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エルドラ=ヴィオン③

「お前、やっぱり変な奴だったんだな。こんな能力もってるなんて」


 デイリーダンジョンの入り口と、壁に映し出されたダンジョン特性を見たエルドラは、呆れたような目を俺に向けてきた。


「もうちょっといい表現をして欲しいですね。どうですか、実際に見て」


 すでにデイリーダンジョンの説明はしている。☆☆であれば中にいるモンスターが、ザムザム森の迷宮最下層~無音の深穴くらいの強さだということも。

 その上でエルドラは、


「どうもこうも、無駄口叩いてないでさっさと行くからな。お前の話通り僕の付与魔法を活かせるなら、それくらいのモンスターはやれる」


 白色の渦の中に入って行った。


 思い切りのいいやつ。

 魔法学校でもこんな感じで己の道を速攻で突っ走ってたんだろうな。


 ともかく通信を繋いで――。


「なんだぁ!? この黒いのは! おい友はどうした!? スライムかアンデッドのなり損ないみたいなのがいるぞおい!」


「落ち着いてくださいエルドラ、その黒いのがあなたの友です」


「はぁ? このへんな斧持ってる蛮族みたいなやつが俺の友?」


「友というのは便宜上の呼び名です。実際はしもべの方が近いですね」


「はっ、なら友であってるな」


「……その友はダンジョンに入った人の命令を聞きます。戦力も入った人に依存します。エルドラと同レベルかやや劣るくらいの戦士と考えてください」


「わかった。歩け――走れ――武器を振れ――たしかに命令通りに行動するな。こいつはいい、お喋りはここまでだ」


 すぐにカツカツと硬質な床音が響いてきた。


【大聖堂】ダンジョン ☆☆

・友の予感

・魔石増量

・雷神の加護

 

 が今日のデイリーダンジョンだけあって、いい音だ。

 高級な石材で作られた床なんだろうな。


「いた! モンスターだ! こいつはなんだ? 甲羅のあるイノシシだぞ」


「そいつはアーマードボアです。硬さと突進に注意して下さい」


「はっ! 硬くて速いか。ちょうどいいじゃないか、僕の付与魔法を思う存分使うには。『ティタノアーム』!」


 ず、お、お、おお、という地鳴りのような音が聞こえて来た。

 これは、影の戦士に付与魔法というやつを使ったのか。


 ドドドドッという駆ける音が聞こえたと同時に、斧が風を切る音が聞こえた。そして。


『ブギイイイイイイイ!』


 バギバギいう硬質なモノが砕ける音とともに、イノシシの甲高い鳴き声。

 さらにバギッバギッ、とアーマードボアの甲羅を砕く音が幾度も聞こえてくる。


「ははっ! いい気分だ」


「倒したんですか、エルドラ」


「ああ、なかなかいい動きだったなあ僕のトモダチは。そして、ハハハ、付与魔法の効果を間近で確認できたぞ!」


 エルドラの声は弾んでいる。


 付与魔法は他人を強化する魔法。魔法学校での感じからすると同じ学生に試す機会はなさそうだし、冒険者としても、実績も何もない――むしろ魔法学校での評判は悪い――人の付与魔法を当てにして同行する人もいなさそうだし、これまで機会がなかったんだろう。

 渋る相手にエルドラが粘って必死に頼み込む姿も想像できないし。


「ディーツ、また敵だ」敵がいたというのに嬉しそうなエルドラの声が聞こえてくる。「今度はゴブリン……それも射手だな。『ガイアスキン』」


 また別の付与魔法を使ったと思うと、カキン、カキン、と矢が弾かれる音がした。


「防御を固める付与魔法ですか?」


「音だけでわかるとはお前なかなか見込みあるじゃないか。そうだ、影の戦士を硬化させたら、矢が体に弾かれている」


 ゴブリンアーチャーは無音の深穴に出てくるモンスター。その攻撃を食らってもはじけるほどの硬度はかなりのものだ。


 エルドラの使う付与魔法、そんなに強力なのか?

 スキルレベルはそこまで高くなかったはずなのだが。


「何を考えてるんだ?」


「いえ、エルドラの付与魔法、効果が大きすぎるように思えて」


「それは当然だ、研究に研究を重ねて身に着けた強力な付与魔法だぞ。その辺の低級魔法とはわけが違う」


 ……なるほど。魔法自体が上位の魔法なのか。

 魔法は魔法自体の性能とスキルレベル……つまりはその系統魔法の熟練度で効果が決まると言われている。エルドラは実戦経験に乏しいこともありスキルレベルは高くないから使いこなしてはいないはずだが、それでもなお強力なほど高位の魔法を習得した。


「付与魔法とは相当強力なのですね。高位魔法といえどここまで能力向上するとは」


「俺はあのクソ学校で多種多様な魔法について調べ学んだ。その結果、最強に至るのは付与魔法で人を強化することだと判断した。だからこれを追及している。理解できてよかったな」


「ええ、良かったです。うちのギルドに自身の見栄や常識よりも、最高の効果を求める人がいて」


 一番効果の高いことが一番いい。

 とは限らない世の中だが、エルドラは魔法学校の考えとは違って最高を求めている。

 うちのギルドに来てくれたのは幸運だ。


 ……あれ、エルドラ黙ってるな。


「エルドラ? どうかしましたか? 異常が?」


「……別に何もない、僕は異常無しだ。ディーツ、どんどん進むからな。情報収集したいっていうなら、気を抜くなよ!」


「ええ、わかってます。エルドラも気をつけて。進みましょう!」




 1時間後、エルドラは帰って来た。

 早かったことから想像がつくとおり、ダンジョンコアに到達することは残念ながらできなかった。


 理由は魔力切れだ。

 研究と勉強により強力な付与魔法を発見したが、スキルレベルは高くないことからわかるようにそれを扱うにはまだ魔力が足りない。

 奥まで行く前に魔力が尽きてしまったのだ。


「とはいえ、☆☆のダンジョンでモンスターを一蹴するなんてすごいことですよ」


 持ち帰ってきた戦利品を鑑定しながら、事務室のベッドに腰掛けているエルドラに俺は話しかけた。


「はっ、慰めのつもりか? まだまだ課題が満載だ。僕の求める究極にはほど遠い」


「課題がわかったならデイリーダンジョンに入ったかいがありましたね」


「そうだ、何事もまずは課題から。お前、わかってきたな」


「はい、色々わかってきましたよ」


 エルドラの性格からしたら、あの高慢ちきな教授に必要なものを尋ねるなんてしたくなかっただろう、ってこともわかった。


 それでもしてくれたのは、エルドラなりにギルドに対しての思いがあるからだ。

 だったらギルド職員として俺もそれに答えなければ。

 付与魔法を究めるという目標、デイリーダンジョンで協力しよう。


 サポート魔法をサポートする……ふふっ。


「お前何一人で笑ってるんだ、気味悪いぞ」


「……ごほん。そうだ、どれくらい成長したか、鑑定してもいいですか? データに残しておきたいですから」


「当然だな。実験するならデータはとれ、だ」


 デイリーダンジョンに入る前のエルドラのスキルレベルは。


『エルドラ=ヴィオン』レベル9

・付与魔法 レベル5

・雷魔法  レベル1

・火魔法  レベル1

・冷魔法  レベル1

・杖術   レベル1


 だった。

 これが、今鑑定すると――。


『エルドラ=ヴィオン』レベル15

・付与魔法 レベル8

・雷魔法  レベル3

・火魔法  レベル1

・冷魔法  レベル1

・杖術   レベル2


「おいおい、こんなに成長できるのか」


 結果を見たエルドラが目を爛々と輝かせる。


「たった一日でこの成果は、未来が明るいですね」


「調子に乗るなよ? まだまだ僕はこの程度じゃ満足してない」


 といいつつ顔は笑ってるけどね。

 ふふっ。


「ともかくここからです、エルドラ。エルドラが強くなるのも、そしてギルドが興隆するのも」


「ああ。また僕向けのデイリーダンジョンがでたら、すぐに伝えろよな?」


「もちろん。それじゃあ、またその時に」


 エルドラは少し手を挙げ、えんじのローブと金髪を揺らしながらギルドから立ち去った。

 

「……やはり僕は正しかった」

 

 ギルドのドアをくぐる時に、そうエルドラが呟いたのがかすかに聞こえた。

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