想定外?
風呂から出た俺は、早速シオンと合流する。
「シオン〜!」
「主君? どうかしましたか?」
「この人を連れて森に行くよ!」
「……はい?」
シオンの顔は『何言ってんだこいつ?』といった感じ。
あぁ!? どうやって説明したらいいんだ!?
ゲームの重要キャラとは言えないし!
すると、後ろからオルガさんが慌ててやってくる。
「オ、オイラがもう一度だけお願いしたんです!」
「ふむ……主君には何か私とは違うものが見えているのですね?」
「そう! きっと彼は役に立つはず!」
「エルク様……初めて会ったオイラのことを……」
違うんだ! 君を逃すと破滅が待ってるかもしれないんだ!
破滅要素は一つでも取り除かないと!
「はぁ……仕方ありませんね。とりあえず、主君の思う様にしてください。それを支えるのが、私の役目ですから」
「シオン! ありがとう!」
「シオンさん! ありがとうございます!」
その後ヨゼフ爺にも許可を取り、ユルグさんにも報告する。
すると新人の良い訓練になると言い、自分達も同行すると。
俺も確認したかったので、急遽七人で狩りに行くことになった。
そして、数時間かけて森へと到着する。
馬を小屋に預け、四方を氷の壁で囲む。
「よし、これでいいかな。暑くないし、喉が乾いたら氷を舐められるし」
「こ、こんなに魔力を使ってよろしいのですか?」
その作業を見ていたオルガさんが聞いてくる。
周りを見ると、他の人達も唖然としていた。
こういう反応にも慣れてきたなぁ。
「うん、全然減ってないから平気だよ」
「みなさん、主君の魔法に驚いていてはキリがありません。この方は色々と規格外ということを認知してください」
「……なんか、褒められてる気がしないんだけど?」
「ふふ、気のせいです」
「……まあ、いいや。確かに一々驚かれるのもあれなんで、慣れていってね」
俺の言葉に全員が頷く。
褒められるのは慣れてないし、少し照れてしまうのだ。
その後、隊列を組んで森の中に入る。
先頭からシオンと俺、オルガさん達が続き、最後尾にユルグさんがつく。
獣人族は気配察知能力が高いので、この編成となった。
「主君は、もう少し後ろでも良かったのでは?」
「そうすると、咄嗟に魔法が撃てないじゃん。俺だって、シオンを守りたいわけさ」
「そ、そうですか……それでは、よろしくお願いします」
「任せて。それに、今回はお試しでもあるから。出来るだけ、俺とシオンで片付けるよ」
「はっ、お任せください」
そして、森を進むこと数分……。
「エルクよ!」
「主君、きます!」
二人の声に俺達が臨戦態勢に入ると、すぐにゴブリンの群れが現れる。
こいつらは繁殖率が高いので、見つけ次第倒さないと。
俺は相手の数を見て、指示を出す。
「数が多いのでシオンは遊撃! 俺は魔法で数を減らす! オルガさんは俺の守り! 残りの人は一箇所に固まって来た敵を全員で仕留める! ユルグさんは全体をフォローして!」
俺の言葉に全員が頷き、行動を開始する。
シオンは俺を視界に入れつつ、敵を一刀のもとに仕留めていく。
オルガさんを除く人族は三人で固まり、近づいて来たゴブリンを一体一体確実に仕留める。
「よしよし、いい感じ」
「オ、オイラはどうしたら?」
「大丈夫、敵が来る前に俺が仕留めるから——アイスショット!」
撃ち漏らしは俺が魔法で仕留める。
そして、数分ほどで数十体いたゴブリンを殲滅した。
少し待って何もなかったので、警戒を解く。
「ふぅ、これで良いかな」
「主君、見事な指揮でしたね」
「シオンも凄かったよ」
「ふふ、ありがとうございます。ですが、あのような指揮ができたとは……」
「あぁー……」
確かに以前の俺では無理だったに違いない。
でも、前世の記憶では……うっすらだけど、俺は部下がいたはずだ。
営業部に所属して、日々残業に明け暮れていた気がする。
もしかしたら、その頃の記憶が関係してるのかも。
「いえ、何も驚かないと言ったのは私でしたね」
「はは……うん、そういうこと。さて、他のみんなもお疲れ様。初めてにしては、上手くいったんじゃないかな」
「「「ありがとうございます!!!」」」
「ふむ、オレの目から見ても悪くはなかった……やはり、人族の力は個でなく集ということか」
「うん、そうかも。人は弱いから群れるけど、その代わり力を合わせることができる」
ふと見ると、オルガさんが肩を落としていた。
「はぁ……みんなすごいや」
「オルガさん、どうしたの?」
「い、いえ、オイラは何もできなかったから……」
「初めてだし仕方ないよ。大丈夫、生きていればチャンスはいくらでもあるから。焦らず、のんびり行こう」
「エルク様……はい!」
「良い返事だね。それじゃ、先を進もう」
キャラ的に彼もきっと大器晩成型、ここはじっくり自信をつけてもらおう。
その後、再び探索を始め……ゴブリンの群れが現れる。
しかもその数は、三十を超えていた。
その中には、オークも混じっている。
「ギャ!」
「ブホッ!」
「なんか数が多くない? まだ入り口付近なんだけど?」
「確かに多いですね」
「ともかく、さっきと同じように戦おう。 俺やシオンはオークを中心に! ユルグさんも遊撃に回って!」
俺の言葉に皆が頷き、戦闘を始める。
オークは俺の魔法とシオンが倒し、ゴブリンをその他の人が倒していく。
ゴブリンはともかく、オークは弱くはない。
負けるとは思わないけど、怪我を負うこともある。
そんな中、俺たちの方にもゴブリンが迫ってきた。
「うわっ!? こっちに来ました!」
「オルガさん、落ち着いて。 迫ってきたところを槍を突けばいい」
「迫ってきたところを……こう!」
「ギャ!?」
カウンター気味に放った突きが頭に刺さり、ゴブリンが魔石となる。
「オ、オイラにもできた?」
「できたね。そうそう、それでいいと思う」
「あ、ありがとうございます!」
「それじゃ、その調子で——危ない!」
俺は咄嗟にオルガさんを突き飛ばす。
同時に、頭に鈍い痛みが走る。
「イテテッ……あれ? 血が出てるのか」
「主君!? ……貴様ァァァァ!」
視界の隅で、シオンが激昂して飛び出していくのが見える。
ふと横を見ると、オルガさんが尻餅をついてガクガクと震えていた。
「ごめんなさいごめんなさい……」
「平気だって、ちょっと血が出てるだけだから。それより、状況がわからないや」
すると、ユルグさんがやってくる。
「俺が説明しよう。どうやら、後方からコボルトが現れたようだ。その一体が、石を投げつけてきた」
「ああ、そういうことかぁ」
ゴブリンやオークは、上位種になろうと基本的に頭が悪い。
しかし犬型のコボルトは、攻撃力は低いけど頭が良い。
素早い動きと小狡さで、こちらを翻弄する魔物だ。
投石をしてきたのを、俺が食らってしまったと。
「オ、オイラのせいで……」
「いやいや、それは違うよ。俺が勝手に庇っただけだから」
「ど、どうしてオイラなんかを? それも、王族の方が……」
「特に理由はないよ。危ないなと思ったから動いただけ」
「身体が勝手に動いた……」
これに関してはキャラとか関係ない。
単純に動いちゃったなぁ……とにかく、ヒールをかけてと。
傷を癒すと、敵を殲滅させたシオンが戻ってくる。
さっきまでの怖い顔は何処へやら、オロオロと情けない顔をしていた。
こんな状況なのに、少し可笑しくなる。
「お怪我は!? あぁ、おでこから血が……ど、どうしよう?」
「落ち着いて、傷次第は塞いだし。少し頭は痛いけど、少しすれば大丈夫なはず。それより、魔石を回収しよう」
「私は側を離れませんから」
「はいはい、わかったよ」
その後、他の人達が魔石を回収するのを眺めつつ、念のために氷で頭を冷やす。
すうっと痛みが取れていき、視界がクリアになる。
頭を打ってから六時間は気をつけるって話だけど、おそらく平気かな。
「い、痛くないですか?」
「うん、平気だよ」
「わ、私がついていながら……」
「仕方ないって。ちょっと想定外だったし」
前回来た時はこうじゃなかった。
ちょっと、甘く見ていたかもしれない。
「確かに、少し変でしたね。何か……逃げてきたような」
「……それは不気味だね」
「と、ともかく、やはり私がお側にいないと……」
「それはダメ」
するとシオンが見るからにしょんぼりし、悲しい表情になる。
「やっぱり、私は役に立たないのですか……」
「ァァァ! 違うって! どうして、みんなネガティブかな! シオンには側にいて欲しいけど、遊撃が向いているんだよ。それに……ここで彼を外したら、余計に責任を感じちゃうよ」
「それはそうですが……」
「彼みたいな若者が、この先の辺境に必要なんだ。だから、怒らないであげてね?」
「……主君がそう仰るなら」
「ありがとう、シオン」
俺は久々に、隣に座るシオンの頭を撫でる。
すると、ようやく笑顔になるのだった。