、見えないんだが。

 しかし。


 ひゅっ、バキッ、【吠え声】、ザクッ……グシャ……バキバキッ!

 ………………じゅるり。


「終わったよー」


「なんだかすごい生々しい音声が聞こえてきたんですけど、大丈夫でした?」


「もちろん、ダメだったら返事できてないよ。私が素手で叩いて裂いて千切ってらくしょーらくしょー」


 格闘スキルと怪力スキルがあるとはいえ、聞いてると空恐ろしいな。

 しかし本当に昨日よりずっと強くなってるみたいだ。


「あ、今度はゴブリンアーチャー出てきたよ職員くん」


「それは深穴のモンスターですね、やっぱり昨日よりランクが高い」


 ただのゴブリンじゃなくアーチャー。

 遠距離攻撃してくるのが厄介だが……。


「だったらーこっちも遠距離攻撃! 血魔法、魅せてあげるよー。血竜槍!」

 

 例によって見えないんだが。

 代わりに俺は耳を澄ませる。


 どろりと濃密な音に続いてピシピシと固まる音。

 そして空気を裂く鋭い音が響いた……が。


『キャキャキャキャキャッ』


「あれえええ? 全然効いてない? なんでなんで?」


 格闘ほどではなかったが血魔法のスキルもズィズィは身に着けていた。

 それなのにゴブリンにあざ笑われるほどノーダメージというのは妙だ……と、そうか。


「ズィズィさん、このダンジョンの特性を思い出してください」


「……なんだっけ?」


「・魔法阻害 です。それで威力が弱まったんだと思います」


「あ~、そんなのもあったねえ」


「あったんですよ。どれくらい阻害されるかまではわかってなかったんですけど……」


「ぜーんぜん、効いてないよ。ほらあ、ゴブリンも笑ってるよ」


「大幅に弱体化させるみたいですね。魔法が無意味になるほどに」


 これはいいデータが取れた。

 半減くらいならまだしも、ほぼ無効化レベルになるということは、魔道師はこの特性があるときは絶対にノーだ。


「だったらこの拳で倒せってことだね」


 弓の弦の音がしたが、矢が刺さる音はしない。アーチャーの攻撃はズィズィに素早く回避されたようだ。

 すると地面を強く蹴る音がして、続いて肉が弾け骨が砕ける音。


『ギィャアアアアア!』


 肉弾戦ではあっさりとゴブリンアーチャーを撃破したようだ。

 しかし、昨日より急速に強くなってないか?

 それに、効かなかったとはいえ、血を操り様々に使う特殊な魔法である【血魔法】を使った。その性質上使い手はほとんどいないレアな魔法だが……。


「じゅるり……昨日のより……」


 ………………まさか。


(まあ、そういうのはダンジョンを出てからだな)


 予感はいったん保留し、俺はダンジョンから聞こえる情報に集中した。

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