戦力外?
三人を連れて屋敷の外に出ると、そこには2メートル近い背の高い男性がいた。
優しそうな雰囲気と幼さが残る容姿だが、金髪を短髪でピシッとまとめ古めかしい鎧を着ている。
一見強そうに見えるが、その挙動不審な姿が何やら台無しな感じだ。
「あ、あの、オイラ、いや、私は……」
「はいはい、落ち着いて。別に言葉遣いとかは気にしないで良いから」
「へっ? ……ほんとですか?」
「うん、もちろん。罰したりしないから大丈夫」
すると、男性は少し悩み……覚悟を決めたようだ。
「あの! オイラを雇って欲しいのです!」
「雇う? ……もう少し詳しく教えてくれるかな?」
「は、はい! えっと……オイラは、この辺境の外れに住んでて……そしたら、戦える者募集って紙を見たんです」
「ふむふむ、俺が村を回った時に持っていったやつかな」
「は、はい! そうです! その時、こっそり見てて……」
「でも、その場にはいなかったよね? 一応、参加者は前に出てきてってお願いはしたんだけど」
一応、タイミング悪くいない人用に紙は置いて行った。
でも、村にいたなら彼ほどの背の高さなら覚えているはず。
「オ、オイラ、出て行こうとしたんです……でも、みんなに役立たずだからお前は来るなって」
「へぇ、それはそれは……困るなぁ」
「い、いえ! オイラが悪いんです! 村でも鈍臭くて役立たずで……こんな図体してるのに臆病だし」
「でも、こうして来たわけでしょ? だったら、勇気があると思うよ」
見たところ一人で来てるし、領主の館に来るなんて緊張したに決まってる。
もし俺が彼の立場だったら、怖くてその場で去っていたかもしれない。
「へっ? オ、オイラが? ……そんなこと言われたの初めてだ」
「主君、少し良いですか? 内情も大事ですが、まずは戦えるかどうかです」
「まあ、戦士募集を志望だからね。あっ、名前聞いてなかったや」
「オルガと言います!」
「オルガさんね。今すぐにでも模擬戦はできるかな?」
「は、はい! 体力だけは自信あるので!」
「おっけー。それじゃ、場所を変えようか」
アルルとヨゼフ爺を屋敷に残し、シオンを連れて場所を移動する。
もう人が住んでいない都市の外れ、そこでは人々が鍛錬をしていた。
ここでは普段、シオンやユルグさんが戦い方を指導している場所だ。
すると、ちょうど指導中だったユルグさんが俺たちに気づく。
「エルク? どうしたのだ?」
「ユルグさん、お疲れ様。戦士希望者が訪ねてきたから連れて来たんだ。少し場所を借りて良い?」
「ああ、無論だ」
許可を得たので、少し離れた場所に移動する。
その間、ずっとオルガさんはガチガチになっていた。
「オルガさん」
「はひぃ!?」
「大丈夫、怪我したとしても俺が治すからね。それじゃ、シオンよろしく」
「はい、お任せください」
シオンが前に出ると、オルガさんがぽかんとしていた。
「へっ? さ、さっきの人ではなく、女性と戦うのですか?」
「……不服ですか? 女性だからと舐めてると?」
「ち、違います! ただ、母ちゃんに女性に乱暴を働くなって……」
「なるほど、優しいお母様なのですね。ただ、戦いに男も女も関係ありません。手加減など考えずに、本気でやってください。私は木刀を持ちますので、そこにあるお好きな武器を使ってください」
オルガさんが俺の方を見るので、コクリと頷く。
すると覚悟が決まったのか、近くに置いている棍棒を手に取った。
「さあ、いつでもどうぞ」
「い、行きます——はぁ!」
「遅いです——セァ!」
「うっ!?」
オルガさんが棍棒を突いたが、あっさりシオンに躱された。
そして懐に入られ、肩に一撃をもらう。
でも、倒れるようなことはない。
「なるほど、頑丈ではありそうですね」
「あ、ありがとうございます」
「ですが、それだけでは戦いは出来ません。さあ、どんどんかかって来なさい」
「は、はいっ!」
そうして、オルガさんが攻撃をしていくが……その全てがシオンに躱された。
その度に木刀で打たれ、あちこちが腫れ上がっていく。
次第に動きが鈍くなり、膝をついてしまう。
どうやら、本当に戦いは得意ではないらしい。