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列をなして歩き始めた一行は、神官たちに導かれながら、やたらと荘厳すぎる建物の中を進んでいった。


 


 通路の両側には、背の高い柱が等間隔に並び、天井からはシャンデリア……ではなく、魔法の光球のようなものが、淡く明滅していた。壁面にはよくわからない文様が彫られ、足元には絨毯。ただし、歩くたびに少し発光するという、意味不明な高級仕様。


 


 どんだけ金かけたんだ、この建築……ファンタジー世界のゼネコンって儲かるのか?


 


 隣で歩いていた男子が、ふいに話しかけてきた。


「なあ、マジでヤバくね? これ、国王とか出てくるパターンじゃん?」


「……かもね」


 


 できるだけ波風を立てない声で短く返した。顔も向けない。その方が、相手が別の人に話題を振ってくれる可能性が高いからだ。


 


 おう、俺に話しかけるな。空気だぞ、俺は

 しかも話の内容が“ヤバくね?”って。語彙の墓場か


 


 前方では、例の陽気な神官が鼻歌を歌いながら進んでいる。冷徹な神官は沈黙を守り、険しい顔の女神官は、誰にも視線を合わせようとしない。


 


 後方から漏れてくる声も、にぎやかだった。


「てか、あの金髪の神官、マジ怖くね?」

「いやいや、あのメガネの方が無理。マジ無表情すぎて人形かと思った」


 


 笑い混じりに話す若者たち。だが、突然、メガネ神官が足を止めた。


 


「静かにしてください」


 


 低い、よく通る声だった。


 その一言で、ざわついていた空気が瞬時に止まった。ピクリと肩をすくめる者もいれば、「えっ?」と小声で漏らす者もいる。


 


 ようやくミュート機能、起動したらしい


 ていうか、お前ら、そんな軽いテンションで異世界に順応してんじゃねぇよ。俺がおかしいのか? うん、まあ、おかしいのは俺か……


 


 あくまで無表情で歩きながらも、頭の中では一人でツッコミを繰り返していた。冷静というより、もはや“距離感のバグ”だった。


 


 やがて、天井がさらに高く、壁の装飾が過剰になっていく空間へと入る。開けた先には、両側に甲冑を身にまとった兵士らしき者たちがずらりと並んでいた。


 神官が足を止め、「ここです」とだけ言う。


 


 巨大な扉が、きぃ、と音を立てて開かれた。


 


 目の前に広がったのは、まさに“王の間”というべき空間だった。


 奥には高い玉座。その下に何段かの階段があり、脇を固めるのは、立派な衣装に身を包んだ重臣らしき人物たち。そして、左右に控える複数の近衛兵。そのすべてが、こちらを静かに見つめていた。


 


 豪華絢爛、荘厳、そしてどこか“芝居じみた”光景。


 


「さあ、中へ」


 女神官がやや不機嫌そうに言い、若者たちはおずおずと足を踏み出した。


 


 全員が玉座に向かって進んでいく中、ため息の代わりに心の声を吐く。


 


 なるほど。王、登場っと。

 こっちは寝癖つきのTシャツだぞ。王族に土下座しとくべきか?


 そう思いながらも、表情ひとつ変えずに列の最後尾に加わった。

 外見はどこまでも“静かな無個性”を装っていた。

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