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持つべきものは、友

 ズィズィが帰った後は、物品を各所に卸しにいった。

 専門知識を持たない冒険者の代わりに持ち込んだものを正しく査定し、買い取り、必要とする各方面に卸す。ギルドの基本だ。

 普通はある程度の時期の分がまとまってから行くが、貧乏ギルドゆえズィズィから買い取るためにお金を払って現金がもうほとんどないからな。……貧乏は辛い。


「え……あのヤジルシギルドがこんなに物品を? 明日は雪が降りそうだ」

「ははは、売るものがあるってまたまた冗談を。え、本当にある?」

「誰だおめえ? ヤジルシ……ヤジルシ……ああ! 全然来ないから忘れてたわ! わりいな兄ちゃん!」


 ポーション屋鍛冶屋装具屋などに行って来たが、なかなかにいい反応だった。

 これまでのうちのギルドの行いが表われてるな……だがこれからは変わる。

 重要な顧客として忘れられない存在になってみせる。


「ああ、きっとなれる、これだけあれば」


 硬貨のみっしり詰まった袋を揺らすと、ザラザラと音を立てる。

 ああ、いい音だ。これなら今月は初の黒字も夢じゃない。


 ……実のところ、俺がギルドに入ってから、採算が取れた月は一度もない。

 このギルドを設立した貴族が出資した金をずっと食い潰し続けていたのだ。つまりそれがゼロになれば破綻する運命だったのが、希望が見えてきた。


 明日のデイリーダンジョンにも期待が高まるな。




 翌日を待ち、俺は新たなデイリーダンジョンを開いた。


【洞窟】ダンジョン クラス☆☆☆☆☆

・友の予感

・武器庫

・ショート


 今日はこれだった。

 洞窟タイプで……クラス☆☆☆☆☆!?


「これは、無理だな」


 ☆☆にでてきたモンスターが、通常のダンジョンだと『無音の深穴』相当だった。

 そして、うちの冒険者はその無音の深穴が限界――それより難関の『白虹回廊』や『濡れ牢獄』などのダンジョンになると、困難さ故に人が減りダンジョン探索をまともにできるようになるが、そういった場所に行き成果をとって来たことはない。


 昨日一昨日でパワーを取り戻したズィズィでも☆☆☆☆☆はさすがに飛びすぎだし、今日のデイリーダンジョンはちょっと無理だな。


「こういうパターンもあるのか。高難度のダンジョンすぎて活用出来ないとは」


 残念だな。でも通常のダンジョンと同じなら、高難度ほど中に眠る宝の価値も高いはず。一つでも手に入れば、得るものは大きい。

 それにもう一つ、気になることがある。


・友の予感


 初めての特徴だし、名前からしてメリットのある特徴に思える。

 友……友か。


 俺は白い渦を横目で眺めた。


「入ってみるか?」


 この特徴が気になるし、それにモンスターと遭遇するより先に素材なり道具なりを見つけられれば☆☆☆☆☆に相当する物が手に入る。


 ・武器庫 はおそらくダンジョン内に武器が多く眠っているのだろう。

 ・ショート は・ロング の逆にダンジョンが短い。


「もし強力な武器が手に入れば一気に加速する。ここはリスクを取っていく!」


 俺は危険な白い渦に足を踏み入れた。




 ダンジョンは、ヒカリゴケが地面にも天井にも壁にも場所を選ばず繁茂する光る洞窟だった。昼間の屋外のように明るくなっている。


 ……まずい!


 入ったその場所に、影のような黒い鎧姿があった。明るい洞窟でそれは影絵のように浮き出て見える。


「まさか入り口にモンスターがいるなんて! 撤退…………?」


 入り口の渦に片足を突っ込んだところで、妙なことに気付いた。

 影の鎧は襲いかかってくる様子がない、だけではなく剣を持っていない方の手をこちらに伸ばしている。


 ……まさか、握手?


 この手の形は、どうみても握手だ。

 握ってみるか? 敵意を感じられないし。


 俺は影の鎧の手を握った。

 相手も握り返してくる。


「なるほど、友――か」


 あれはダンジョンに友軍がいる特性だったんだ。

 入り口のすぐ側にいることからも、その説を支持している。


 これはいいな、普通は一人で攻略するしかないところを二人でいけるんだから、この『友』の実力次第ではあるが戦力倍増だ。

 しかも、今回みたいな高難度ダンジョンなら、先を歩かせて俺自身がモンスターと鉢合わせする危険をなくせる。


 ……それが友の扱いかと問われたら、まあ、うん。


 ともあれ俺は影の鎧を先攻させながらダンジョンを進むことにした。

 一つでも強力な武器が手に入れば儲けもの、と思って進んで行くと、


「ガーゴイル!?」


 ハルバードを持ったガーゴイルが洞窟内の広間のような空間を闊歩していた。

 悪魔であり石像でもあるガーゴイルは恐ろしく強いモンスター、しかも武器まで持ってるし、俺など一撃で屠られることは間違いない。


 武器より先にモンスターに出会うなんてついてない、後ろ髪を引かれる思いだが逃げるしかない。

 友よ、しんがりは任せた!


 ガーゴイルが俺たちに気付いて向かってくる。

 そこを影の鎧に迎え撃たせ、俺は入り口へと全力疾走。


 ……しつつチラリと影の鎧の様子をうかがう。

 どれくらいの強さかわからないけど、もしかしたら☆☆☆☆☆級に強くて――。


 ザンっ!


 振り返った瞬間に見えたのは、鎧ごと真っ二つにされ上下に別れた友の姿だった。


「一撃だって!?」


 一人仕留めたガーゴイルは次に俺の方に顔を向け、大股で近付いてくる。

 が、影の鎧が時間稼ぎをしてくれたおかげで俺は入り口までたどり着いていた。すぐさま渦に飛び込み、危ういところでギルドの事務室へ戻ることができた。


 ふう、肝を冷やしたが無事だったか。

 持つべきものは友、そういうことだな。


 わかったことは、☆☆☆☆☆のモンスターは本当に強いということ。

 そして・友の予感 は役に立つが、あまり強くないということ。


 ☆☆☆☆☆ダンジョンの友軍ならば強さもそれ相応であることを期待したが、同じ☆☆☆☆☆ダンジョンのモンスターに一蹴されてしまった。

 このことから、戦力はダンジョンに入った人、つまり今回は俺の戦力相応なんじゃないかと推測できる。


 それなら手も足も出ずにガーゴイルにやられたことに納得するし、おそらくこっちだな。

 もっと強ければ最高だったが、これでも十分役には立つし、プラス特性には間違いない。なんなら毎日出て欲しいくらいだ。


 今日のダンジョンはとても攻略できないし、普通に業務をするとしようか。


 なお、普通通りにギルドは閑古鳥だった。

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