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エルクは思春期


その後、順調に旅を続ける。


流石は王都付近だけあって、きちんと兵士達が巡回しているようだ。


先ほどのようなイレギュラーもなく、途中にある宿を経由して街道を進んでいく。


「退屈といえば退屈だなぁ。まあ、この辺りに魔物や魔獣が出ることはまずいんだけどね」


「この辺りは商人も通りますから。ゴブリンは繁殖率が高く、流石に駆逐しきれませんが」


「あと、どれくらいで着くかな?」


「大分景色も変わってきたので、三日といったところですか。この辺りからは中継地点も減っていくので、最悪の場合野宿も覚悟してください」


「うん、わかった。まあ、シオンがいるなら野宿でも安心だ」


シオンは気配察知、動体視力、視力、聴力などに優れている。

寝ながらでも警戒できるらしく、護衛としては頼もしいかぎりだ。


「はっ、お任せを。シグルド様に鍛えてもらった成果を見せましょう」


「シグルドおじさんかぁ……元気かな?」


シグルド、それは父上の従兄弟の名前だ。

我が国最強の騎士であり、剣聖シグルドの名で通っている。

小さい頃は俺の面倒をみたり、シオンの師匠になってくれた人だ。


「今は帝国に対する警戒のため、国境にいるとか」


「そうだね、俺も一年以上会ってないかも」


「もう、そんなになりますか。次に会うときは、少しは認めてくれると嬉しいですね」


そんな会話しつつ進むと、日が暮れてくる。

こうなると、流石に移動するのは危険だ。


「どうします? ここに中継地点がありますが……急いでいけば、村くらいは発見できそうですね」


「いや、行けるところまで行こう。こうしている間にも、民は飢えているかもしれない」


「……主君」


「それに最悪、野宿でいいよ。実は、一回やってみたかったし」


「ふふ、なんというか主君らしいですね」


こういうのはずっとは嫌だけど、たまにやると楽しかったりする。

それに前世の記憶があるから、そこまで忌避感もない。


「とにかく、悪いけど急いでね」


「はっ、何があろうとも私がお守りいたします」


破滅が確定してからじゃ遅い。

というか、シナリオ通りならエルクは既に破滅だ。

ならば既に、辺境では何かが起きてるに違いない。

その後、完全に暗くなってきたので野宿をすることに。


「では、テントの準備……主君よ、動かないでください」


「何か来る感じ?」


シオンが黙って頷く。

俺は邪魔をしないように静かにしていると……ドドドドと足音がする。

すると、街道の外から大きなイノシシが走ってきた。


「主君よ、ボアーズです!」


「へぇ、あれがそうなんだ。実物を見るのは初めてだね」


 猪に似た魔獣で、作物を荒らすので危険視されている。

 その突進は人くらいなら轢き殺してしまうので、見つけ次第討伐するのが義務だ。

 ちなみに《魔獣と魔物は別物》で、区別は簡単で魔獣は魔石にならない。

 魔獣は敵でも味方でもない自然の生き物で、人類と共存する……とにかく食材確保だ!


「わっほい! 丁度いいや! シオン、今日の飯だよ!」


「はい、今度は私が行きます。でないと、私がきた意味がありません」


「うんうん、お手並み拝見しますか」


 魔力は余裕があるけど、ここは任せることにした。

 どうやら、シオンは俺の役に立たないといけないと思い込んでいるみたいだし。

奴隷だったからか、自分の存在価値というか、そういうのが必要なのかも。

今までの俺では気づかなかったけど、前世の記憶を取り戻した今ならわかる。

孤独だった者は、自分がここに居ていいという存在理由が欲しいから。


「ええ——いきますっ」


「ブルァ!」


 シオンは居合いの構えように鞘に手を置き、地を這うように駆け出した。

同時にボアーズも駆け出し、二人の距離が近づいていく。


「ブルァ!」


「遅いっ!」


 シオンとボアーズが交差して——ボアーズの首が落とされる。

居合い斬りで、すれ違い様に斬ったようだ。

その姿は、姿も相まってサムライみたいでめちゃくちゃカッコいい。

前世の記憶を取り戻したから尚更のことである。


「おおっ! かっこいい!」


「あ、ありがとうございます……何だか照れますね」


シオンはぽりぽりと頬をかいて、その姿は少し可愛らしい。

普段はクールなんだけど、褒められると弱いみたい。

……はっ! これが前世で聞いたことあるクーデレというやつか!


「なんだかんだで、戦うところを見るのは初めてだしね。たまに、おじさんとの鍛錬は見てたけど」


「まあ、主君を連れて実戦に行く機会などありませんでしたから。ですが、こうしてお役に立てたので、無駄ではなかったです」


「うんうん、頼りにしてるよ。それにしても、魔獣に魔物かぁ……」


 この世界には普通の動物はいなくて、代わりにいるのが魔獣という生き物だ。

 でっかい昆虫だったり、強い草食獣や肉食獣、人を丸呑みできる魚などがいる。

魔法や魔物がいるから、それに適応して進化したのかもしれない。

まあ、ゲーム世界のことを考えても仕方ないか。


「それで、どうします? 二人で食べきれる量ではないかと」


「確かに、大きさが1,5メートルくらいあるもんね」


「とりあえず、処理をして食べてしまいますか。時間が経つと鮮度が落ちていくので」


「うん、そうしよっか。血抜き……あっ、水魔法があるから楽か」


「ふふ、そうですね。では、私がナイフで切っていくのでお願いします」


その後、二人でボアーズを処理することになったのだが……当然、こうなる。

俺は腐っても今世は王子、前世では一般人……生の肉の処理などしたことない。


「ぎゃァァァァァ!? 血がァァァァァ!?」


「ほら! しっかり見て洗ってください!」


「だってぇぇぇ!」


「だってじゃありません!」


グロいよ!? なんか血が沢山出てくるよ!?

ゲームだったら、こう自動でできたりしないの!?

でも……今世でも前世でもこういう作業をしてくれてる人がいるから、美味しいご飯にありつけてるんだよね。


「さて、これでほとんど処理できましたね。では、仕上げに全体を洗ってくれますか?」


「ぐぬぬ……やったろうじゃんか!」


「ちょっ!? そっちは——きゃっ!?」


「あっ……おおっ」


俺が力んで放ったホース状の水魔法が、シオンにかかってしまった。

上半身が濡れて服がはり付き、何やら色気がすごいことなってます!

すると、シオンがジト目で俺を睨んでくる。


「……主君?」


「ごめんなさいぃぃ! わざとじゃないんです!」


「も、もう、仕方のない人ですね……いつまで見てるんです?」


「す、すみません! では、後はやらせていただきます!」


シオンがテントを設置し着替えてる間に、俺はいそいそとボアーズを洗っていく。


……ひとまずわかったのは、(エルク)は思春期の男の子ってことですね!



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