ヤジルシの6人
全身をボロ布でくるんでいるセト。
しかしほんの微かな隙間からよくよくのぞき込むと、そこには瞳がないことがわかる。
否、瞳だけでなく顔の全てがなく……そこにあるのは骨だけだ。
そう、セトは実はスケルトンだ。
言うまでもなく普通は人間に襲いかかるモンスターだが、なぜかセトは人間に交じって冒険者をやっている。
だがスケルトンがゆえにまともな冒険者ギルドには入れなかった。
……だけどうちは選り好みをしていられるほど余裕がない。
モンスターだろうがなんだろうがギルドに入ってくれるならなんでも認めているので、セトはうちのギルド所属の冒険者になったのだった。
二人目のズィズィ=ジーン。
長い黒髪は寝癖がいくつも跳ねていて、目の下には濃い隈がある。いかにも不健康そうでいつも気だるそうな女性冒険者。しかし実際に病気になったところは見たことがないので、多分健康だ。
三人目のシスター・リオーナ。
彩度の低い赤髪の、常に微笑を湛えているシスターさん。
教会の魔を討つ部署に所属していてそっちの規則で本来は冒険者と掛け持ちはできないのだが、できる限り多くの魔物を葬り去るため冒険者もやろうと考え、教会もチェックしないほど小さいうちのギルドに所属している。
シスター服を着ていて、服のいたるところに様々な効果のポーション(本人は隠し聖水と呼んでいる)を仕込んでいて、それを用いてモンスターと日夜戦っていると自称している。
日夜戦ってる割にあんまりギルドに来てくれないけど。
四人目のガレ。
灰色髪の寡黙な壮年の男。
寡黙すぎてどういう人物なのかいまだにわからない。
ただ、武器に関しては詳しいし、いつも武器を求めていて冒険者をしているのもそれが目当てらしい。顔も体も武器でつけられたのか、傷跡だらけだ。
この雰囲気で、ダンジョンでも最弱の『ザムザム森の迷宮』のモンスターを実は倒せないのは詐欺だと思う。
五人目のミュゼ=ガン=スウォート。
ダークエルフという珍しい種族。
銀髪と深いダークブルーの瞳が美しい。ダークエルフの文化なのか、露出の多い身軽な服をいつでも、冬でも着ている。
ダークエルフは普通はこの国から離れた大密林に住んでいるらしいが、彼女はとある理由でここに来たらしい。
いまだに教えてもらえてないけれど、愚痴はよく聞かされる。「ミュゼは木々や動物に囲まれた自然の中で戦うのが得意なのに、ここのダンジョン迷宮とか周りが岩とかばかりなんだけど? どういうことディーツ?」
俺に言われても困る。
そして、六人目の。
「おい、何じろじろ見てんだよ。こいつらなんて見慣れてるだろうが? さっさとやれ、僕は早いとこ魔法の深淵を極めなきゃいけなくて暇じゃねえ」
魔法学校のエルドラ=ヴィオン。
金髪で魔法学校の制服を着ている男。俺と同じくらいの年の態度のデカい奴。
聞いての通り口が悪い。本人曰く優秀らしいけど、魔法学校での評判はすこぶる悪いそうだ。それでどこのギルドも入れなかったので、うちに入ったという話だ。
そもそも魔法学校の学生が冒険者ギルドに入ること自体珍しいんだけどな。学校ではできないことをやろうとしてるみたいだが、それはいったいなんなんだろうか。
この六人が今のうちのギルドに登録している冒険者全員だ。
あらためて勢揃いすると少ないな、やっぱり。一流ギルドは100人以上の冒険者が登録してるし。
だがしかし、6人だって貴重な我がギルドの冒険者。
彼らに100人分頑張ってもらわなければいけない。
「わかった、わかった。そう急かさないでください。登録証を更新するからちょっと待っててくださいよ」
俺は六人分の登録証を一年分更新していく。
六人。
うちのギルドの冒険者。
彼らは今のところあまり素材を持ってきたりダンジョンを攻略したりできていない。
クラス3や4以上の高難度ダンジョンは今のご時世でも挑戦者は少なく、あのザムザム森の迷宮のように人だらけで何も得られないということはないが、それには当然、強力なモンスターを倒す実力が必要になる。
その実力を身につけるためにはまず簡単なダンジョンで鍛えなければいけない。
だが、これまでにも語った通り、簡単なダンジョンでは冒険者が多すぎてまともにモンスターと戦うことも、武具を揃えることもできない。
つまりほぼ詰んでいる。
だが、俺はここから抜け出す手段を見つけた。デイリーダンジョンを。
デイリーダンジョンでなら宝を得られるし、鍛えることもできる。
そしてデイリーダンジョンで鍛えれば、通常の高難度ダンジョンに挑みリターンを得ることもできるようになる。
まさにうちのギルドとうちの冒険者と、そして俺の明日の正念場だ。
だからよく考えなきゃいけない。
デイリーダンジョンに入れる一人、その一人を6人の冒険者のうちの誰にするかを。
【廃墟】ダンジョン クラス☆
・獣人の巣
・武器持ち込み禁止
・モンスター数増
これは今朝起きてすぐ寝室に創造した、今日のデイリーダンジョンだ。
『デイリー』の名の通り、昨日とは異なったダンジョンになっている。毎日変化するんだろう。
重要になってくるのが、このデイリーダンジョンの特性だ。
つまり、俺はこの特性に一番あった、もっとも攻略に適した冒険者を看破し、その人にデイリーダンジョンを貸し出さなきゃいけないんだ。
それができれば、最高効率でギルドのメンバーを強化し、ダンジョンの物資も多く得ることができ、ギルド崩壊の憂き目を防ぐことができる。
「これから毎朝、考える日々が始まるな」
この六人の中の誰に、デイリーダンジョンを貸し出すか。
『ヤジルシ』ギルドの未来はそれにかかっている。




