ステラ視点
エルク様が旅立って数日後、お城の中では会議が開かれました。
私……ステラ-イチイバルも、宰相であるお父様に頼みこんで王城にいました。
でも流石に参加は出来ず、与えられた部屋で待機することに。
「エルク様……エルク様……ふふふ」
「これ、何を不気味につぶやいている」
「お父様!」
振り返ると、扉の前にはお父様がいた。
私は居ても立っても居られず、すぐに駆け寄る。
「落ち着きなさい、ステラ。淑女たるもの、常にお淑やかに……まあ、母さんに似たから仕方ないか」
「だって、エルク様のお話ですもの!」
そう、今回の緊急会議のお題はエルク様だ。
護衛を置いて勝手に出て行ったことで、お城内は騒然となった。
そして、おそらくシオンを連れて出て行ったであろうと。
「まあ、とりあえず座りなさい」
「は、はい!」
ひとまずソファーに座り、お茶を飲んで心を落ち着かせます。
「そ、それで……」
「うむ。まずは事実から言おう……エルク王子は辺境を救いに行ったとか」
「ほ、ほんとですの?」
「うむ、私にも信じ難いことではあるが。なんでも、メイドがそのような話をしているのを聞いたとか」
私達が疑問に思うのも無理はない。
エルク様は普段ダラダラしてて、そんなことを言ったことはないから。
「それで、急いで辺境に?」
「ああ、そういう結論に至った。シオンが出て行ったのは門番が確認しているので、間違いないだろうと。そして、エルク王子の手紙には自分が頼んだからシオンを叱らないでくれと」
「ふふ、その辺りは相変わらずですの」
エルク様は自分にも甘いですが、それ以上に他人に甘いお方。
メイドや兵士が何か粗相をしても、決して声を荒げたり怒ったりはしませんでした。
私の知る限り、身分を傘にきて偉そうな態度は取ったことはありません。
「……お前は、相変わらずエルク王子が好きなのか?」
「ふえっ!? い、いつ、私が好きだと言いましたか!?」
「はぁ……何も自堕落王子でなくともいいではないか」
お父様の、エルク様に対しての評価は低い。
確かにお勉強やお稽古はサボってばかりで、いつもダラダラしてましたけど。
それでも、私は良いところを沢山知ってます。
いざという時は、行動力があることも。
「むぅ……お父様、エルク様にだって良いところはありますの」
「それはなんだ?」
「その……私を悪く言ったことがないのです。この闇魔法のことや、女性なのに馬や弓をやることも」
黒髪と闇魔法はあまり良い印象がなく、私は同世代の方々から避けられていました。
しかも、髪質はサラサラではなく量が多い癖っ毛。
ですが、エルク様だけは初めて会った時に黒髪綺麗だねって。
「確かに、見た目や性別で差別しないのは良い点だ。しかし、自堕落が全てを台無しにしていた」
「それですが……自堕落なフリだったとしたら? だって、自ら辺境に行くって」
「まさしく、今回の議題はそれだったのだ。エルク王子が敢えて演じていたとしたら? そして、それはなんのために?」
「確かにそうですわ……エルク様はもしや、辺境を元々救いに行こうとしていたのでは?」
エルク様は確かに怠惰ですが、元々お優しい方ですの。
辛い生活を送る方々のことを思いやっても不思議ではありません。
「ふむ、その話も出た。それこそ、親交が深いシグルド様が仰ったよ。王太子の結婚が決まったから、それを受け入れたんじゃないかって。もう自分の役目は終わったから好きにすると」
「やはり、そうですか」
「とりあえず、ここで話していてもらちが明かないという結論に至った。故に、辺境に向けて使節団を派遣することになった。代表はシグルド様で、元々エルク様を送るはずだった護衛達を連れてな」
「お父様……私もその視察団に入れてください!」
私はテーブルに身を乗り出し、真剣にお父様を見つめる。
ここで待っててって言ってたけど、じっとしていられない。
私だってエルク様のお役に立ちたい。
もちろん、簡単に許されるとは思ってません。
嫁入り前の娘ですし、危険な地でもありますから。
「そういうと思ったぞ。私としては反対なのだが……」
「お父様?」
私が疑問に思っていると、再び扉が開く。
入ってきたのは、陛下の従兄弟であるシグルド様だった。
「シグルド様!」
「ステラ、久しぶりだな。益々エミリアに似て綺麗になったな」
「ふふ、ありがとうございます。それで、どうしたのですか?」
「悪いが外で話は聞いていた。ネイル、良いな?」
シグルド様の言葉に、お父様が息を吐く。
「……ええ、許可します」
「え、えっと?」
「俺が本人が行きたいなら行かせてやれと頼んでおいた。もう成人したし、これ以上は過保護を超えて干渉になるぞとな」
「……はい、わかっております。ステラ、お前の好きにしなさい」
「あ、ありがとうございます! シグルド様も!」
「なに、良いってことよ。んじゃ、俺が責任を持って送り届けるぜ」
ふふふ……これで愛しのエルク様に会えますわ。
私、待ってるだけの女性じゃありませんからね!
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