勘違い発動
あらら、これは難しいかな。
見たところ、年齢は二十代中盤。
これから鍛えるとなると、中々に難しい。
今鍛錬を受けてる人達は元々経験があったり、十代が多いからなぁ。
「ゴホッゴホッ……!」
「終わりですかね?」
「そ、そんな……」
「悔しいでしょうが、気持ちだけではどうにもなりません。戦いに行くということは、相手に背中を預けることになるのですから」
その言葉に、オルガさんが下を向いて蹲ってしまう。
その姿を見ると、前世の自分の記憶を思い出した。
何をやっても上手くいかず、どうして人は出来るのに自分は出来ないんだという経験を。
それはとても辛く、胸が痛いことを。
「シオン、どうにもならない?」
「主君……物にはなるかもしれませんが、いかんせん我々には時間も余裕もありません」
「それはそうだけど……」
でも、こういった人を見捨てるのは嫌だなぁ。
できない辛さは知ってるし。
すると、オルガさんが立ち上がる。
「いえ、良いんです……どうせ、オイラなんて」
「ですが、門番としてなら良いかと。もしくは一兵卒として鍛錬をするか」
「……いえ、オイラは領主様を守れるような男になりたかったです。それこそ、騎士のような」
「そうですか……それなら仕方ありませんね」
そうして、オルガさんが背中を向けて去っていく。
騎士になりたいか……その時、俺の頭に電撃が走る。
もしや、彼は重要キャラなのでは? 実は裏設定とかあったり。
だとしたら、逃すわけにはいかない。
「ちょっと待って!」
「へっ? な、何ですか?」
「そんなに泥だらけの傷だらけで帰せないよ。ほら、こっち来て」
「主君? ……まあ、仕方ありませんね。では、参りましょう」
戸惑うオルガさんを連れて、銭湯にやってくる。
まずはヒールをかけ、風呂場に行って湯船に浸からせた。
「ヒ、ヒールをかけてもらった上にお風呂まで……すみません」
「いやいや、そこはありがとうでしょ」
「あっ、いえ、それは感謝していますが……せっかく時間を取ってもらったのに」
「あぁー、そういうことね。大丈夫、気にしない気にしない」
そのまま、二人きりの中沈黙が続く。
相手からは話さないので、俺から切り出すことにした。
「あのさ、言っちゃなんだけど、どうしてここに? 都会に行くとか、他国に行くとか考えなかったの?」
「考えなかったといえば嘘になりますが……小さい頃に、爺さんが言った言葉が忘れられなくて。わしが若い頃は、どの種族も仲が良くて平和だったって。なので、それを目指して頑張っていたんですけど……特に何もできずに腐ってました。オイラは鈍臭いし、あんまり役に立てなくて」
「でも、今は違うんでしょ?」
「は、はい! エルク殿下がきて、もう一度やる気を取り戻しました! だから、オイラも手伝いたいって思って……」
「そっか」
ふむふむ……きちんとしたバックボーンもあると。
しかも何だか、大器晩成型のキャラみたいだ。
こう、いざという時に頼りになる的な。
大魔導士ポッ◯みたいな。
「あの? 何かまずい事言いましたか?」
「いや、気にしないで」
まてよ? 彼が重要キャラだとして、エルクの元を訪ねるのがストーリーだとしたら?
当然、以前のエルクであればめんどくさいので門前払いだろう……その後、主人公に出会うパターンか!?
よくあるやつ! 役立たずだと言われてた青年が、仲間と出会って覚醒するやつ!
これは逃しちゃダメだ! 俺の破滅回避のために!
「別にいいんです、もう田舎に帰りますから」
「ダメだ!」
「へっ?」
「それでいいのかい!? 君の想いはそんなものか!?」
「そ、そりゃ、出来たら祖父の夢を叶えて……」
「なら俺に頼むといい! どうかチャンスをくださいと!」
「……お、お願いします! もう一度だけチャンスを!」
「よく言ったね。よし、後は俺に任せて」
主人公の仲間を増やさせるわけにはいかない。
そして彼が重要キャラなら、何か特別な力があるかもしれない。
どちらにしろ、破滅回避のために役立ってもらわないとね。