全てが勘違いというわけでもない
まずは、少し整理をしよう。
記憶を取り戻したとはいえ、俺の頭も混乱しているし。
「とりあえず、前世の俺は死んだということだよね。理由とか……やめやめ、そんなこと思い出したくもない。どうせ、ろくでもない理由だろうし」
ひとまず、前世の俺は死んだということでいいや。
……軽い? でも、実感がないし仕方がない。
それに天涯孤独の身だったし、別に誰も困らないだろう。
「自分で言ってて悲しくなってきた……ただ、今世は家族がいる」
母親は俺が幼い頃に亡くなっていて、異母兄と異母姉の二人がいる。
母親が違うからか、そんなに関わることはない。
別に嫌われてるとかではなく、単純に関わることが少ない。
……というか、俺が仕事しないから。
「それに対してはみんな諦めてるけど……」
でも、それと民の感情は別だろう。
多分、俺に対して良い印象を持っていない。
……あっ、それも繋がるかな?
「もし俺が殺されたら、流石に父上達は許しはしないだろう」
主人公を許しはしない、そしたら引くに引けずに戦争になったり。
うん、物語的にめちゃくちゃありそう。
父上達だって無為に過ごしいるわけじゃないし、正義はどちらにもあったみたいな。
「ということは、俺は益々死んじゃいけないね。それこそ、ステラとかも」
ステラは闇魔法という珍しい属性魔法の使い手だ。
なんか、いかにも悪役側の魔法だね。
俺が殺されたら、ステラは病んでしまいそう。
というか、主人公を殺しにかかるだろう……うん、益々俺が悪役転生っぽい。
「あの子は俺に依存してるしなぁ……後もう一人、許さない人がいるか」
「起きたと知らせを受けてみれば……何を騒いでいるのですか?」
振り返ると、そこには侍のような格好をした美少女がいた。
身長は俺より少し高くモデルのような体型で、目鼻立ちがしっかりした美人さんだ。
長い銀髪をポニーテールにし、腰には刀がありと……一部の性癖を押し込めたような容姿だ。
「あっ、シオン」
「主君よ……どうしたんです? そんなに見つめて」
「えっ、いや、綺麗だなって」
「な、なっ……」
こんな美人さん、前世では見たことない。
ちなみに、俺の護衛役兼お世話係でもある。
確か奴隷として売られているのを俺が買い取ったんだ。
それに恩義を感じ、五年前から現在に至るまで側にいる。
「シオンも許さないだろうし……うんうん、闇落ちしそう」
「……大丈夫ですか?」
「そうだ! 大丈夫じゃない! 助けてシオエモン!」
「なんですか、それは。やはり、打ち所が悪かったでしょうか……というより私のせいですね。すみません、護衛失格です」
すると、あからさまにしょんぼりしてしまう。
シオンは責任感も強いので、俺はわざと大袈裟な仕草で伝える。
「いやいや。兄さんに呼ばれた後、勝手に動いた俺が悪かったし。それに、運んでくれたのはシオンだろうし」
「それもそうですね」
「ちょっと?」
「ふふ、冗談ですよ」
そう言い、口元を押さえて微笑む。
その仕草は格好も相まって、とても似合っている。
この子もエルクの側にいてくれた大事な子なので死なせたくないや。
「さて、俺の話は聞いたかな?」
「ええ、辺境に飛ばされるいうことは……言っておきますが、私はついていきますから。置いて行ったら、承知しません」
「……わかったよ。それじゃ、シオンにはついてきてもらう」
俺がそう言うと、ホッとした表情を浮かべた。
俺が悪役王子だとしたら、本当は置いていったほうが良いかもしれない。
俺のために、この子を危険な目には合わせたくない。
ただステラと違って、シオンは実力的に一人でも辺境に来てしまう。
「話をまとめると……辺境開拓をすれば全てが解決するってことか」
「なんの話です?」
「シオン、俺は辺境を変えるよ」
俺の破滅、家族達の破滅、大事な二人の破滅、これらは全て辺境に繋がってる。
ならば主人公が反乱を起こす前に救い、辺境を住みやすくしてしまえばいい。
そして俺が殺されさえしなければ、物語が進むことはないはず。
「……いよいよなのですね」
「ん? どうしたの?」
「いえ、私の目に狂いはなかったと——主君よ、我が命を懸けて貴方の願いを叶えましょう」
そう言い、片膝をついて騎士の礼をとる。
それはとても綺麗で、思わず見とれてしまうほどだ。
そしてとあることに気づく。
シオンの強さは、我が国最強の騎士シグルドおじさんが認めるほどだ。
それがいくら主人公とはいえ、そうそう負けるとは思えない。
もしかしたら、あまりに俺が怠惰なので忠誠心が下がっていたのかもしれない。
というか、それが普通だろう。
「シオン! 見捨てないでぇぇぇ!」
「はい? 今、改めて忠誠を誓ったばかりなのですが……ふふ、相変わらず変な方ですね」
「そ、そうだった……それなら俺も頑張らないとね。シオン、これからもよろしく」
「はっ、我が主君よ」
すると、嬉しそうに微笑む。
こりゃ、見捨てられないためにも頑張らないといけないや。
俺はシオンが後で怒られないように、手紙を用意しておくのだった。