説教とヨゼフ爺の謝罪
……はい、ただいま絶賛お叱り中でございます。
俺とシオンは姿勢を正して、ヨゼフ爺の言葉に耳を傾ける。
「もう一度言いますが、お二人の勝手な行動が皆にどれだけの迷惑と心配をかけるかお分かりでしょうか?」
「はい……ごめんなさい」
まずは、ヨゼフ爺には二週間後に到着すると伝わっていたこと。
この地が危険なことはわかっていたので、父上は護衛をきちんとつける予定だったこと。
なのに俺が勝手に出て行ったら、みんなが混乱するだろうと……はい、至極まともな意見です。
「それによって、貴方様が倒れる事態になったのですよ」
「わ、私が悪いのです! 私がしっかりしてれば……」
「シオンは悪くないよ。俺が無理を言ってシオンに連れてきてもらったんだ」
間違ってもシオンのせいにしちゃいけない。
これは俺が破滅するのを恐れて暴走した結果だ。
破滅を防ぐ前に死ぬとか笑えないよね。
「 門の前でシオン殿がエルク殿下が抱えていて、特に身分を証明できるものもない。偶然私が通りかかったからいいものの、兵士達だけでしたら不審者扱いでもおかしくありません」
「あぁー……確かに、俺って証明できる物がないや。そっか、父上の用意した馬車とかだったら王家の紋章入ってるし」
「その通りです、私はエルク殿下の顔を知っていましたから。さらには、もし仮に兵士達があなた方を捕らえでもしたら?」
「あっ……彼らが罪に問われるかも」
「そういうことです。エルク殿下、以後お気をつけください」
「はい、気をつけます」
俺は姿勢を正し、きちんと答える。
そうだ、今の俺は第二王子エルクでもあるんだ。
自分の行動が人に与える影響を忘れちゃいけない。
すると、さっきまでの厳しい表情が和らぐ。
「さて、お説教はこの辺りにいたしましょう。シオン殿から聞きました、エルク殿下が辺境を救いたいために無理をしたことを。そちらに関しては、誠に有難うございます」
「あ、頭をあげてください!」
「いえ、そういうわけには参りません。そして古い知り合いであることをいいことに殿下に説教をしたことも謝罪いたします」
……そうだった、こういう律儀というか頭の固い人だった。
でもだからこそ、祖父は信頼していたはず。
故に以前の王都でもある、この地を任せたに違いない。
「はぁ……わかったよ、ヨセフ爺。それじゃ、おあいこってことにしよう」
「ご温情に感謝いたします」
「それじゃ、硬い話はここでお終い。とりあえず、俺が領主を引き継ぐので良い?」
「はい、正式な通達はまだ来ておりませんが略式的にそうしましょう。只今を持って、領主権限をエルク殿下に譲ります」
そう言い、領主と書いている判子を渡す。
なるほど、これを押す者が領主ってことか。
細かいことは、あとでやればいい。
まずは、現状確認をしよう。
「了解。それで、領地はどんな感じ?」
「それは……街を見たシオン殿ならお分かりになるかと」
「シオン?」
「主君……都市の中は閑散としていました。人々は元気がなく、人自体も少ない印象です。それに汚れなども目立ち、あまり良い状態とは言えないかと……ヨゼフ様には申し訳ありませんが」
「いえ、シオン殿のおっしゃる通りかと。これも、私の不徳の致すところでございます。先代陛下から預かった領地を、このような形にしてしまいました……なんとお詫びすれば良いか」
そう言い、膝で拳を握りながら頭を下げる。
でも、俺としてはわかりきっていたことだ。
何せ破滅フラグが立つくらいだから、それくらいになっていてもおかしくない。
それに確信した……ヨゼフ爺でダメということは、他の誰でも無理だろう。
やっぱり、ここで反乱が起きるんだ。
「そこは謝っても仕方ないよ。当然、父上達にも責任はあるし。問題は、ここからどうすれば良いのかってこと」
「エルク殿下……まさか、本当に?」
「ヨゼフ爺、俺は本気だよ。この辺境を変える……だから、俺に力を貸して欲しい」
おそらく、本来のシナリオはこんな感じだろう。
俺は怠惰に過ごして、ヨゼフ爺に負担がかかる。
叱られても変わらない俺に、ヨゼフ爺は愛想を尽かすか、やる気を失っていく。
そこから民の反感を買ったり、税を厳しくしたりするんだ。
そして、最後には……死にたくないよぉ〜!
「なんと心強いお言葉……実は、もう諦めかけていたのです。ですが、今一度だけ老骨に鞭を打って頑張ろうと思います」
「うん、お願い。俺一人じゃ、どうにもならないからさ」
あ、あぶねぇぇぇ! やっぱりそうだったじゃん!
忠誠心が高いヨゼフ爺がこんなこと言うなんて……どうにかして領地開拓をしなきゃ。
そう——俺が破滅から逃れるために!