転移
――まぶしい。
目を開けた瞬間、脳の奥まで焼かれるような光が突き刺さってきた。反射的にまぶたを閉じ、ゆっくりと視界を調整する。まるで高級ホテルのロビーと美術館と無印良品の内装が合体して爆発したような……いや、なんだこれ。
広い。やたらと広い。天井は見えないほど高く、壁というより発光する曲面で囲まれている。白。白。白。どこを見ても白くて明るくて、不安になる。
この白さ、たぶん入院先の天井より怖い
無機質な建物の内部なのに、空気は妙に清浄で、床に立つ自分の靴音さえ吸い込まれていくようだった。耳を澄ませば、小さく反響する人々の声。
――人?
数十人はいる。全員、若い。制服の高校生に、大学生くらいの私服姿。ざっくり見て、年齢層は十代後半から二十代前半。どうやら自分と同じタイミングでこの場所に“現れた”らしい。
友達同士なのか、グループで固まってざわざわしている。スマホを掲げて「電波ねぇ!」とか騒いでる男子。肩をすくめて笑い合う女子。突然の非日常に、混乱よりもワクワクが勝っているようだった。
「どこだここ!? え、なに!? イベント? マジで!?」
「ワンチャン、これ転送魔法とかじゃね?」
落ち着け。そうだ、深呼吸だ
思考を整理しようと試みるも、頭の奥が妙に冷えていて、焦りや恐怖といったものが浮かんでこない。ただ静かに「これは現実だ」と脳が認識しているだけだった。
いや、どう見ても現実じゃないが
少なくとも、目覚まし止めて二度寝した末路としてはハイファンタジーすぎる
俺は、口を閉ざしたまま立ちすくんでいた。
誰とも話さず、誰にも話しかけられず。
この空間に“属していない”ことを、言葉を使わずに証明していた。
にしても、テンション高いな。みんな
知らない場所に飛ばされて第一声が「すげぇ!」って……脳にバグでも起きたか?
ああ、なるほど。これが“主人公属性”ってやつか
まるで自分だけ、劇の台本を渡されていない観客だった。
世界が勝手に進んでいくなか、ただ傍観している――そんな心地。
誰かが「これ、夢?」と聞き、誰かが「いや、これは始まったな」と叫ぶ。
始まったのか……? 俺の人生、いつ終わったっけ