炊き出し
その後、目が覚めたアルルにも説明をする。
すると、喜んで俺のお世話係をするということだ。
まずは小綺麗にしてから、メイド服に着替えさせたはいいが……可愛い。
髪は綺麗なセミロング、耳はピンとし、お尻からはふわふわの尻尾がはみ出ている。
「お兄ちゃん! ボク頑張る!」
「ぐはっ……」
「お兄ちゃん?」
メイド服のケモ耳少女からのお兄ちゃん呼び……良き。
しかも、ボクときたもんだ。
その時、冷たい視線を感じ振り向くと……そこにはシオンとユルグさんがいた。
「……主君?」
「ふむ、預けたのは間違いだったか?」
「そ、そんなことないですって! さあ! アルル! 俺について来なさい!」
「はーい!」
元気良く手をあげるアルルをつれて、厨房に戻る。
既にスープは出来上がっていたので、早速仕上げを行う。
ヨゼフ爺がアルルに色々教えてる間に、俺はシオンと作業をする。
「うん、スープが美味しい。あとは、ここにりんご酒を足すかな」
「お酒を足すのですか?」
「うん、甘みと深みが出て美味しくなるよ」
本当はたっぷりのバターとか使いたい。
バターなどは高級品だし、そもそも冷蔵庫がない世界だから保存も難しい。
逆に暑くても日持ちする方法や、お酒などは割と進んでいる。
「へぇ、そうなのですね」
「そうそう、楽しみにしてて……よし、完成だ」
りんご酒を入れてアルコールを飛ばし、最後に貰った牛乳を足す。
少しやり方は違うが、クリームシチューの完成だ。
皆に協力してもらい、噴水広場に次々と鍋を持って行ってもらう。
「さあ、私達も行きましょう」
「だね、お腹減ったし」
「ふふ、仕方のない方で……はっ!?」
言葉の途中で、クルルーという可愛らしい音がした。
そして、しまったという表情のシオンと目が合う。
「「……」」
「なんだよ、シオンだってお腹空いてるじゃん」
「くぅ……私としたことが」
「ほら、早く行こうよ」
悔しそうにするシオンを可愛らしいと思いつつ、俺達も噴水広場に向かう。
俺達が噴水広場にくると、そこには住民達が押し寄せていた。
すると、俺達に気づいたヨゼフ爺がやってくる。
「エルク殿下、お待ちしておりました」
「うん、お待たせ。ヨゼフ爺、ここにいる人達で全員かな?」
「動けない者などや、家を離れられない者などを除いてきております。元々は数万人が暮らす都市でしたが、縮小を繰り返して今では千人程度しかおりません」
「なるほど……それくらいなら量は足りそうかな」
本来ならうさぎは食うところが少ないけど、あのデビルラビットは別だ。
軽く見積もっても、二百キロの肉はあったはずだ。
一人当たり二百グラムもあれば、パンや野菜もあるし平気だろう。
「はい、仰る通りでございます」
「なら良かった。それじゃ、ここにいない人達には……」
「あの!」
「ん? ……どうしたのかな?」
振り返ると、小さな男の子が俺を見上げていた。
洋服や肌もボロボロだが、その目は俺を真っ直ぐに見つめている。
俺は怖がらせないように、膝を折って視線を合わせる。
「えっと……その……」
「も、申し訳ありません! ダメでしょ! 相手は王子様なのよ!」
「だ、だってぇぇ……」
「すみませんでした! どうかお許しください……私はどうなっても良いので」
母親らしき人がやってきて男の子を叱りつけ、俺に向かって頭を下げてきた。
……そういや、俺って王子だったね。
気を抜くと忘れそうになるけど、不敬に値するのか。
「お母さん、平気ですよ。別に何もされてませんから。それより、男の子と話しても良いかな?」
「大丈夫ですよ、エルク殿下はお優しい方ですから」
「は、はい……」
ヨゼフ爺に言われ、母親が一歩下がる。
俺は改めて、男の子と向き合う。
「えっと……僕たちにも、ただでご飯くれるって聞いたんだ」
「そうだね」
「どうしてそんなことするの?」
「難しい質問だね。どうしてそう思うの?」
俺の問いに、男の子が目を伏せる。
急かさないように、じっと待つと……口を開く。
「お、大人の人達が、何か魂胆があるに違いないって。恩を着せて、私達に何かさせるなんじゃないかって」
「あぁー……」
ふと母親を見ると、顔が真っ青になっていく。
きっと子供だからと聞かせても問題ないと思ったのだろう。
しかし、それは無理もないことだ。
俺も嫌というほど知っているが、無償の奉仕ほど怖いものはない。
「そうだね、魂胆はあるよ」
「そ、そうなの?」
「そう、君達には元気になって俺のために働いてもらう。そのためには、一杯食べてもらわないと」
そうすれば反乱が起きても、俺のことを守ってくれるかもしれないし。
それに領地開拓する為には、若い子達が成長しないとだめだ。
そう、全ては俺の破滅回避のために。
「……働いたら僕でも食べさせてくれる?」
「ああ、もちろんさ。君だと主に雑用になるかな。ただ、どうして働きたいの?」
「お母さん、一人で僕と弟を育ててる……お父さん、狩りに行って死んじゃったんだ」
……やはり、男手不足は深刻か。
人が足りないから無理をして、更に人を減らすという悪循環だ。
それに栄養不足で亡くなる子供もいるだろう。
「わかった。それじゃ、何か仕事が欲しければ俺の所に尋ねるといいよ」
「えっ!? いいの!?」
「甘くはしないけどね。それに、君が特別ではなくて他の子達も同じようにするし……それでも良いかな?」
「ありがとう! お母さん! このお兄ちゃん良い人だよ!」
そう言い、下を向いている母親に抱きつく。
すると、母親がようやく顔を上げる。
「あ、あの……」
「大丈夫、その気持ちは当然の話だよ。今まで放置してきた王族が、いきなりやってきたんだから。ひとまず、無体なことはしないと約束するからさ」
「は、はい! 失礼いたします!」
そして、男の子を連れて下がっていった。
周りを見ると、その光景を見ていた人々が反応する。
「おおっ……なんと慈悲深い」
「これは信用しても良いのでは?」
「いや、しかし……」
そんな声があちらこちらから聞こえてくる。
まだ来たばかりだし、全ての人の信用を得るのは難しい。
こればっかりは、少しずつ時間をかけていくしかないかな。
すると、ユルグさんが広場の中心に立つ。
「あれってユルグじゃ?」
「ほんとだわ、帰ってきたのかしら」
「皆の者、久しいな! エルクは、アルルを無償で助けた上にオレの傷も癒してくれた。おまけに、村に食料まで……しかも、我々に気を遣わせないように領主だと名乗ることなく。オレは今一度だけ、領主を信じることにした! どうか、オレに免じてお主達も一度でいいから信じてほしい!」
そう言い頭を下げるユルグさんに、疑っていた一部の住民達が顔を見合わせる。
「ど、どうする?」
「しかし、あの誇り高いユルグが言うってことは……」
「確かに古傷も治ってるみたいだし、他の人達もいい人だって言ってた」
そして意見がまとまったのか、彼らがコクリと頷いた。
それを見て、ユルグさんが俺の所に戻ってくる。
「ユルグさん、ありがとね」
「オレは事実を述べたに過ぎない」
どうやら、ユルグさんは信頼がある人だったらしい。
これは嬉しい誤算だね……いやー、本当に助けて良かった。
もしや、ゲーム上でかなりの重要キャラだったのかもしれない。
というか、本来なら反乱軍の指揮官とかになってもおかしくないとか……ひぇ。
「どうした? そんなにブルブルと震えて」
「い、いやー、ユルグさんが味方で良かったなぁと」
「ふんっ、煽てても何も出ないぞ。さて、後はお主の仕事だ」
「は、はーい!」
いけない! 好感度が下がらないように頑張らねば!
その後、兵士さんに手伝ってもらい、器を持ってきた人々の列ができる。
その器によそったシチューを入れ、持って帰るなりその場で食べるなり自由にしてもらう。
「美味しい……! お父さん! お母さん! お肉柔らかくてすごいね!」
「ああ! そうだな!」
「グスッ……ええ、そうね」
そんな光景があちらこちらで見れる。
それを見ていると、俺の心にじんわりと暖かいモノが溢れてくる。
全てを配り終え、俺達もベンチに座って食事を取ることにした。
「いただきます! はむっ……おおっ、肉が口の中でほどける! 何より、牛乳でクリーミーなのが良いね」
「では私もいただきます……あっ、コクがあって美味しいです。少し懐かしくもあり、新しい味わいですね」
「ふふふ、これが素材を活かすってやつさ」
骨ごと入れてるから肉の出汁が出てるし、野菜の出汁もある。
そこに調味料を加えて、うまく調和を図ると料理は美味しくなるのだ。
バターやルウがなくても、やり方次第だ。
「それこそ、人と同じですか?」
「そそっ、適材適所ってね。才能がなくても、意外なところで役に立ったり」
「では、そういった者を探さないとですね」
「そういうこと」
そのためには領民の信用を得て、情報収集していかないと。
それこそ、主人公を早く見つけなきゃ。
「では、私もお手伝いしましょう」
「うん、よろしくね。さて……んじゃ、景気よく行きますか!」
ベンチから起き上がり、俺は噴水の前に立つ。
「みなさーん! これから辺境を開拓していくつもりなのでよろしく!」
「ついていきますぜ!」
「我々も頑張ります!」
俺の声に、そんな声が聞こえてくる。
ふふふ、君達には俺の破滅回避のを手伝ってもらうからね。
そして、注目が集まったことを確認し……特大の水魔法を放つ。
「それじゃ、今日という日の記念に……水の滝よ降り注げ——アクアフォール!」
噴水の頭上に水の滝が現れ、また少しだけ濁っていた水を押し出していく。
そのまま滝は流れ続け……次の瞬間、空に虹がかかった。
それを見て、皆が更に笑顔になっていく。
さて……破滅回避にまた一歩近づいたかな?
この調子で頑張るとしますか!




