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エルドラ=ヴィオン②

 ベルベスト教授の執務室へと向かうと、ちょうど時間があるタイミングで面会することができた。


 大きな本棚に難しそうな本がぎゅうぎゅうに並んでいて、机の上は書類の山が積もっている。エルドラの情報を聞く、というのもあるがむしろここに来たのは別の理由もあり、


「これがエルドラから話があった千年氷晶です」


 俺は、ズィズィがデイリーダンジョンコアで得た、白銀に輝く稀少魔石をベルベスト教授に手渡した。


 初日の白銀の魔石、見たことがないものでその場では何かわからなかったので、ここ何日かで調べていたのだが、その正体が千年氷晶という氷河の魔力を持った稀少魔石だということがわかった。


 まず市場に出回ることがないこの魔石を、ベルベストは機材で検査したり、特殊な形状のレンズで見たりしていたが、それらをしまうと満足げに頷き。


「まさに千年氷晶だ。まさか本当に手に入るとは。これは良い仕事だよ、ヤジルシとかいうギルドの職員よ」


「ありがとうございます」


――・――・――・――・――・――・――・


 それは3ヶ月ほど前のことだ。


「魔法学校で何かいい話ないんですか、エルドラ。こういう素材が欲しい、高く買い取る、みたいな」


 珍しくエルドラがギルドに来た時に、俺は何とはなしにそんなことを尋ねた。


「あ? 知らねえよあんな雑魚どもの欲しいものなんて」


「じゃあ聞いてみてくださいよ。せっかく魔法学校にいるんだから」


「はあ? なんで僕がそんなこと聞かなきゃいけないんだ。いやだね」


「ギルドがカツカツなのは知ってますよね? 登録してる冒険者なら助けてもいいじゃないですか、聞くだけのことなんですし」


「はあ~? 僕は魔法の追及で忙しいんだよ」


「魔石3個、大魔石1個、鉄鉱石2個」


「なんだ急に?」


「あなたが先月うちのギルドに持ってきた素材の全量です。あーあ! ギルドに登録してる冒険者がもっと色々持ってきてくれればなあ! 魔法学校の需要なんて気にしなくてもやっていけるんだけどなあ!」


「……お前、なかなかいい性格してやがるな」


「エルドラにそう言ってもらえるとは光栄です」


「チッ、わかったよ。聞くだけ聞いてやる。だがそれを僕に取ってこいとか言っても無視するからな」


「もちろん、聞くだけでいいですよ。よろしくお願いします」


 そしてエルドラはギルドのドアを蹴っ飛ばして出て行った。


――・――・――・――・――・――・――・


 そういういきさつでエルドラが情報収集してくれた結果、千年氷晶をこのベルベスト教授に高値で買い取ってもらえるということがわかった。

 それが手に入ったので、魔法学校にいくなら一緒にこの件もやってしまおうというわけ。


「少々時間が経ってるので、もう必要ないと言われないか心配でした」


「なかなか手に入るものではないからな。あの落ちこぼれが所属するギルドというから期待していなかったが驚きだ。無駄だと思いつつも念のためあれの質問に答えたかいがあったか」


 落ちこぼれか。

 エルドラは教授からの評判も悪いんだな。

 たしかに態度がデカくて口が悪いとはいえ少しかわいそうになってきた。


「それでは、買い取っていただけるんですね」


「無論だ、書類を書くから事務室に持っていきたまえ、あとは事務室が金のやりとりはしてくれる。……しかし、どこで手に入れたんだ? 私も色々あたってみたが、手に入らなかったのに」


「ええ……それは」さすがにデイリーダンジョンのことはギルド外には広めたくないな「ギルド外秘のことなので。恐れ入りますが」


「ふむ。それはそうか、貴重な収入源が手に入る場所をおいそれと教えるわけがないか。だがこれを持ってこられるなら、他にも期待できそうだな、いくつか欲しい魔法儀式の材料がある。リストを渡すから、見つけたらまた持ってきてくれたまえ。いい値で買い取ろうじゃないか」


 これは思わぬ幸運だ。

 貴重な品は高値で売れるが、しかし貴重ゆえにその辺の道具屋なんかには卸せない。普通の店は一般的なものしか使わないから。

 買い取り先が見つかったのはありがたい。


「ありがとうございます。……そういえばエルドラのことで少し気になることがあるんですが、ここでは付与魔法って教えてないんですか?」


「付与魔法だと?」


「ええ。彼はそれが得意みたいなので」


 ベルベスト教授は椅子に深く腰掛け、ハハッ、と乾いた嘲笑をあげた。


「付与魔法なんてものにたいした効果などありはしない。炎の魔法や雷の魔法こそが王道、付与魔法で魔法を極めるなど戯れ言だ、ハハッ」


「あまり強力な魔法ではないということですか?」


「さあな、そもそもあんなもの追及する痴れ者がいない。少し頭を使って考えてみたまえ君。付与魔法など身に着けたところで、それでは我々魔道師が馬鹿な戦士どもの下働きみたいな真似をするはめになるじゃあないか! 馬鹿馬鹿しい! 賢き我々が敵を華々しく打ち倒し、賞賛と羨望の眼差しを向けられるのが、魔道師の正しい姿というものだよ」


「………………」


 エルドラがこの魔法学校で望むことを学ぶのは難しそうだな。

 やはりうちのギルドで、デイリーダンジョンで力と技を身に着けてもらおう。


 俺は話を切り上げ教授室から辞去した。

 ここで話を続けても無意味だ、それよりエルドラを見つける方がよっぽど重要だ。


 講義でも学べず、教師から学ぶこともできないとなれば、エルドラが魔法学校で学ぶ場所は――。


「間違いない、図書館にいる」




 魔法学校の黒い校舎の地下1階~3階までが図書館となっていた。

 下から順に本棚の間を一列ずつ歩き、机を一つずつのぞき込むと、3階の隅の本棚の前で、立ったまま本を開いているエルドラの姿をようやく見つけた。


「ようやく見つけましたよ、エルドラ」


 エルドラは本から視線だけをこちらに向けると、露骨に顔を歪めた。


「お前かよ。……っはー、まさかここまで乗り込んでくるとは」


「その様子だと通信石には気付いてて無視したようですね」


「僕は忙しいんだ、日々学ばなきゃいけないからな。こんなとこまで散歩できる暇なギルドの職員が羨ましいね」


「せっかくいい話をしようと思ったのにずいぶんな言い草ですね」


「いい話なんかあるのか? あのオンボロギルドに?」


「そのオンボロギルドしか受け入れてもらえる場所がなかったのは誰でしたっけ」


「喧嘩売りに来たのかわざわざここまで!」


「しーっ……図書館なんだから静かにしなきゃ。それに……秘密の話なんです、ここからは。……エルドラ、付与魔法を思う存分使いたくありませんか」


 エルドラの目の色が変わった。


「付与魔法はあまりここでは好まれていないようですが、それを存分に使える場所が見つかったんです。エルドラは得意でしょう」


「僕に会いに来たついでに余計な情報収集までしたみたいだな、さすがギルド職員様。……どこだ? それは?」


「デイリーダンジョン」

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