あぁ〜…….
その後、アメリアが泣き止む。
目をゴシゴシさせ、見事に真っ赤である。
「……恥ずかしいわ」
「大丈夫、気にしない気にしない」
「あ、あの、お金くれるってほんと?」
「うん、もちろん」
「お母さん! やったぁ! これでわたしも役に立てるよ!」
「も、もう、この子ったら……ありがとう」
アメリアが、ずっと後ろで見守っていた母親に抱きつく。
俺も近づくと、母親が頭を下げる。
「エルク様もありがとうございます。これで私や息子、そして娘も救われました」
「いえいえ、俺は助言しただけですから。詳しい値段とか、お仕事の時間とかは後にしましょう。それよりも……風呂に入りたい!」
「ふぇ? ……変な人」
「ふふ、ダメですよ」
すると、後ろから軽く頭を叩かれる。
振り返ると、そこにはため息をついたシオンが。
「何するのさ?」
「はぁ、いいシーンが台無しですよ」
「いや、だってぇぇ……」
「全く、情けない声をあげないでください」
「とにかく、風呂風呂〜!」
「はいはい、わかりましたよ」
そうと決まれば、早速行動開始だ。
俺は一番風呂に入るべく、準備をする。
まずは住民達にも知らせ、噴水広場前に集めた。
そして説明をした後、とあることに気づく。
「ヨゼフ爺! 大変! 脱衣所がないよ!」
「そういえばそうでしたな。浴場として役目がなくなった時に、脱衣所だけは撤去させましたから」
「そういや、洗い場とかもないや……まあ、今回は仕方ないか」
やはり、きちんとした風呂場を作るにはドワーフの力が必要だ。
本当はアレ……酒でも作って持っていけばいいと思うんだけど。
ただあれは、素人の俺が作るにしても時間がかかる。
もう少しすぐに用意できて、彼らの気をひくものがあればいいのに。
「エルク殿下?」
「あぁ、ごめんなさい。とりあえず、簡易的カーテンで代用しようか」
「それならば、治療の為に使っていたものがございますな」
「んじゃ、それを使って入ろ。一番風呂は俺とヨゼフ爺、あとはユルグさんにしようか」
「いえ、私などは……」
「だーめ、今まで頑張ってきたのはヨゼフ爺なんだから。ほら、後ろを見てごらん」
振り返ると、住民達がしきりに頷いている。
今まで彼らを守ってきたのはヨゼフ爺なんだから当然だ。
俺はただ、後からやってきたに過ぎない。
きっとヨゼフ爺が味方になってくれなければ、住民も味方にはなってくれなかった。
「……では、有り難く使わせて頂きます」
「ヨゼフ殿はいいとして、オレは何故だ?」
「だって、領民のために獲物を獲ってきてくれるから。この十日間で、大分血色が良くなってきたって聞いたよ」
「しかし、オレは……」
「何より、モウルを持ってきた功績はでかいよ」
そう、この十日の間にモウルを都市に移動させた。
俺と一緒の方が、彼らも生活しやすいから。
当然村の人々には了承を得て、こちらの都市に来てもらっている。
「……まあ、皆が言うなら仕方ない」
「しかし、このお二人はともかく……主君は?」
「それは俺が風呂が大好きだからです! あと、俺だって頑張ってるし!」
「ふふ、冗談ですよ。では、後は男性陣と女性陣で時間を分けましょう」
そうして打ち合わせを済ませ、俺たち三人は着替えを済ませて早速風呂に入る。
直前にアメリアに温め直してもらったので、丁度いい湯加減だ。
「「「あぁ〜」」」
「しみるなぁ……」
「これはこれは、いいものですな」
「ふむ、悪くない」
同じように声を出し、それぞれお風呂を堪能する。
「いやー、これは便利だなぁ」
「そうですな。他の使い道についても考えて良いかと」
「アルルとも仲良くしてくれそうで助かる」
「うんうん、でも今は……」
「「「あぁ〜………」」」
その後は男三人、ただただ無言で湯に浸かる。
それがなんだか心地いい……うん、これが本来のお風呂というものだ。