22話 あとは堕ちていくだけ
筆が乗って軽く4000字近くになったでござる。
「お、おい! いくらなんでも高すぎだろう!?」
黒沼の声が室内に響き渡る。
そりゃそうだ、自分でも提示しながら高いと思うし。けど。
「不倫の慰謝料とうちの金の使い込み、それと名誉毀損の分も含めているからな。あと不倫期間が長いからな、その分も加味しての金額だ」
「いや払えるか法外だろ! それに確かに不倫はしたが期間はそんなに長くない、1年くらいだ!」
「いやだから自分の前で15年不倫してたって言ってただろ? なんならそれ今すぐにでも聞かせようか?」
2人が致してたのを目撃した日、黒沼が自白してるからな。当然録音してある。なんなら既に証拠として提出している。
「だがこの金額は……」
「そうよ! 専業主婦の私にそんな大金払えないわよ」
「いや働いて返せよ」
自分のド正論パンチに黒沼以外が頷くが、美沙は納得していない様子。更に横から。
「私からも慰謝料請求させてもらいます。あと英治さんとは離婚しますから」
当然の権利だと思う。提示額は黒沼に400万、美沙に200万と良心的だ。まあ黒沼の場合、更に養育費の支払いがあるが。
「ま、こちらの条件を飲んでくれるなら減額してもいいけど」
「本当か! どんな条件だ!」
そりゃ食いつくよな。8桁万円の慰謝料なんか払えないのは解りきった事。敢えて自分からの条件を飲ませる為に高く提示したんだから。
「まず一つめ。黒沼は離婚して美沙と結婚する事」
「なんだそんな事で減額するのか? それなら喜んでするぞ」
まあそうだろうな。けどそんなに甘くないぞ自分は。
「二つめ、会社での自分の悪評……つまり横領が冤罪だという事を会社の社員並びに取引先に伝える事。当然お前が冤罪を被せた事もしっかりと伝えるんだ」
「……ちっ」
舌打ちするあたり反省してないな。まあ端からするとは思ってないが。不倫を15年以上している時点で反省なんかする筈ないし、そもそも反省出来るなら不倫なんかしない。
「不満そうだな。それなら提示した金額払ってもらうぞ。自分としてはそっちの方がいいからな」
「解った、解った! 従うから」
本当に従うかどうか怪しいものだが。
「次に美沙に対しての条件だ。財産分与なし、陽茉莉の親権は美沙持ちだ。ただし、養育費は一切払わない」
「それじゃ減額の意味ないじゃない! そうだ、離婚やめましょう。そうすれば慰謝料払わなくて済むわ、ね? そうしましょう」
「なんでだよ。てかもう離婚届出したよ。そんな簡単に離婚取りやめとか出来るか」
相変わらず頓珍漢な事言いやがる。
「一応な、本来なら陽茉莉が卒業するまでは待つつもりだったんだ。けど目の前であんな真似されたらさ、一緒にいられないだろ。陽茉莉が卒業する前に離婚する羽目になったのはお前達2人が原因だからな」
尤も、当初の慰謝料は今回提示した額の3分の1で、養育費も払うつもりだった。しかし陽茉莉のあの言葉で養育費を払うのは無しにしたのだ。
「養育費の支払いなしはあり得ないだろ? 俺でさえ払うんだぞ」
「そりゃ血の繋がった我が子ならな」
そう、陽茉莉は自分の口で言ったのだ。自分が本当の父親ではない事を。それを伝えたのは美沙と黒沼に違いない。
そして陽茉莉をここに連れてきたのも、鑑定士を呼んだのもこれが理由だ。
「すみません、陽茉莉を連れてきてくれませんか?」
陽茉莉のいる部屋とは内線で繋がっている。そして向こうには事務所の職員が控えている。弁護士が内線で呼ぶと、数分としないうちに部屋に入ってきた。
「パパ? 一体何?」
自分を前にしてえらくおとなしいな。というか家の中と違って礼儀正しい。
思い切り猫かぶってるな。祖父母の前でも猫かぶってたに違いない。
「泡手さん、この子……陽茉莉を鑑定してもらえませんか? 美沙、黒沼。もし陽茉莉が自分の子なら養育費は払うぞ。だが違ってたら……」
美沙と黒沼の顔が青くなる。
これがDNA検査とかなら結果が出るのは数日かかるだろう。だが鑑定ならすぐだ。
「お願いします」
「ええ」
泡手さんが陽茉莉を『視』る。
「あの? なんですか? そんな私の事まじまじ見て……お医者さん?」
「まあやってる事ある意味はお医者さんと同じね……ふむ」
結果が解っている美沙と黒沼に、何をしてるのか理解出来てない、つい今し方陽茉莉の付き添いで来た美沙の両親。そして。
「中村陽茉莉、14歳、女性。中村浩士と美沙の娘……」
美沙と黒沼がまさかという顔をし、そして養育費が入る事で歓喜の顔を浮かべ。
「戸籍上は。血縁上は黒沼英治と中村美沙との間に産まれた娘、婚外子」
一気に絶望の淵へと落とされる。
「まあそういう訳で。養育費は一切払わないので。無論、こちらから会いに行く気もありません」
「え? は、え? パパ、ママ、どういう事?」
「美沙とは離婚した。陽茉莉とは血が繋がってないから本当の両親の元で暮らすんだ、陽茉莉」
「アンタには聞いてない! これからパパとママと一緒に暮らせるの? 最高じゃない! なのになんでそんな顔……」
おいおい、義両親が驚いてるぞ。思い切り地が出てるじゃないか。
「おまえの本当の両親は自分に対して高額の慰謝料を払う羽目になってるから。そして自分と血が繋がってないから養育費を貰えないからだ」
「ちょ……何よそれ? 巫山戯んなよ! なんでアンタそんな勝手な事してんだよ!」
「おまえ達が悪いからに決まってるだろ。もう小学生じゃない、善悪の区別のつく年頃だ。悪い事をしたと自覚しろ」
「あ、う……」
自分の気迫に押されてなのか、それとも己のした事を自覚したのか、陽茉莉は一歩二歩と下がる。
「その、ごめんなさい! 冗談だったの! 本当はパパの事好きだったの! だからパパと一緒に暮らさせてください、お願いします!」
謝罪し、頭を下げる陽茉莉を見て義両親は。
「浩士さん、確かにうちの娘がしでかした事は許される事ではないわ。けど陽茉莉にはなんの罪もないじゃないですか」
「そうだぞ浩士くん。美沙を許してやれとは言わんが、陽茉莉くらいは多めに見てもいいんじゃないか?」
そりゃ孫は可愛いだろうからね。あと超特大の猫も被ってるからね。そういう反応してもおかしくない。けどね。
「これを聞いても同じ事言えますか?」
スマホから音声が流れる。それはあの日の、美沙と黒沼の濡れ場を直で見たあの日の、陽茉莉が自分に浴びせた罵詈雑言。
「それより前のもありますが……聞きます? とてもじゃないが聞くに耐えませんよ」
「いや……いい」
「陽茉莉……これはいくらなんでも、酷すぎるわよ」
陽茉莉は謝罪を(するふり)して祖父母を味方につけるつもりだったのだろう。しかし義両親は美沙と違い感性が真面だ。こんなの聞かされたら味方をする事はないだろう。
「美沙……陽茉莉をこんな娘にして。悪いけどあなたに任せられません。私達が預かります」
「それはやめた方がよろしいかと」
預かると言った義母に対して泡手さんが待ったをかける。
「気を悪くしたらごめんなさい。彼女……陽茉莉さんはあなた方の事を都合のいい金ヅルとしか思ってないわ。それに……品行方正に見えて、貴方クラスメイトを虐めてるわね?」
「なんでそんな事っ!? いいえ、出鱈目よ! 私そんな事してない!」
陽茉莉が虐めをしてたとか初耳なんだが!? これには美沙も黒沼も、当然義両親も目を丸くしている。
「してないしてない。その人が嘘を吐いているのよ!」
「陽茉莉、この人は鑑定士でね。鑑定に関しては嘘を吐けないんだ」
「そん、な……」
陽茉莉が膝から崩れ落ちる。頼りにしていた義両親も流石に甘い顔はしないだろう。
というか虐めとか、どこで教育を間違えてしまったのだろう。いや、美沙という悪い見本がいて、それを見たからなんだろうな。
もし陽茉莉がちゃんと真っ直ぐに育っていれば、血が繋がっていなくても自分が引き取っていただろう。けどそんな未来を潰したのはが陽茉莉自身だ。
「ま、実の親と仲良く暮らせ。それと条件がもう一つ。提示した金額は一括で払う事」
因みに減額した慰謝料の金額は美沙が300万、黒沼が600万だ。だいぶ良心的な金額だろう。まあこれくらい下げないと自分以外払えなくなるからでもあるが。
「……解った。全ての条件を飲もう」
「一括なんて無理よ! 浩士、お金を貸してちょうだい。そしたら慰謝料払ってあげるから」
「請求される相手から金を借りるとか馬鹿かキミは。貸す訳ないだろう」
「いやああああああああっ!」
五月蝿い。だったらさっさと黒沼と縁を切ればよかったのに。自分で蒔いた種だ、自分でなんとかしろ。
さて、これで自分の用は終わりだが、まだ特大の爆弾を落としてなかったな。
「あ、黒沼は美沙以外にも3人、付き合ってる女性がいますんで。うち1人は美沙と同じ既婚者ですよ」
「中村っ!? なぜその事をっ!? いやなんで知って……ハッ?」
「英治さん?」
「英治……どういう事?」
黒沼に詰め寄る美沙と黒沼の元奥さん。
あとはどうなろうと知らん。
これで一応のケリはつきました……が3人の転落劇はこれからです。
「さあ、お前の罪を数えろ」(DLCでス◯ロボ参戦してる探偵)




