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一人目

「おい、まだ終わんないのか? お前いつからそんな手際悪くなったよ?」


 魔法学校の生徒エルドラが、カウンターを指で叩きながら圧をかけてくる。

 たしかに俺も手続き中に自分の世界に入りすぎたな。


「せっかく皆揃ったんだから、少しくらいゆっくりしていってもらおうと思ったんです」


「はっ、なんの冗談だ。こんなへんてこの擬人化みたいな奴らと」


「神は言っています。エルドラ様もへんてこだと」


 シスター・リオーナが穏やかな声音でツッコミを入れた。


「シスターお前が思ってるだけだろ絶対!」


 騒いでる冒険者達に、俺は更新した登録証を返還していった。

 受け取ると、ギルドメンバーはそれぞれ帰っていき、ギルド内はいつものように静寂が支配した。


「消えるのはっや」


 積もる話とかないのか?

 ないか。


 更新した登録証を渡すやいなやまずガレが無言で真っ先に帰って、他の人もさっさと続いて帰っちゃうし。デイリーダンジョンのことを話す暇もなかった。


 まあ、いいけど。

 あの状況じゃ落ち着いて誰にするか考えられないし。こうなってかえってしっかり選定ができてよかった。

 二度手間になってしまうのはやむを得ない、それでもお釣りはくるさ。


「さてと……それじゃあ、メンバーの能力、再確認していくか」


 最も相応しい者を決めるために。




 俺は静かになったギルドの中で石板を引き出しから取り出した。

 そこにはギルドメンバーの能力が記されている。


 この石板は触れたものの力を測る鑑定水晶と連動して、その内容を記す魔道具で、ギルドに登録するメンバーは可能な限り鑑定と記録をこれによって行うことになっている。


 冒険者への依頼の斡旋もギルドは行うのだが、この登録した能力をもとに適正のあると思った冒険者に声をかける。

 自分の能力をどうしても知らせたくないという人は登録をしなくてもいいのだが、その場合は斡旋されなくなって損なので、大抵は登録している。


 それによほど特殊な事情でもなければ、剣技なり炎の魔法なり、その人が得意とするスキルなんてものは戦ってる様子を少し見ればわかるのでひた隠しにする必要性も薄い。


 そういった事情でうちのギルドメンバーも鑑定しているので、能力はわかる。

 だから俺がやることは、それぞれの人の能力を見て、その日のデイリーダンジョンに最も適した人に貸し出すことだ。


 そのための確認を始めよう。

 まずはセトから。


『セト』レベル15

・読書 Lv4

・剣技 Lv3

・盾技 Lv3

・健脚 Lv3

・鋼の肉体 Lv2

【備考】スケルトン特有の再生能力・アンデッド(同族)に対する知識を有する。


 剣と盾で戦うスタイル、意外に堅実で正統派だな。

 しかし健脚とか鋼の肉体とか、カルシウムすごく取ってるんだろうな。


 このように、うちが使っている鑑定水晶では、その人のスキル――人間の能力を可視化したもの――の強い方から5つまで見える。

 弱いスキルは強いスキルの輝きに紛れて感知し辛くなるので強い方から順に見える。星や月と同じように。もっと高性能なものならばより多く見えるらしいけど、うちは貧乏ギルドだし、それにこれ以上は不要だろう。

 結局の所、実際に使う武器や魔法って得意なものに限定される。剣技がハイレベルなのにあえて苦手な棍棒で戦うことなんてないのだから、得意なものが見えれば実用性としては十分。


 またこの鑑定水晶では【ユニークスキル】は視ることはできない。スキルとは異なる一人一つ(目覚めていれば)の天与の資質で、特殊性も秘匿性も高いからだ。


 では、他の人達も一気に見ていこう。




『ズィズィ=ジーン』レベル13

・怪力  レベル4

・血魔法 レベル3

・格闘  レベル3

・闇魔法 レベル2

・グルメ レベル1

【備考】獣人・鬼人・魚人・魔人などのモンスターが好みだと言っている。


『シスター・リオーナ』レベル15

・アイテムの知識 レベル4

・ポーション作成 レベル4

・回避 レベル3

・暗器 レベル2

・鉄の胃袋 レベル2

【備考】ポーションの素材が多く取れるダンジョンを探している。素材があればより強いポーションを作って強くなれる。


『ガレ』レベル5

・静音 レベル1

・罠解除 レベル1

・採掘  レベル1

・直感 レベル1

・盗み レベル1

【備考】水晶の表示限界だが、武器は一通り扱えるらしい。武具がたくさん財宝として眠っている場所をよく質問される。


『ミュゼ=ガン=スウォート』レベル13

・自然魔法 レベル5

・弓術   レベル2

・森適応  レベル2

・採取   レベル2

・快眠   レベル2

【備考】森にて最大の力を発揮できるとのこと。


『エルドラ=ヴィオン』レベル9

・付与魔法 レベル5

・雷魔法  レベル1

・火魔法  レベル1

・冷魔法  レベル1

・杖術   レベル1

【備考】魔法学校で何か研究しているらしいが……。




【備考】は俺が個人的に気付いたことを追加で書き込んだものだ。

 鑑定水晶はスキルは鑑定できても、それ以外の情報はわからないので、こういうことは自分でメモらなければ。


「さて……これがうちの冒険者達の能力だけど、誰が最適だ? 今日のダンジョンの特徴は――」


【廃墟】ダンジョン クラス☆

・獣人の巣

・武器持ち込み禁止

・モンスター数増


 ギルドの奥に行き、壁に映されているデイリーダンジョン情報を見る。

 ダンジョンの種類は廃墟。クラス☆というのは、前回のことを踏まえると、この前より簡単なダンジョンってことだろう。


 しかし特徴で気になるのは、・武器持ち込み禁止。


 これがくせ者だな。

 武器は現地調達でまかなうのは厳しいし、実質的には武器に頼らず戦える人でなければ攻略は難しいだろうな。セトとガレは候補から外れる。


 そしてモンスター数増。

 シスター・リオーナは……実際に戦うところは見たことないけれど、ポーションとかアイテムを駆使して戦うのだろう。モンスター数が多いとアイテムの消耗が多くて結局割にあわないってことになりそうだ。


 となると残りはズィズィ・ミュゼ・エルドラの3人だが、この中で一人選ぶならば。


「ズィズィ、彼女が適任か」


【備考】魚人・獣人・鬼人・魔人などのモンスターを得意とすると言っている。


 が決め手だ。

 候補の他の人でもやれるかもしれないが、備考にこうメモしてあるということは、一番うまくやれるはず。


 スキルも、


『ズィズィ=ジーン』レベル13

・怪力  レベル4

・血魔法 レベル3

・格闘  レベル3

・闇魔法 レベル2

・グルメ レベル1


 怪力と魔法で戦うなら武器が使えなくても問題ない。きっとやれるはずだ。


「それじゃあ呼ぼう、この通信石で」


 ギルドには登録冒険者に連絡を取る手段がある。

 通信石と呼ばれるマジックアイテムで、一対の石のペアは同じ魔力の波長で繋がっていて、片方を起動すると信号が送られもう片方も光るという仕組みだ。


 離れた相手に連絡がとれる優れものだが、さすがに言葉を送ることはできず、光ることで用があることを伝えるだけしかできない。

 この町のギルドでは冒険者にこれを渡し、互いに相手に来て欲しい時はこれを使うことになっている。だがもちろん、しょうもない用事で無闇に呼び出すとキレられるので使用は慎重に。


 とあるギルドではこれで冒険者を使い倒したせいで、ブチ切れ大量移籍でギルドが潰れたという逸話もある。


「大事な用事があるときのみ使うのがルールだが、これは大事な用事といっていいはずだ」


 俺は、6つある通信石の1つ、ズィズィ用の通信石を手に取り、真ん中のトパーズのような宝石に触れて起動した。

 握った指の間から、黄色い光が零れ出した。

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