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ズィズィ=ジーン

「へぇ~~? これが獣人がたくさんいるダンジョンの入り口なんだぁ?」


 通信石を起動してしばらく経つと、ギルドのドアが開き、ズィズィ=ジーンが猫背で入って来た。彼女にデイリーダンジョンの説明と、ズィズィにぴったりのダンジョンだから呼んだことを伝えると、二つ返事でダンジョンに行くと返事をした。


「そうです。それでこの壁に映ってるのがこのダンジョンの特徴です」


「・獣人の巣 ……ふひひっ、ほんとだ」


 壁に鼻がくっつくまで近付いて文字を見るズィズィ。


「そんなに獣人系モンスターがよかったんですか」


「うん。好きなんだあ、獣人系モンスター」


 濃い隈のある目を細めて喜んでいる。

 そんなに喜ぶならズィズィを呼んでよかった。デイリーダンジョンも隅々まで活用してくれそうだ。


「ここに入ればいいんだよねぇ? 職員くん?」


「そうです。帰りは同じのに入ればここに戻って来られます」


「よおし、行ーこうっと」


「あ、ちょっと待ってくださいズィズィ」


 だぼだぼの袖を掴んで引き留めると、ズィズィは首が折れそうなほど直角に曲げてこちらを不思議そうに見つめてくる。

 

「なあに?」


「俺と通信して欲しいんです」


「通信とはとは?」


「俺のこのユニークスキルの能力で、ダンジョンの中の人と、音声で繋がれるんです。それで音声をオンにしてくれたら、中の様子がわかるんですよ」


 互いが通信しようと念じれば音声を共有できる。

 逆にどちらかが通信をやめようと念じれば共有を停止できる。


「へえーん。そんなこともできるんだあ」


 なんか調子狂うなこの人のリズム。まあそれはいいとして。


 ミレイユがダンジョンに入った初回は中の様子は何もわからなかった。

 だが、今日のダンジョンを作った時、俺の頭の中の本にページが追加されたように、ユニークスキルの新たな情報を読み取れたのだ。

 音声だけだが、中にいる人と共有できる新たな能力が芽生えた。


 これは仮説だけれど、このデイリーダンジョンというユニークスキルは、使い込めば使い込むほど、強化されていくんだと思う。

 ミレイユがデイリーダンジョンを深く探索したことで俺のユニークスキルがレベルアップした結果、中との通信ができるようになった、と考えている。


「俺もまだこの力に目覚めたばかりだから、中の様子が知りたいんです。お互いがオンにしないと通信はできないみたいだから……」


「いいよ。こっちから職員くんにお話しもできるの?」


「はい、もちろん」


「でも別に話したいことないけどなあ」


「じゃあ聞くなよ……」


「ふひっ、行ってきまあす」


 今度こそズィズィは白い渦の中に入って行った。

 渦が灰色に変化し定員いっぱいになったことを示す。


「あー、聞こえますか? ズィズィ?」


「ず……ふおお……滅んでるう……」


 通信成功。

 どうやらズィズィの目の前には、廃墟の光景が広がっているようだ。

 説明通りだな。


「本当にダンジョンみたいなところに来ちゃった。おどろき」


「それがデイリーダンジョンです、ダンジョンってことはモンスターもしっかりいるから気をつけてください、ズィズィ」


「はあーい。じゃあ歩くねえ」


「何か変化があったら教えてください」


 そこから、しばらく足音だけが聞こえて来た。

 土を踏む音、蹴っ飛ばされたガレキ同士がぶつがる高い音。

 チューチュー廃墟をうろつくネズミの鳴き声。


「出たあ!」


「ズィズィ、どうしました!」


「モンスターモンスター。この子は……ワーラットだよ」


 ワーラット、ネズミ獣人のモンスターだ。

 二足歩行のオオネズミの姿をしたモンスターで、前歯で噛みついてくる。ネズミなので、強さは獣人系モンスターでも最低ランク。ザムザム森の迷宮の1階にもいるらしい……人が多すぎて今はまず会えないけどね。


 やはりデイリーダンジョンの クラス☆ の☆の数が、中にいるモンスターの強さを現しているようだな。

 ☆一つでザムザム森の迷宮並、☆☆だとザムザム森最深部~無音の深穴クラスのダンジョンといったとこか。

 早速いい情報が得られた、これはダンジョンメモに備考を書き記しおかないと。


「……じゅるり」


 じゅるり?


「ワーラットから狙われてますか? ズィズィ」


「ううんん、全然大丈夫だよお。これくらいならお腹ペコペコの私でも倒せるからね……白くてきれいな毛並みの子だなあ、ふひひ……」


 その直後、ネズミの鳴き声が聞こえてきた。

 続いて鈍い打撃音にザリザリという何かが裂かれたような音。

 そしてネズミの鳴き声が聞こえなくなった。


 倒したのかな?


 バリバり! ジュルジュル! ズゾゾゾゾ!


 え?


 え?


 なんか戦闘っぽくない音が聞こえてるんだけど何!?


「ズィズィ!? 平気ですか!」


「……全然……っぷぅ……平気だよお」


「平気ならいいですけど、異音がしたから噛みつかれたのかと思って心配しましたよ」


「ありがと職員くん。じゃあさらに進むね。ああーっ、崩れた家の中に袋が落ちてる! 袋の中には……ヒールポーション2本と錆びた短剣発見!」


 しっかり道具や装備もありモンスターもいる。そして、物資のランクも☆1つ相応のようだ。

 ダンジョンの☆、大事だな。多いほど稼げるけど多すぎるとモンスターにやられてしまう。ここは大注目ポイント。


「じゃあ、どんどん進んで行くね」


 そしてズィズィはデイリーダンジョン探索を進めていった。

 その先は順調に進んでいき、ワーラットが複数出たり、他には、


「わあ、ワーラビット! ちっちゃくってかわいいねえ」


「カエル男……げろげろ」


「来たよ来たよボアウォリアーだよ! 一番待ってましたあ……って結構強いいい!?」


 などと喜怒哀楽を感じさせながらダンジョンを進んでいた。

 あ、ボアウォリアーには回復ポーション二本使わされつつの勝利でした。


 そしてアイテムも武器が結構手に入った。ロングソードやショートスピア、斧や弓矢まで。錆びてたり青銅製のものが多かったが、武器持ち込み禁止だから、その分中に武器が多めにあったのかな?


 でもやっぱり一番多かったのはモンスターだ。

 アイテム入手よりモンスターの報告がずっと多かった。


 そしてモンスターを倒した後に、ジュルリ! ズルズル!と異音がちょくちょく聞こえて来た。

 結構不気味で怖いんだが、ズィズィは「私は大丈夫だよお」と言うばかりだ。まあ大丈夫ならいいけど。


 そしてダンジョンに入ってから3時間ほど経ったとき。


「大物討ち取ったりい! でもこの子あんまりおい…………手強かったあ」


「何か言いかけました?」


「ううん、マムシ男は結構手強かったなあって。巻き付いてきて大変だったよ。無理矢理引き剥がしたけど」


 さすが怪力スキルもち。パワーならギルド一。


「それで、今いる壊れた地下室の奥に光ってるオーブみたいなのがあるよ? これなんだろ」


「ダンジョンの奥の光るオーブ……それはダンジョンコアですね」


「ダンジョンコア? はて、聞いた憶えがあるような、あるような」


「ないんだなってわかりました。それはダンジョンコア。ダンジョンの最奥にあり、ダンジョンの魔力が蒸留され濃縮されたものです。それに触れると、ダンジョンの精髄を得られると言われています」


「ダンジョンの精髄って?」


「ダンジョンによるし、同じダンジョンでも時によるみたいです。」


「職員くんって物知りだねえ」


「一応ギルド職員一年やってますからね」


「え? そんな前からいたっけ?」


「…………さっさと取ってください」


「怒った? 怒った?」


「早くする!」


「ふひひっ。じゃあ取りまあす」


 まったく。


 それにしてもダンジョンコアまで到着できたとは。

 初めてだけどどうなるか……。


「え? まぶしっ……わあ!」


「大丈夫ですか! ズィズィ!」


「うん……光がピカってなって眩しかったけど、なんともないよ……これは……銀色の魔石? 見たことないなあ」


「これは」


 その時、壁に映るダンジョンの説明に変化があった。


◎【廃墟】ダンジョン クラス☆

・獣人の巣

・武器持ち込み禁止

・モンスター数増


 最初に◎がついている。

 そうか、ダンジョンコアを獲得して、攻略完了ってことか。


「ダンジョン攻略完了です。お疲れ様でした、帰還してください」

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