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ギルド会合

「……っと、明日はギルド会合と登録更新の日か」


 ギルドの書類を見ていたら思い出した。

 珍しく朝から予定がしっかりある一日だ。

 ま、あまり気は進まないけど……。




 翌日、俺は『ヤジルシ』ギルドからウィンダムの中央街にあるギルド『勇者の剣』のギルドハウスへと向かった。

 うちのギルドには寝泊まりできる部屋があるので、俺は今ではそこを家にしている。家賃も通勤時間もいらないので一石二鳥だ。


 『勇者の剣』はウィンダムで最も歴史あるギルドの一つで、ギルド全体の会合などはここで行うことが通例となっている。


 そして今日はギルドの代表者が集まり、連絡事項や決まり事の確認や質問などを行う日だった。

 『勇者の剣』のギルドハウスは、美しい白壁の3階建ての建物で、うちにはない庭があり庭には噴水まである。

 もう規模も資産も何から何まで違う。羨ましい限りだ。


 会議室には円卓があり、半分くらいの席が埋まっていた。

 空いている席に座って待つとほどなくして全員が集まり、会合が始まった。


 部屋の一番奥に座っていた立派な髭を蓄えた老人が、まず挨拶をした。


「皆、忙しい中ご足労いただきご苦労。昨今冒険者達はますます数を増し、ダンジョン探索も活発になっている。それに伴いギルドの果たすべき役割も――」


 そして長話が始まった。

 ギルド会合なんて言っても、実際に色々決めるのは有力ギルド数個だけで、その間では時期を選ばず会合や密約があり、そこで話は済んでいるんだ。

 つまり今日はただの決定事項の通達で、意見したところで何が変わるわけでもない。皆で集まって話し合いの場を持っていますよという体裁だけのこと。


 だったらもうさっさと終わらせてくれという感じだが、なぜか偉い人は話が長いんだよなあ。忙しいはずなのにね。


「まったく、年寄りってのはなんで話が長いかねぇ。もうあんたの時代じゃないってのに。なあ? そう思わない? オタクも?」


 小声で話しかけてきたのは、隣にいるメガネをかけた髪がさらさらの男だった。


「それは本当に。長いですよね、早く締めて欲しいです」

「なー。いつまで盟主のつもりなんだか。『勇者の剣』なんてもうカビてるギルドのくせに。うちの『金鹿の角』みたいな若くて勢いあるとこが代表すべきだよな」


『金鹿の角』。新進気鋭で実力ある冒険者を最近たくさん囲ってるところだ。

 引き抜きも活発に行っているらしい……活発すぎてトラブルにもなってるらしいけど。


「ところでオタクはどこのギルドの人?」


 『金鹿の角』ギルドの男は前髪を弄りながら尋ねる。


「うちはヤジルシっていう冒険者ギルドです」

「ヤジルシ? 何それ? 『濡れ牢獄』に挑戦とかしてたりする?」

「西2番地区にあるギルドです。そこまで行ける冒険者はまだいませんが……」

「ああ、いいよ別に紹介しなくても。俺が名前知らないギルドなんて泡沫ってことだし。そういうあってもなくても変わらないギルドって、興味ないんだよね」


 そう言うとそいつはもう俺から顔を背け、反対方向の女性と話し始めた。


 は?


 お前が話しかけてきたんだろう?!


「いいの? 珍しいギルドの子なのに」

「いやいや、無名ギルドと関わる必要ある? 君と喋る方がよほど有意義だよ」

「今のうち話しといた方がいいかもよ、次の会合の時にはギルドが潰れていなくなってるかもしれないから。ヤジルシ君は。クスクス」

「はっは、ゴールドスライムみたいなガキだったか」

「ゴールドスライムと違って相手しても何も得るものはないでしょうけど。クスクス」


 聞ーこーえーてーますが。 


 全然ヒソヒソ話になってないんだよ、隣の二人!

 コケにしやがって。確かにうちは弱小だけど人としての礼儀ってもんがあるだろう。


 ……だがそれも全て、結局はうちのギルドが弱小だからだ。

 ギルドが大きくなればこいつらもこんな態度を取ることはできない。


 成長するんだ、俺とヤジルシ。




 会合は事前の予想通り、慣例的なもので終わった。

 これまでと特に変わったこともなく、今まで通りということを確認してお開きに。

 まあ紛糾するよりは楽でいい、今の俺は会合よりやるべきことがあるんだ。


 俺は『ヤジルシ』ギルドへと戻る。

 今日はこっち側でも年に一度のことがある。

 走ってギルドに戻るとそこには――。


「おう兄弟! 俺様が来たぜ!」


「ふひっ……久しぶりぃ、職員くん」


「変わらずご健在のようですね、神のご加護に感謝いたしましょう」


「………………」


「相変わらずボロいギルドね。ミュゼの故郷の枯木よりみすぼらしいわよ? ちゃんと仕事してるのあんた?」


 ギルドの中には六人の冒険者がいた。

 普段は滅多に来ない冒険者達が全員集合している。


「ったく、僕は忙しいんだ。さっさと終わらせてくれよ更新なんてくだらないこと」


 六人の中の一人、魔法学校の制服のえんじ色のローブを着た金髪の青年が、カウンターをとんとんと指で叩いて急かしている。


 今日は年に一度の冒険者登録の更新日。

 一年に一回、働きをチェックして問題がなければ今年もよろしく、何かあれば警告や場合によっては除籍の処分がある。そういう日だった。

 どこのギルドもそうすることになっている。さっき行っていたギルド会合でずっと昔に決められて今も続いていることだ。


 うちの『ヤジルシ』冒険者ギルドもそれに則っているが、人手不足著しいうちで冒険者を自ら減らすようなことをするわけがない。

 なにしろ、今ここに集まっている問題児達を冒険者として受け入れているくらいなのだから。


 俺は六人に順番に目を向けた。

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