ヤジルシは上向き
それから後も、出てくるモンスターの魔法は大幅弱体化していて、俺でも十二分に勝つことができた。そして倒すたびに圧倒的成長を実感していった。
いつかこの組み合わせが来たら、自分で入ろうと思っていた。
そもそも俺がこの町に来たのは冒険者を目指すため。食っていくために職員をやりながらも剣の素振りもずっとしていた。
チャンスがあるならもちろん、俺だって掴んでいく。
それに自慢じゃないが、俺はこのギルドで最弱の自信がある。
☆一つのダンジョンでも苦戦するほどに。
であれば、唯一安全に大きく成長できるのがこのダンジョン。ギルドの戦力を増す上で、今このダンジョンを最も有効に使えるのは、最弱の俺に他ならない。
「他のメンバーにとっても喉から手が出るダンジョンだとは思うが……ま、俺のユニークスキルなんだ、ちょっとくらい役得があってもいいだろ? うん、いいよ」
よし、俺もいいって言っている。
どんどん先に進もう――。
その後も順調にダンジョンを進んだ俺は、ついに最奥部にまでたどり着いた。
そこには他より一段上の魔法を使う強敵が待ち構えていたが、しかし、それもこのデイリーダンジョンの・魔力阻害 の理から逃れることはできず、タヌキ程度の戦闘力でしかなかった。
ダンジョン内で成長していることもあり難なく撃破し、俺は初めてダンジョン・コアに対面した。
「まるで太陽みたいだ……」
強く暖かな光を注いでくるそれは、ズィズィの話で聞いた冴えた青白色ではなく暖かい橙色だった。ダンジョンによってコアも違うのかもしれないな。
だが、それが自分を招いているようで、触れたくなる欲求を起こすことは聞いた話と同じだった。
手をのばし、ダンジョンコアに触れる。
――橙色の光がはじけ体の中に入りこんでくる。
ズィズィの千年氷晶のように光が特別な物品に変化することはなく、そのかわりに光が俺の体に入ると、その熱が体の中で何かを目覚めさせたような、そんな感覚がした。
「…………でも、何が変わったんだ?」
具体的にはわからないが……もし俺の中で新たな力が目覚めたとしたらそれはきっと。
「明日だ、明日になれば確認できる」
翌日、朝起きてすぐ俺はデイリーダンジョンの創造を行った。
その結果は、
【森】ダンジョン ☆
・モンスター減少
・薬草増加
・ロング
・癒やしの光
四つ、ある。
「やっぱりだ! 昨日のダンジョンコアの覚醒はこれだった!」
一見何も起きなかったが、自分の中で何かが変わった感覚はあった。
その正体がこれ。
ユニークスキルが進化して、特性が一つ多く付くようになったのだ。
最高の宝を手に入れた。特性の大事さは昨日のダンジョン探索で十二分に証明されている。特性が多ければ多いほど、ああいうことがやりやすくなる。
「そして☆はひとつか。……ここは、俺に力がついたか確かめてみよう」
俺は入り口の渦をくぐって本日のデイリーダンジョンに入った。
ダンジョンに入ってしばらく歩くと(さすが・ロング だけあって無駄に広々としている)ゴブリン三体が現われた。鬼人系の最弱モンスターで、武器も持たず魔法も使わないゴブリン界でも最弱の存在だ。
それでも三体もいると以前の俺なら苦戦は免れなかったが――。
「ここだ!」
体は軽いし、剣は羽を持ってるかのように速く振れる。
はっきりと敵の「動き」も見える。
俺はサクッと三匹のモンスターを撃退できた。
しかもこいつらは特性で弱体化してない鮮度そのままのモンスター。
「☆☆☆のモンスターから得られる経験はしっかり多かったみたいだな」
自信をつけた俺は、ダンジョンを進んで行った。
ロングかつ森ということもあり、道にも迷いやすく踏破にかなりの時間がかかったが、ダンジョンコアまで到達することができた。
ダンジョンコアに振れると、今回はレアなアイテムが入手できるパターンだった。
収束する光の中から現われたのは、『マンドラゴラ』。滅多に手に入らないことで有名な薬草――毒草ともいうが――の一種だ。
他にも・薬草増加 の特性がついていたことで、多くの薬草を手に入れることができた。これは素材として錬金術のアトリエなどに卸してもいいけれど、薬草ならとっておけばダンジョン攻略に有効活用できる。ギルドで保管しておこう。
そして俺は今日も無事ギルドに帰ってきた。
「戦力増加の確認は完了。そうだ、スキルも見ておかなければ」
『ディーツ=バージェス』レベル17
・剣技 レベル10
・耐久 レベル5
・農業 レベル1
・採取 レベル1
・修理 レベル1
剣技レベル10!
これはすごい、一気にとんでもなく強くなってる。
これはゴブリンなんか楽勝なわけだ。
俺のユニークスキルは【デイリーダンジョン】だから【ベルセルク】のようなユニークスキルによる戦力の底上げはないけれど、それでもスキルレベルがこれだけあれば☆ダンジョンのモンスター程度なら十分倒せるってことが証明された。
他にスキルを見ると、耐久スキルが一気に上がっているな。
これは多分、☆☆☆ダンジョンのモンスターの魔法を何度も食らいながら倒したからだな。本来なら致命傷になるから鍛える前に死んでしまうところを鍛えられたのはすごくいい。
これで……これからは、俺自身もギルドの戦力に数えられる。
俺はギルド職員にして、七人目の冒険者となったんだ。
「最初にこの町に来たときに志していたように……」
デイリーダンジョンに感謝だな。
そしてまた、このデイリーダンジョンにはまだ俺が気付けていない強い組み合わせや使い方が、きっとある。
それも見つけ出して、さらに上に行くんだ、『ヤジルシ』ギルドとその冒険者は。
俺はデスクの上に視線を向けた。
そこには、先日ギルド会合で配布された依頼の書類が積み上がっていた。
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